池上彰(ジャーナリスト)


あなたが通っていた頃の学校とは大違い!?


 あなたは、「日本の教育」について、どのくらい知っていますか?

 自分が通っていた頃の学校や教育については、もちろんよく知っていると思います。

 では、最近の学校や教育についてはどうでしょう。「今も大きく違わないだろう」と思っていると、かなり様変わりしてしまっているのにきっと驚くはずです。

 たとえば小学校1年生と2年生では社会科、理科がなくなって生活科になっています。

 小学校の通知表も様変わりしました。かつては5段階評価で、「5」から「1」という数字だった学校もあれば、「たいへんよくできました」から「もっとがんばりましょう」といった文章で表現されていた学校もありました。

 親に見せたくなかった人も多いと思いますが、今の子どもたちは昔ほど気にしないかもしれません。なぜでしょう?

 現在の小学校1、2年生は「評価」が義務づけられていませんから、通知表にこうした評価がない学校もあります。3年生からは評価がつきますが、5段階よりも少ない3段階評価です。

 そして、何より違うのは、相対評価から絶対評価になっていることです。相対評価では、クラスのなかで上位数%が「5」というように、それぞれの割合が決められ相対的に評価がされていました。

 一方、絶対評価では達成基準が決められていますので、極端にいえば、クラス全員が最高の「3」をとることもできます。

 クラスの人数も少なくなりました。小学校のクラスの人数は平均28人、中学校は平均33人です。自分たちの時代と比べて、「えっ、そんなに少ないの!?」と驚いた人も多いのではないでしょうか。

 少ないのは、クラスの人数だけではありません。同学年のクラス数も少なくなっています。2クラスとか、3クラスしかなければ、クラス替えをしてもほとんどが同じメンバーということになってしまいます。

「教育委員会って何?」という質問に答えられますか


 日本の学校と教育は、戦後、少しずつ変わってきました。私は、自分が学生だったときと比較して、今のほうがよくなっている面もあると思っていますが、そう思っていない人も多くいます。

 安倍政権は、「アベノミクス」による経済再生と並ぶ最重要課題として「教育再生」を掲げています。「教育委員会制度の改正」「道徳の教科化」「6・3・3・4制の見直し」など、戦後教育の大転換といってもいいほど大きく日本の教育を変えようとしているのです。

 ただ、そのわりには、あまり注目が集まっていません。集団的自衛権の問題や原子力発電所の再稼働問題などの陰に隠れてしまっている印象です。

 しかし、教育は一国の未来を決める重要なテーマです。子どもたちが、どのような教育を受けるかによって、どのような大人になるかが決まります。子どもがいる人はもちろんですが、いない人も無関心ではいられないテーマのはずです。

 実際、日本の将来を考えるうえで、「教育が重要だ」と考えている人は多いと思います。にもかかわらず、教育改革に注目が集まらないのは、ひとえに、「わかりにくいから」ではないでしょうか。

 たとえば、「教育委員会」という名前は聞いたことがあっても、何をするための組織なのか、誰が委員なのか、何が問題で改正が迫られているのか、といったことを正しく理解している人は少ないでしょう。そもそも、戦後直後に、どういった目的で教育委員会がつくられ、どういった経緯で形骸化していったのかまで知っている人となると教育関係者に限られてしまいそうです。

教育改革は難しい


 また、教育は変えてから結果が出るまでに時間がかかります。これも、教育改革をわかりにくくする原因の1つです。「ゆとり教育によって学力が低下する」と騒がれたのは、ゆとり教育が本格的に導入される直前でした。その後、「学力が低下した」といわれるようになりました。1年や2年で結果が出るはずはないのに、何の検証もされずに新たな方向に舵が切られました。

 教育は、学校のテストのように数値化できるものばかりではありません。文部科学省は「生きる力」の育成を学校教育の主眼として掲げていますが、これなども数値化することが難しく、どんな能力を身につけることが生きる力になるのか漠然としていて、わかりにくいといえます。

 こうして、教育に関する改革は、評価もわかりにくく、得てして思い込みや印象論で語られるようになります。データにもとづかない議論は、またまた事をわかりにくくします。まさに「わかりにくいスパイラル」です。

 事実、これまでの教育改革の変遷をたどってみると、改革の結果をきちんと検証して評価することなしに、何となくつくられた「世間の空気=世論」によって教育方針が変えられてきたという側面があります。

 安倍政椎の「教育再生」も、学校現場や教育現場の検証から改革案を作成しているというよりも、思い込みや印象論にもとづいている面があるのではないでしょうか。

教育について考えることは、日本の未来を考えること


 私は、NHKの記者時代に文部省(当時)を担当していました。『週刊こどもニュース』に出演していたこともあり、学校や教育に関する問題はいつも身近な問題として考え続けてきました。

 だからといって、「こうすれば日本の学校や教育がよくなる」という解決策をもっているわけではありませんが、あなたが教育について考えるための基礎知識を提示することはできると思います。

 今の日本の教育に、どんな歴史があって、どんな問題を抱えているか、その現状をまるごと知ってもらおうと考えて、この『池上彰の「日本の教育」がよくわかる本』をまとめました。外から見ると不思議なことも多い日本の教育界について、初歩の初歩から解説してみました。

 教育は、学校と家庭だけでなく、政治や行政、メディア、地域社会など、さまざまなものと密接にからみあっています。だから、日本の教育について知ることは、日本そのものを知ることにほかなりません。

 そして、日本の教育を考えることは、これからの日本を考えることです。どんな日本をつくりたいのか。どんな日本人を育てたいのか。

 戦後、知識を大量に詰め込み、それを試験で評価する教育が行われてきました。そうした教育で育った人材が日本の高度経済成長を支えたのは事実です。開発途上国なら、今もこうした教育が有効なのかもしれません。

 しかし、日本を含めた先進国は、その次の段階にきています。「答えのある問題を正確に解ける人材」よりも、「答えのない問題に対して、自分の頭で考え、自分から行動して正解をつくりあげていく人材」が求められています。そのための教育とは、どのような教育なのでしょうか。

 日本の将来を決める教育については、国民的な議論が不可欠でしょう。安倍政権の「教育再生」を考えるためにも、基本的な知織やデータが欠かせません。本書がそれらを少しでも捷供できたなら幸いです。