与野党攻防の天王山と言われた衆院山口2区補選で、自民党は民主党に敗北した。道路問題に加え、告示日の4月15日に年金からの保険料天引きが始まった後期高齢者医療制度(長寿医療制度)への反発がダメ押しとなった。
 有権者が怒り、また、是正すべき問題点があったとはいえ、質の伴った高齢者医療と財政のバランスをとるには、この制度の導入自体は必要と思われる。
 だが、福田康夫首相(71)や地元山口の安倍晋三前首相(53)、実力者の古賀誠・党選対委員長(67)、菅義偉(すがよしひで)・党選対副委員長(59)らが総掛かりとなった選挙戦で、自民党はこの問題に触れるのをためらい、最終的に有権者の納得も得られなかった。
 国民に痛みを伴う話を受け入れるよう、説得力をもって迫れる人材が政界から払底(ふってい)しつつある。

届かぬ言葉

 4月20日、山口県下松(くだまつ)市での同補選の応援演説で、首相は次のように語った。
《お年寄りの医療はお金かかるが、若い人もせっせと支えようといっているんだから、(高齢者も)少しぐらい負担してくれてもいいじゃないのというのが今度の医療制度なんだけどね。医療制度の半分は税金です。4割は若い人が支えてくれている。(高齢者は)1割負担して下さい。いろいろ混乱があって迷惑かけたかもしれんけれども、考え方はそういうことなんです》
 批判を浴びるテーマを首相なりに説明しようとしたものだが、有権者の胸には響かず、マイナスに作用したとされる。
 筆者も税金や保険料負担増によく腹を立て、行政改革の断行を願う1人だ。だが、実は日本の国民負担率(所得に占める「税負担」と公的保険料などの「社会保障負担」の合計額の割合)は、年々増え続けているとはいっても、諸外国と比べれば高いとはいえない。
 財務省のデータだが、日本の国民負担率は2008(平成20)年度見通しで40.1%。05年実績だが、医療の国民皆保険がない米国は34.5%。また、英国48.3%、ドイツ51.7%、フランス62.2%、スウェーデン70.7%-となっている。
 年金保険料や道路特定財源その他で、ろくでもない無駄遣いが発覚し続けているが、日本政府の国民から金を取り立てる力はそれでも弱いのだ。政治家が国民に必要な負担を求めることを怠り、子や孫の世代に負担を押しつける「子孫いじめ」とも言うべき借金に逃げ込んできた証左でもある。
 財政赤字削減や高齢化に伴う社会保障費増に備えるための負担増から国民が逃げるだけでは、事態はさらに悪くなる。
 高齢者も同様だ。集団としてみれば、今の高齢者は経済的弱者とはいえない。不満を言い募る高齢者たちの孫やひ孫の世代こそ、借金の清算を迫られる本当の弱者だ。

定数削減と世襲抑制を

 問題は政治家が、国民に負担増を求める「政治指導者」としての覚悟や能力、資格を失っている点にある。
 福田首相は国家と国民のためまじめに職務に取り組んでいるもりだろう。しかし、負担を求める首相の言葉は高齢者に響かない。国民はタレント「政治家」に熱狂することもあるが、シビアに政治家を見る目を備えている。
 福田首相も安倍前首相もそうだが、自民党は二世三世の世襲議員が増えるばかりだ。たたき上げの一世のような人生経験を持たず、かといって教養、気迫、努力その他の面で国民より格段に優れているわけでもない。「政策通」はいても、官僚にまさる人は稀(まれ)だ。総じて小粒化が進んでいる。民主党にしても政権運営に十分な数の人材はそろっていないようだ。
 安倍内閣以来の宙に浮いた年金問題でも、福田内閣の後期高齢者医療制度の問題でも、政府・与党は国民感情を読み損ね、反発をくらって後手後手に回る失態をくり返している。
政治家が国民を説得する力を取り戻すには、まずは、大幅な議員定数削減という自らが痛みを感じる政治改革に着手するしかない。より根本的には、親族の地盤からの立候補を制限し、世襲議員続出を防ぐ手だてを講ずるのも一策だろう。
(政治部 榊原智)