山田吉彦(東海大学教授)

沖縄に眠る海底資源


 現在、沖縄県において最も脅威となっている問題は東シナ海支配に乗り出している中国の動向であることに、翁長雄志・県知事をはじめ多くの県民は目を向けようとしていない。

6月5日、成田空港に到着した沖縄県の翁長雄志知事
 連日、沖縄県石垣市の尖閣諸島周辺には中国の大型警備船が航行し、日本の海域を脅かしているのである。

 さらに日本の沿岸警備において、新たな課題が発生している。

 近年、沖縄県沖の東シナ海では相次いで海底に鉱物資源が存在することが発見され、その開発動向が注目されている。今年1月、海上保安庁とJOGMEC(独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構)は、沖縄県久米島沖に銅、亜鉛の含有量がきわめて多い海底熱水鉱床が存在することを発表した。海底熱水鉱床とは地底のマグマが海底に湧出し、ある種の海底鉱山を形成するものである。また、一昨年は、沖縄本島の北西沖の伊是名島周辺、昨年は隣接する伊平屋島周辺にも有望な海底熱水鉱床が存在することが公表された。この2カ所の熱水鉱床は、金の含有量が地上の金山に匹敵するほど多く銀や亜鉛の含有率も高く、その開発が期待されているのだ。

  沖縄沖の海底鉱物資源に注目しているのは、わが国だけではない。昨年、中国政府は、久米島沖で日本が海底調査を行なっていることを知り、海洋調査船「科学号」により日本の排他的経済水域内において無許可の調査を強行した。排他的経済水域内での海底資源開発は、国連海洋法条約により沿岸国に独占的に認められたものであり、中国の行為は国際法に違反するものだ。このとき、中国の公船は、13日間、同海域に侵入している。

 中国は国連海洋法条約で管轄海域の境界の原則としている「中間線」を否定し、それよりはるかに日本側にある沖縄トラフまでを中国の管轄海域であると主張している。中国の主張では、東シナ海のほぼ全域が中国の海だというのだ。このとき、科学号は熱水噴出孔周辺のサンプルを採取し、科学的な分析を行なっていることが中国メディアにより報じられた。1971年に、中国が初めて尖閣諸島の領有権を主張し始めたのは、同諸島周辺に埋蔵量豊富な油田が存在する可能性が高いと公表されてからであることを忘れてはいけない。

 南シナ海におけるフィリピン、ベトナムとの紛争も海底資源開発に起因したものであり、中国の邪な欲望は、沿岸民の日常生活を脅かすものだ。沖縄県には尖閣諸島問題に加え、新たな脅威が忍び寄っているのである。

 昨年来、中国は、新たな海洋侵出の戦略を打ち出し、島に固執せず海域全体を支配する体制に転換しつつある。まず、東シナ海においては、中国のコーストガードにあたる中国海警局が、洋上基地ともなりうる大型警備船の建造を進めるとともに、尖閣諸島に約300kmの距離にある浙江省の南ジ島に海空一体となった基地造りを進めている。拠点を整備するとともに、ヘリコプターを搭載できる大型警備船を投入し、長期の運航に耐えられる外洋型艦隊の充実を進めているのだ。また、南シナ海においては、サンゴ礁を埋め立て航空機が離着陸できる滑走路を造り、広範囲な海域を監視下に置く戦略を進めている。2013年、中国は、東シナ海上空に防空識別圏を設け空からの海域管理を試みようとした。いずれ南シナ海においても東シナ海と同様に防空識別圏を設置し、島のみならず、広範囲な海洋およびその上空を掌握する動きに出ることは必至である。

海上保安庁を凌駕する中国海警局の膨張


 中国海警局は、この春、新型の大型巡視船「海警2901」を就航させる予定である。海警2901は、満載排水トン数1万2000tと日本の海上保安庁が保有する最も大きな巡視船「あきつしま」をはるかに凌駕する巨大な警備船だ。この警備船には、中国海警局がドイツのMAN社から40機の購入契約を結んだ9000kWの高出力をもつディーゼルエンジン4機が使用され4万7000馬力をもち、巨艦ながら25ノットの速力で走る。上海郊外にある中船重工江南造船所で進水時に撮影されたこの警備船の写真には、後部に広いヘリコプター甲板と格納庫が設置され、4機のヘリコプターが搭載されると考えられる。また、船首近くには巨大な砲座があり、76mm機関砲が備え付けられるのだろう。いずれにしても既存の警備船、巡視船の概念を超えた装備であり、洋上基地として使われることが予想される。中国海警局の船番の2000番台は東シナ海に配備されるものであり、海警2901はいずれ尖閣諸島沖に姿を現すことになるだろう。

 海上保安庁は、中国の侵出から日本の管轄海域を守るため、東シナ海の警備体制の拡充を進めている。2016年3月までに、尖閣諸島を中心に据えた東シナ海の警備に当たる「領海警備専従体制」を発足する予定だ。専従体制は、第11管区海上保安本部石垣海上保安部に拠点を置き、3000t級のPLH型ヘリコプター搭載型巡視船2隻とPL型1500t級巡視船10隻の計12隻で構成され、600人の海上保安官が領海警備の任務に当たる。専従体制に組み入れられる10隻の1500t級の巡視船は、すべて新造される「くにがみ型」と呼ばれる同型のもので、3月20日に就航した「ざんぱ」など、すでに4隻が配備され、残る6隻の建造が進められている。この新造船は、遠隔監視採証装置をもち、離れた場所からでも他船の動向を監視する機能をもつ。また、不測の事態に備え目標追尾能力に優れる20mm機関砲を装備している。その他、尖閣諸島に近づこうとする他国の民間船の行動を制御するために遠隔放水銃、停船命令表示装置も設置されている。

 しかし、中国海警局が東シナ海に配備している1000t以上の大型警備船は16隻であり、日本を数的に上回る。この大型警備船が、3隻から4隻で船団を組み毎日のように尖閣諸島周辺の日本の管轄海域を脅かし、海上保安庁の機先を制するように中国海警局の膨張は続いているのである。さらに中国海警局の船団の後方には、海上民兵といわれる大漁船団、そして中国海軍が控え、東シナ海はいまも緊迫した情勢なのである。海上保安庁と海上自衛隊の密な連携により、東シナ海の安全はどうにか守られている情況を沖縄県民をはじめ、多くの国民は知らない。