佐々木則夫(サッカー日本女子代表監督)

なでしこ旋風再現なるか


 いよいよ今年6月から「FIFA女子ワールドカップ カナダ」(W杯)が開幕する。日本の初戦は6月9日(以降すべて日本時間)にスイス、13日にカメルーン(ともに開催地はバンクーバー)、17日にはウィニペグでエクアドルと対戦。対戦相手がすべて初出場国とあって、メディアでは比較的恵まれた組み合わせといわれているが、油断は禁物だ。
 4年前、東日本大震災に苦しむ日本に生きる勇気を与え国民栄誉賞に輝いた「なでしこジャパン」。再び、なでしこ旋風は吹くのだろうか? 彼女たちを率いるのは「ノリさん」の愛称で知られる佐々木則夫監督。日本のサッカー史上初めて"W杯連覇"に挑む指揮官に話を聞いてみた。

<聞き手:上野直彦(スポーツライター)/写真:Shu Tokonami>

「なでしこらしさ」を大事に


――W杯への新たな挑戦へ向けて、昨年(2014年)は多くの試合を経験されました。初優勝した5月のアジアカップ(ホーチミン)と秋口に開催され準優勝したアジア競技大会(仁川)。そして、10月26日・29日にW杯開催地で行なわれたカナダとの親善試合。ご自身のマネジメント力が試された1年でしたが、課題に掲げていた「ベテランと若手の融合」について手応えは感じられましたか。

佐々木 いまのなでしこには3つの層があります。2011年のドイツW杯、2012年のロンドン五輪に出場経験のあるレギュラー選手、サブの選手、それと若手選手の3つの層です。実際、いままでサブだった選手たちは、主要な大会は経験しているけど、試合に出場した場数が圧倒的に少ない。経験ある選手たちと熾烈なポジション争いができるくらいにならないといけない。次の世界大会だけではなくて、その先の未来も視野に入れるべきだからです。

 ところが、この2年間で、優勝したドイツW杯と準優勝したロンドン五輪を経験した選手たちの質に追い付いてくるだけのものが、顕著に感じられませんでした。

――ベテラン勢とサブ組とを隔てる壁がそんなに高いのですか。厳しい現状ですね。

佐々木 そこを打ち崩さなきゃいけない。でも厳しい言葉を投げかけたり、試合の映像を見せただけでは選手たちはピンときません。解決策としては経験のある選手たちとサッカーをする、ということが一番です。

――なでしこジャパンだけでなく、いまの日本の会社や組織においても同じことがいえます。

佐々木 先輩と中堅と若手のざっくばらんな雰囲気や、みんなで「こうしよう!」とお互いに声を掛けて、目標に向かっていく姿勢をつくり出すことが監督として何よりも重要なんです。サッカーの技術的な要素だけでなくて、「なでしこジャパン」がこの30数年歩んできた歴史のなかでの彼女たちのカラーを学んでほしい。そのなかで若い選手にはプラスの個になる突出した選手が出てきてくれることを期待していますね。

 「なでしこらしさ」も僕は大事にしています。

――監督が考える「なでしこらしさ」とは、どのようなものでしょうか。

佐々木 ひたむきさ、芯の強さ、それと明るさ。忍耐力もあって礼儀正しい点ですね。もし今年のW杯のメンバーに若手の選手が入ってこなくても、次の世代にこの「なでしこらしさ」は繋いでいかないといけません。もちろん今回のW杯に若い選手が何人か入ってくれたら、将来への継続的な力となる。

――若い選手の筆頭となるのは、どういった選手でしょうか。

佐々木 年齢や経験ではけっして若手ではないのですが、いつもギリギリで代表メンバーに入らない選手たちもいる。そのような選手たちが這い上がってこられるかを重要視しています。

――監督流の若手の育て方、能力の引き上げ方があれば教えてください。

佐々木 選手の能力を、監督の手腕だけで引き上げることはできません。経験値の高いベテラン選手が若手の選手たちと練習や試合中に意見を交わしたり、ピッチの外で、身なりや振る舞い、時間に対する意識などを指摘することで若手選手はどんどん成長します。だから監督ができることは、若手の選手がポテンシャルを思いきり出せるような空気をつねに設定する。これが最も大事なんです。

――選手のなかで、若手をまとめる雰囲気を醸し出している選手はいますか。

佐々木 現キャプテンの宮間あや選手(岡山湯郷)が中心になるでしょう。試練や修羅場を潜り抜けてきた選手の1人ですから。若手のときは意識が自分に向いていたころもあった彼女が、いまは若手選手たちのサポートができている。

――ベテラン勢に求める役割は、若手をケアする以外にもいろいろありそうですが。

佐々木 私の理想は、経験ある選手たちが率先して細かい部分でコーチングスタッフにアプローチしていくことです。たとえば選手間ミーティングで、僕と彼女たちのあいだで「もっとこういう場面は、こう動くべきだよね」と率直に話し合える。時間配分でいえば、僕が半分、選手たちが半分です。何でも話し合えることが、なでしこのスタイルなんです。

――企業で例えるなら、経営者と社員とが腹を割って「何でも話し合える」状態でしょうか。

佐々木 そうですね。主従関係にはけっしてなりませんし、なにより一方的なコミュニケーションにならないように気を付けています。

若手に求められる勝負強さ


――昨年のアジア競技大会では決勝戦で北朝鮮に1―3で敗れました。敗因は何でしょうか。

佐々木 前回の大会(2010年)に優勝したときと、今回の大会では「意識づけ」が全然違います。前大会では「攻守にアクションをする」ことを念頭に置いていました。

 メンバーに関しても、2008年の北京五輪以降から2011年のW杯までコアな選手はほぼ代わっていません。かつ大会中は、初めて選手の自主性を重んじました。先ほどのミーティングの話でいえば、5分の1ぐらいが監督・スタッフ主導、残りの5分の4を選手主導に切り替えたのです。

――選手の自主性を高めるミーティング方法ですね。なでしこの強さの秘密が垣間見えました。

佐々木 あと、決勝までの5試合も「練習じゃない練習」をやりました。どういうことかというと、つねに決勝トーナメントと同じような緊張状態に持ち込むようにしたのです。苦しい戦いでしたが、粘り強くやるというシチュエーションをつくりました。じつはこれは2011年W杯の決勝トーナメントという設定でした。

――なんと! すでに前年のアジア大会でドイツW杯のシミュレーションをやっていたのですか。

佐々木 ただし今大会は、若い選手、経験の浅い選手との融合の場とも位置付けました。なおかつその設定下で、連覇も果たすことがテーマでした。結果、大事な場面でのミスや守備における粘り強さのなさなどが課題であることもわかりました。勝敗に関わるところで、甘いプレーも出てしまいました。

――いまの若者特有の勝負弱さが出てしまった。

佐々木 「ここぞ」という場面での勝負強さが光るプレーは重要です。

 リズムが悪いときに自分のプレーができなくなってもいけない。相手にイニシアティブ(主導権)を握られても、自分らしいプレーを出し切る必要があります。たとえば、相手が前に来ていて「自分の位置でボールを止めていたらまずい」と思ったら、簡単にタッチして、次の準備をしたほうがいい。でも判断力の鈍さと勝負弱さが前面に出てしまうと、パスを受けた際に相手にボールを取られてしまうのです。そういった勝負勘というのは、まだまだ課題としてわれわれも取り組まなければいけないと感じています。

――般企業で働く新入社員にもよく見受けられる傾向ですね。