石井孝明(経済・環境ジャーナリスト)


 中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)の、悪しき野望がささやかれている。性能では劣るが、安価な中国製原子力発電所をアジア各国に輸出し、経済基盤を支配しようというものだ。AIIB参加に慎重な日米政府は、これを警戒しているという。原発など、エネルギー事情に詳しいジャーナリストの石井孝明氏が迫った。

 「AIIBの狙いの1つは、『赤い原子炉』を輸出するための融資体制づくりではないのか」

 アジア某国の外交官はこう語った。日本の当局者もこの疑惑を否定しなかった。中国がAIIBを使って、経済覇権をアジアで広げようとすることへの懸念が出ているが、原発が武器となる可能性があるという。

 福島第1原発事故で日本では原発への信頼は地に落ちたが、アジア各国では電力・エネルギー不足を補うため、原発の建設計画がめじろ押しだ。中国は現在、30基を運転しているが、2030年までに約140基、50年までに約500基の原子炉稼働を計画している。

 前出の外交官によれば、中国の政府関係者と原子力関係企業がアジア各国で、中国製原子炉をセールスしていることが確認されているという。

 原発は、建設に約3000億円、操作・管理・修繕を請け負えば毎年数十億円が入ってくる。エネルギーは国の基盤であり、「原発を押さえれば、その国の経済を牛耳ることができる」(外交官)というわけだ。

 日米が主導するアジア開発銀行(ADB)に、原発への融資の実績はない。新設となるAIIBは自然と、新しい取り組みである原発建設の支援に向かうとみられる。原発の建設費は巨額だが、AIIBを使えば問題は乗り越えられる。
ホワイトハウスで共同記者会見を終え、握手する安倍首相(左)とオバマ米大統領
=4月28日、ワシントン(共同)

 ただ、現時点で、中国の原子力関係企業や研究者の技術力は、日米欧の企業よりも劣るとされる。同国の十八番である工事の手抜きや、人為的ミスも心配される。

 万が一、原発事故が起これば、その被害は破滅的だが、中国製原発はとにかく安価だ。中国のSNTPCグループが5月、アルゼンチンで原子炉建設を受注したが、相場よりも1、2割程度安い値段だったもようだ。

 日本には、東芝と三菱重工、日立という原子炉を製造できる企業が3つもあり、国際的に優位性を持っている。だが、国の無策と社会の無理解ゆえ、「このままでは、日本の優位性が失われて、中国に負けてしまう。それでいいのか」(原子力関係の研究者)と懸念を示す声もある。

 一方、中国は技術力の後れを取り戻すため、日米欧の最新技術の収集に全力を挙げている。

 日米当局は、技術や情報の流出とともに、AIIBを利用した中国製原発の乱立を強く警戒しているという。

 いしい・たかあき 経済・環境ジャーナリスト。1971年、東京都生まれ。慶応大学経済学部卒。時事通信記者、経済誌記者を経て、フリーに。エネルギー、温暖化、環境問題の取材・執筆活動を行う。アゴラ研究所運営のエネルギー情報サイト「GEPR」の編集を担当。著書に「京都議定書は実現できるのか」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞)など。

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