福田康夫首相(71)は26日、参院の与党過半数割れという安倍晋三前首相(53)の負の遺産を抱え、「背水の陣内閣」(福田氏)を正式発足させた。自民党執行部には海千山千の顔ぶれが並んだが、「チーム安倍」の欠点だった経験不足を補う効果はあるだろう。だが、自民党総裁選での福田首相と麻生太郎前幹事長(67)の論戦を見る限り、両氏どちらからも「首相として、これを成し遂げたい」という政策面での明確なメッセージが伝わって来なかった。これでは、次の衆院解散・総選挙は「政権交代の是非(ぜひ)」が最大の争点になり、野党・民主党はとてつもないアドバンテージを得る。与野党が入れ替わる本当の政権交代の跫音(あしおと)が聞こえてきたように思えてならない。

波紋呼ぶ世論調査

 福田自民党総裁が誕生した23日の朝、フジテレビ番組「報道2001」が報じた世論調査(20日、首都圏成人男女 500人)が永田町で注目されている。次の衆院選で投票したい政党は民主党が30.6%。自民党は23.2%にとどまった。しかも民主党は7日前調査より2.4ポイント増、自民党は1.4ポイント減で、党勢は逆転している。
 12日の安倍前首相の辞意表明以来、報道は自民党総裁選一色。民主党幹部が「自民党に報道を乗っ取られた」と悔しがるほどだったのに、だ。
 自民党はこれまで、政権が行き詰まると、党総裁選という政権争奪劇を国民の前で展開し、支持率を上げるとともに、国民世論の自民党政権への厳しい空気を解消してきた。
 だが、この戦術は通用しなくなってきているのではないか。
 民主党副幹事長の1人は「発足時の福田内閣の支持率が50%~60%でも怖くない。一時的なものだ。わが党有利の潮目は変わっていない」と分析する。

何をしたいのか

 福田政権はベテランが顔を並べ、安定感はある。ちなみに伊吹文明(ぶんめい)幹事長(69)は、最近の政界には珍しい保守政治思想を身につけた知識人だ。昨年2月の衆院予算委員会では、飛ぶ鳥落とす勢いの小泉純一郎首相(当時)に対し、「女系天皇」容認のための皇室典範改正強行に反対する立場から釘(くぎ)をさしている。保守層からはリベラル政策の歯止め役の期待がかかるだろう。
 安定感のほかにも、参院選大敗にはさまざまな理由があろう。ただ、6月7日付「安倍政権考(参院選、争点作りを怠ったツケ)」でも指摘したが、「郵政選挙」で大勝した小泉氏のような争点設定を安倍前首相が怠ったことが、大きな敗因となったように思える。
 国政選挙の争点設定は、与野党が必死になるべき重要事だ。ある課題を争点として定着させるには「この政治家、政党は政治生命を懸けて、この政策をやりたいのだな」と国民に納得させねばならない。
 福田首相は21日の日本記者クラブ討論会で「今回の総裁選は告示まで極めて短時間で、政策の中身を詰めよと言ってもなかなか整理はつかない」と準備不足を認めた。正直な発言だが、メッセージ伝達の絶好の機会を放棄するようなものだ。「キャラが立つ」と言われた麻生氏にしても、この点では福田首相と同様で、新聞の大見出しが踊るような政策の提示はなかった。
 状況対応型、調整型の政権運営だけでは、「政権交代」という争点を打ち出せる民主党の勢いを止めることは難しい。
(政治部 榊原智)