11月2日の福田康夫首相(71)と小沢一郎民主党代表(65)の党首会談は、よく分からない点が多い。小沢氏は4日の記者会見で「首相は、わが国の安全保障政策について、極めて重大な政策転換を決断された」と説明したが、首相は肯定していない。小沢氏の主張が事実で、大連立が実現していれば、私たちはまったく異なる安全保障環境に身を置くことになり、北東アジアの国際関係、わが国の国際的地位は変質していったはずだ。

首相の約束とは

 小沢氏は4日の会見で、党首会談における首相の「確約」について、次のように説明した。
 「国際平和協力に関する自衛隊の海外派遣は国連安保理もしくは国連総会の決議によって設立、あるいは認められた国連の活動に参加することに限る。特定の国の軍事作戦については支援活動をしない」((1))
 「新テロ特措法案はできれば通してほしいが、両党が連立し、新しい協力態勢を確立することを最優先と考えているので、連立が成立するならあえてこの法案の成立にこだわることはしない。福田総理は、その2点を確約された」((2))
 (1)は「国連決議中心主義」とでも呼べる小沢氏の持論そのものだ。
 福田首相は7日の衆院テロ防止特別委員会で、自衛隊の海外派遣を国連決議で認められた場合に限ると約束したか問われ、「今おっしゃった部分だけで自衛隊の海外の活動をすぐ規定するというのはなかなか難しいと思いますよ。自衛隊の海外活動にはいろいろな議論があるわけで、国会でも十分議論する必要がある。そう簡単に決めることができる問題ではないと思っております」と答えた。
 議論はしたが、約束はしていない-というところか。首相は、(2)については否定した。

国民に明確な説明を

 「国連決議中心主義」の是非は、新テロ特措法案をはるかにしのぐ重大テーマだ。
 1994年の朝鮮半島危機の際、制服組トップだった西元徹(てつ)也(や)・元統合幕僚会議議長は「国連決議に拘泥(こうでい)してはいけない。国連安保理常任理事国(米露英仏中)のうち1カ国でも国連決議へ拒否権を行使すれば、日本は国際協調行動の枠外に置かれ、国益を損なう場合もあり得る」(産経新聞17日付朝刊)と指摘する。外国に自衛隊の行動への「拒否権」を持たせていいのかとの問題意識だ。
 中国と台湾・米国の間の有事(戦争)の可能性は、残念ながら「想定の範囲内」だ。中台有事の際、中国が拒否権で国連決議を阻止するのは自明で、朝鮮半島有事でも拒否権を使うかもしれない。そのとき「国連決議中心主義」では、自衛隊は事実上動けない。
 沖縄に米軍基地がある以上、中台有事は日本有事となるのだから問題ない、との見方もあるが、すべてのケースでそう言い切れるかは疑わしい。
 わが国が中台有事や朝鮮半島有事への対応を誤れば、繁栄の基盤である日米同盟は終わりを迎えるだろう。これは、集団的自衛権の行使を認めない政府の憲法解釈に沿っても起きかねない事態だが、「国連決議中心主義」はその事態に至る決定打となる。
 中曽根康弘元首相(89)がしばしば婉曲的に説くことだが、日米同盟が必要な究極の理由は、わが国が核武装していないからだ。非核国のまま日米同盟が消えれば、わが国は中国かロシアの影響下、保護下に入ることになるだろう。「国連決議中心主義」はそのような状況に道を開きかねない。
 さらに中台有事が起きないまでも、米国はわが国を軽視し中国との“取引”重視へ舵をきるかもしれない。
 これほど重大なテーマだ。福田首相は大連立と引き換えに「国連決議中心主義」へ安保政策を大転換しようと決断したのかどうか、国民に説明すべきだ。それが民主主義の作法ではないのか。 
(政治部 榊原智)