海上自衛隊のイージス艦「あたご」の衝突事故をめぐって、石破(いしば)茂防衛相(51)と防衛省は激しい批判を浴びている。福田康夫(ふくだ・やすお)首相(71)や石破氏は改革に乗り出したが、いずれまとまる対策は「情報連絡態勢の強化」「報道対応の集約」にとどまりそうだ。これでは事の半面への対応にしかならない。今回の事故は、海自が、「戦(いくさ)ができなくなっている」ことを露呈したのかもしれないのだ。首相はじめ与野党の政治家は、被害関係者や国民感情を慰撫(いぶ)することはもちろんだが、さらに一歩進んで、今の海自が果たして「精強な海軍」なのか-という問題意識を持った方がいい。この線で海自や海自を取り巻く環境を検証し、問題点を洗い出して対策を講じることが、国の独立と国民の安全に責任を持つ政治家がとるべき振る舞いだ。

有事に戦えるのか

 インド洋での補給活動をはじめ、海自がこれまで黙々と任務を遂行してきたことは、もっと評価されていい。今回の事故では、防衛省が海上保安庁よりも先に「あたご」士官から報告を受けたことなどを、さも問題であるかのように取り上げる理不尽な報道、批判がまかり通っているのも事実だ。
 ただそれでも、「恥ずかしい事故」(海自幹部)だったことは間違いない。
 敵性国やテロリストの自爆艇が攻撃してきたら、「あたご」はどうなったか。いざ戦争(有事)になったとき、これで大丈夫なのか。規律は緩んでいないのか。艦艇の数はそろえても、乗組員の定数を満たしていない艦がある海自は、戦時に機能するのだろうか。これらが真っ先に問われるべき事柄だ。
 情報連絡、報道対応も同様だ。陸自のイラク派遣部隊の先遣隊長だった佐藤正久(まさひさ)自民党参院議員(47)は自身のブログで「防衛省情報発信の乱れは、有事広報未検討のツケでは?」と指摘している。
 事故や災害にとどまらず、最高レベルの危機である有事に対処する体制を構築することが防衛省には求められている。ちなみに、有事に民間テレビ、新聞各社の機能が崩壊しても、防衛省・自衛隊はインターネットなどを通じて自前の有事広報を継続することを検討すべきだろう。

「防衛補佐官」創設を

 情報連絡態勢の改革では、首相官邸で首相を軍事的観点から補佐する存在が欠けていることを補おうという議論が見あたらない。
首相の身近には、高度な専門知識をもとに助言を行う将官クラスの制服組の「防衛補佐官」が控えているのが望ましい。また、財務、警察、経済産業、外務の4省庁が占める首相秘書官に防衛省も加わった方がいい。
 漁船との事故なら別だが、軍事的危機は、事態発生の報告から首相が決断を下すまで、時間的余裕が極めて限られるケースがありえる。その際、警察など他の分野の官僚だけに判断を頼ると、致命的な判断ミス、対応の遅れが生じかねない。
 また、今回の事故では、国際的には常識の軍艦優先のルールが日本にはないことが改めて指摘された。ただ、この「ハンディ」は所与(しょよ)の守るべきルールであって、海自も言い訳に使ってはいない。だが、この点は早期に改められるべきだろう。
 「沿岸警備隊」である海保が、「海軍」である海自の捜査にあたるのも、防衛秘密の観点などから問題が大きい。福田首相が2005年、自民党新憲法起草委員会の安全保障小委員長として策定にかかわった「自民党新憲法草案」は、最高裁判所傘下(さんか)の「軍事裁判所」の創設をうたった。現憲法が禁ずる特別裁判所ではないのだから、今でも「防衛刑法」とそれを運用する「防衛裁判所」の創設、自衛隊の警務隊の権限拡大はできるはずだ。
(政治部 榊原智)