インド洋での海上自衛隊の補給活動継続のための新テロ対策特別措置法案は23日、衆院本会議で審議入りしたが、イラク作戦への転用疑惑や守屋武昌前防衛事務次官(63)と防衛商社元幹部の癒着問題などが表面化し、行く手には暗雲がたれ込んでいる。一方で“テロ特問題”は、日本政治についていろいろなことを考えさせてくれる。

中国海軍の動向は

 海自は現テロ特措法の失効に伴い、11月に撤収する。石破茂防衛相(50)は20日夜、都内での討論会で「(補給活動を)中断したら、突然何らかの不利益が出るとは考えにくい。だが、1カ月、半年、1年でじわじわと(不利益が)出てくる。オペレーションが大事であればどこかの国が補う」と述べた。

 「じわじわと出てくる」に力点がある発言だが、「どこかの国が補う」を懸念した方がいいかもしれない。

 イラク派遣陸自先遣隊長で「ひげの佐藤」として知られる佐藤正久・現自民党参院議員(47)は、次のように指摘する。

 「もし中国海軍がこの時とばかりに、海自に代わってインド洋でプレゼンスを示そうとしたらどうなる」

 中国海軍が「テロとの戦い」に新たに参加すれば、(1)中国海軍がインド洋を大手を振って動き回れるため、中東・アフリカ原油輸入のシーレーン確保につながる(2)日米両国の離間策となる(3)2008年北京五輪、2010年上海万博をひかえ、欧米との関係安定化に寄与する-といった利益が中国にあると、佐藤氏はみる。(1)と(2)はそのまま日本の国益を損なうものだ。

 中国の補給艦派遣は「給油方式が異なるため可能性は高くない」(佐藤氏)と分かった。ただ中国海軍が、海自撤収で各国艦船の行動範囲が粗くなるのを見越してパトロールに手を挙げたらどうだろうか。

 佐藤氏は「派遣は中国とイスラム、中央アジア、ロシアとの関係など他の要因もあって一概に言えないが、国際社会にはライバルがいるとの発想がわが国には欠けている」と語る。

与野党が視野をもう一段広げる必要はないのだろうか。

自ら捨てたチャンス

 もう1つ、テイクノートしておきたいのは、補給活動継続賛成論に立つなら、反対論の民主党など野党と並び、安倍晋三前首相(53)ら改造前の安倍政権の要人らにも海自を撤収に追い込んだ政治責任があるといえる点だ。

 安倍氏は8月中に衆院でテロ対策特別措置法改正案を可決、参院へ送付させればよかったのだ。衆院で3分の2以上ある与党は、憲法59条の60日ルールによって、野党が参院で抵抗しても、派遣期限が切れる11月1日以前に改正案を衆院で再議決し、活動は継続できた。

 なぜ安倍氏はこの憲法上の仕組みを利用しなかったのか。安倍氏は9月に「職を賭(と)す」と語ったが、チャンスを自ら放棄してからの発言だった。

 安倍氏や当時の麻生太郎外相、小池百合子防衛相は8月、延期すれば済む外遊や、人事問題で貴重な日々をムダに費やした。当時の所管閣僚だった麻生、小池両氏、塩崎恭久官房長官は、なぜ安倍氏に「外遊も内閣改造も後回し。最優先で8月中に法案を通そう」と決断させなかったのか、不思議でならない。当時の中川秀直幹事長、中川昭一政調会長、二階俊博国対委員長ら自民党執行部も同様だ。これが保守政治の劣化を示すものでなければ幸いだ。

 死んだ子の齢(よわい)を数えるような話だが、安倍氏らは、迂闊(うかつ)だったか、または海自の活動継続をさほど重視していなかったか、のどちらかではないのか。違うのであれば、療養中の安倍氏はともかく、他の人々はテロ特問題でもっと汗をかいたらどうだろう。
(政治部 榊原智)