小谷哲男(日本国際問題研究所 主任研究員)

 4月28日、日米安全保障協議委員会(「2+2」閣僚会合)がニューヨークで開かれ、新しい「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)が発表された。1997年のガイドライン改定の後、日本を取り巻く安全保障環境が大きく様変わりし、日米同盟にも変化が求められた結果である。前回の改定では朝鮮半島有事における日米協力が主な課題であったが、今回の再改定は中国が東シナ海と南シナ海で繰り返す現状変更への対応が中心的課題である。 

 新しいガイドラインのポイントは、自衛隊と米軍の運用の一体化が地理的制約なしに飛躍的に高まり、しかも常設される調整メカニズムによって、情報と情勢認識の共有と部隊運用の調整が平時から有事まで常に行われることである。このガイドラインによって、日米はより効果的に中国の挑戦に対応することができることになる。

グレーゾーン事態への効果的な対処


 中国は軍拡を続けているが、日米の軍事力に対抗できるだけの力がないことを理解している。このため、武力攻撃に至らないグレーゾーンで自らの政治的目的の達成を目指している。東シナ海や南シナ海などで中国が漁船や政府公船を他国の管轄海域に送り込んでいるのは、軍艦を使えば周辺国の自衛権発動につながるだけでなく、米軍が介入してくることを恐れているからである。

 中国のグレーゾーンでの挑戦の特徴は、相手国の管轄権を先に侵害し、相手国が過剰反応したところで、国際社会に向けて挑発してきたのは相手側だと喧伝しながら、さらに強硬なやり方で管轄権を奪う点にある。2012年に中国はこのやり方でフィリピンからスカボロー礁を奪っている。同年9月に日本政府が尖閣諸島を購入した際も、現状変更をしたのは日本政府だと非難し、領海侵入を常態化させている。アメリカはどちらの事例でも、フィリピンと日本が過剰反応しているのではないかと警戒し、同盟国であるフィリピンや日本に十分な外交上の支持を示さなかった。

米海軍の原子力空母ジョージ・ワシントン(共同)
 このため、今回のガイドラインは日米がグレーゾーン事態に効果的に対処できるようにすることが大きな課題であった。グレーゾーン事態への対処には、日米が情報と情勢認識を共有し、事態の拡大を防ぐための適切な措置を取ることが重要である。新設される同盟調整メカニズムは、平時からグレーゾーン、そして有事に至るまでこれらを可能にする。特に、東シナ海のグレーゾーン事態に日々対処しているのは海上保安庁であるため、調整メカニズムに海保の担当者を置けば、より効果的な調整が可能となるであろう。

 NATO(北大西洋条約機構)や米韓同盟と異なり、日米には連合司令部がないため、自衛隊と米軍は別々の指揮系統で動いている。だが、この常設される調整メカニズムは連合司令部に近い役割を果たすことになるであろう。今回のガイドラインは、集団的自衛権の限定行使容認を含む日本政府の閣議決定を反映し、日米の部隊運用の一体化を拡大させる。たとえば、自衛隊が収集した情報に基づいて米軍が攻撃作戦を行うことがより制約なしに行えるようになる。自衛隊が米軍の部隊や装備を防護することも一部可能となった。そして、新設される調整メカニズムが、この自衛隊と米軍の運用の一体化を裏づけるのである。

 また、この調整メカニズムを通じて、日米は「柔軟抑止選択肢」を共有することができる。これは、危機発生時にその拡大を防ぐために部隊の展開を通じて、相手側に当方の意図と決意を伝えるものである。一例を挙げれば、1996年に中国が台湾初の民主的な総統選挙を妨害するために台湾海峡でミサイル演習を行ったが、これに対してアメリカは空母を2隻台湾海峡近海に派遣し、事態の沈静化に成功した。この時は米海軍のみが展開したが、今後は日米共同で同様の対処が可能となる。

南西諸島防衛の鍵と地方自治体の協力


 新しいガイドラインでは、島嶼防衛における日米の役割分担も明確になった。これはアメリカ政府の尖閣諸島に対する防衛確約を裏づけるものだが、より広い南西諸島全体の防衛で日米が協力するという強いメッセージになる。中国が西太平洋に出るためには、特に先島諸島の周辺を通過しなければならない。島嶼防衛では、日本が主体的な作戦を行い、中国がこれらの島嶼を奪って対艦・対空ミサイルを配備したり、民間空港・港湾施設を軍事作戦に使ったりすることがないようにしなければならない。米軍は、自衛隊の作戦を補完するため、必要に応じて中国本土のミサイル基地の破壊なども行うことになるであろう。

 南西諸島防衛の鍵は、中国の精密誘導兵器の脅威に日米が有効に対処できるかどうかにかかっている。尖閣諸島または台湾をめぐって日米と中国が軍事衝突に至る場合、中国はまず弾道ミサイルで嘉手納基地や普天間飛行場、那覇基地、岩国基地、佐世保基地などを攻撃して無力化することが想定される。これらの基地は緒戦で破壊される可能性が高いのである。

 一部にはこのため沖縄の基地をグアムにまで下げるべきという意見もあるが、今回のガイドラインは既存の施設の抗たん性を向上させるため、施設・区域の日米共同使用を強化し、緊急事態に備えるため民間の空港及び港湾などの利用を進めようとしている。つまり、緒戦で既存の軍事施設が破壊されても、自衛隊と米軍は民間施設を含む代替施設を臨時に使用して反撃能力を維持し、一方で破壊された施設の復旧を行うのである。これによって抑止力を維持することが狙いである。

 もちろん、このためには、地方自治体の協力が必要で、新石垣空港や下地島空港などの緊急時の軍事使用が担保されなければならない。普天間飛行場の移設をめぐって沖縄で反基地感情が強まる中、地元の理解を得ていくことが今後の課題である。

政策と現実のギャップを埋めていく努力を


 今度のガイドラインは、中国が強硬姿勢を崩さず、岩礁の埋め立て工事を進める南シナ海における日米協力にも道を開く。中国は長距離核ミサイルを搭載した戦略原子力潜水艦の運用をまもなく南シナ海で開始する見込みである。中国がこの原潜の運用に成功すれば、中国はより残存性の高い第二撃能力を保有することになる。これによってアメリカの核の傘の信頼性が即座に揺らぐことはないが、抑止力を維持するためにはこの中国の原潜の探知が不可欠である。

 アメリカは南シナ海で潜水艦の探知を常続的に行っているが、軍事予算の削減により相当負担となっている。世界でも最高の潜水艦探知能力を持つ海上自衛隊がこの任務で協力すれば、日米同盟の抑止力を十分に維持することが可能である。

 また、中国が周辺諸国と南シナ海の領有権をめぐって軍事衝突すれば、海上優勢を維持するために機雷を敷設することが考えられる。重要な海上交通路である南シナ海に機雷が敷設されれば、日本の存立を根底から脅かす事態として認定され、集団的自衛権の限定的な行使として、海上自衛隊が米海軍などと機雷掃海に従事することも考えられる。

 以上のように、今回のガイドラインの改定によって、日米は有効に中国の挑戦に対処することができるようになる。今回のガイドラインの目的の1つが「切れ目のない対応」であるが、実際には切れ目のない対応は不可能である。様々なシナリオに基づき、同盟調整メカニズムと部隊の訓練を繰り返すことによって、政策と現実のギャップを絶え間なく埋めていく努力が必要である。