藤本貴之(東洋大学総合情報学部准教授、メディア学者)

「満遍なく見られていない」という事実


 先日、筆者の研究室では大学生650人を対象に、現在キー局地上波で週1回放送されている連続テレビドラマ25番組の視聴回数を調査した(東洋大学・藤本貴之研究室調べ:http://mediagong.jp/?p=9828)

 視聴率では把握しづらい大学生の現実的な「視聴回数」の実数から、大学生のテレビの視聴傾向を「テレビドラマ」を通して分析するために実施した調査。しかし、「一週間でテレビドラマを一度も見ていない」と回答した大学生がおよそ6割にも達した。

 視聴ランキングも順位こそつけられるが、その差も「誤差の範囲」といっても良い程度にしかついていなかった。いわば、「満遍なく見られていない」という事実が露呈したかたちだ。

 本来の調査目的とは異なり、結果として、視聴傾向や分析ができるようなデータになっていないほどに「視聴されていない」という結果になってしまったように思う。

 もちろん、男女比のばらつきや、大学生という限定的な世代を対象とした調査であることを考慮すれば、必ずしも我が国のテレビドラマの視聴傾向全体を示しているわけではない。ドラマの主要な視聴層である「女性」すなわち、女子大生をより多く対象としていれば、結果も少しは変わったかもしれない。

 しかしながら、それらを考慮した上でも、圧倒的に「テレビドラマ」が見られていないという事実に変わりはない。

「憧れ」を生み出したトレンディドラマ


 かつて、若者たちの流行や消費、価値観に大きな影響を与えてきたテレビドラマ。そこで扱われる商品や振る舞い、あるいは言動やファッション、時には住まいや人間観にまで、その影響は及んでいたはずなのに、だ。その面影は今回の調査からは垣間見えなかった。

 トレンディドラマ華やかりし頃の90年前後を象徴するヒットドラマの数々は、それがそのまま若者たちのライフスタイルや消費生活・価値観形成と重なっていた。若者層をターゲットにしたテレビドラマこそ、当時の若者たちを「憧れの職業」「憧れの生活」を生み出し、それが「憧れの消費」という背伸びをさせていたわけだ。

 そう考えれば、現在の日本のテレビドラマが大学生にほとんど視聴されていないという現実は、「テレビ離れ」といった、若者達のメディアへの接触傾向の変化という単純な評論には止まらない大きな問題を秘めている。

 つまり、流行が生まれない、新しい文化が浸透しない。結果として、高度な消費が誘発されない、若者消費の衰退を加速させているように思うからだ。

 もちろん、情報番組やバラエティ番組で美味しいスイーツや若者に人気のファストファッションが紹介され、それがちょっとした「行列」やブームになることはある。しかし、かつてのテレビドラマが作り出したような若者達に牽引される大きな消費にはつながらない。

 トレンディドラマ世代であれば、荒唐無稽なライフスタイルに憧れる若者達が、多くの「高度な消費」を生んできた。20代で都会の高級高層マンションに住む、毎日違ったブランドスーツで通勤する、仕事帰りにいつもの仲間と高級バーでカクテルを飲む、彼氏がスポーツカーでデートに迎えに来る・・・。

 このような所得と年齢、職業的実体を無視したライフスタイルは、テレビドラマというフィクションの世界であるからこそ成立していた。そして、子供が「ウルトラマン」に憧れるように、ドラマの中のライフスタイルに若者達が本気で憧れていたからこそ、高度な消費が誘因されていたのである。

背伸びをしなくなった若者たち


 かつて、伝説のAV監督といわれた山下浩司(バクシーシ山下)氏は、次のように述べた。

 (雑誌)『JJ』を読むこと自体がAVギャルへの第一歩なんですよ。物欲を煽るだけ煽って。手に入れる方法は買うしかないわけだから。そうすると金が必要になってくるわけで、そこでみんなAVギャルになっちゃうわけですよ。


 煽られた物欲とそこで成立するライフスタイル。そしてそこに対する「憧れ」こそが、判断を誤らせるほどの消費を若者の中に生み出してゆく。その是非はさておき、今日の若者達に、そこまでの強い物欲や消費欲、それを叶えようとする原動力となる「憧れ」は薄い。

 つまり、若者達が背伸びをしないのだ。背伸びをする対象となるイメージ、背伸びの参考となる教科書を読まないのだから当然だ。

 韓流カルチャーが、ドラマ「冬のソナタ」(韓国で2002年、日本では2003年放送)のヒットを契機として、急速に日本で受容され浸透していったように、私たちのライフスタイルの中に浸透しやすいテレビドラマのような身近で生活に密着したコンテンツから、文化そのものの受容へとつながる事例は少なくない。

 逆に言えば、テレビドラマが見られなくなる、という現実は、そのようなドラマなどのコンテンツに付随していた高度な消費のチャンスが失われる、ということをも意味しているように思う。

 もちろん、テレビ離れはドラマだけの話ではない。しかし、テレビドラマの影響力の低減は、若者層のテレビ離れと消費衰退をもっとも象徴的に表しているのではないだろうか。

 そんな、若者のテレビ離れや低視聴率の背景には何があるのだろうか?