中国・四川●(=さんずいに文)川(しせんぶんせん)大地震で多くの学校が倒壊し子供たちが犠牲になった衝撃はわが国にも広がり、先の通常国会で改正地震防災対策特別措置法が成立し、学校耐震化対策の強化がはかられている。だが、中身を見れば満足できるものではない。子供は「国の宝」だ。未来を担う子供のために、福田康夫首相(71)や政府、与野党は対策をさらに加速、充実させるべきだ。

耐震偽装級が続々

 学校耐震化促進の法案は、民主党が2002、06、07年の3回にわたって国会に提出したが成立しなかった経緯がある。それが中国の大地震で自民党の「公立学校施設耐震化等整備促進議員連盟」も動き、与野党が協調して成立させる運びとなった。
 町村信孝官房長官(63)は5月22日の記者会見で「(改修費を)負担できないと悲鳴が(財政難の)自治体からあがっている。中国の大地震が起きて、国民から日本の学校は大丈夫だろうかと心配の声が寄せられた」と述べ、国の負担増を表明した。
 文部科学省は6月20日、全国の公立小中高校、幼稚園の耐震改修状況調査結果を発表した。
 公立小中学校の施設(校舎、体育館)約12万7000棟の耐震化率は62.3%に過ぎず、現行の耐震基準を満たしていないか耐震診断すら行っていない施設は約4万8000棟あった。このうち岩手・宮城内陸地震でも記録された震度6強で倒壊する危険性が高いと推計される施設が1万656棟もあった。高校や幼稚園を加えればもっと多くなる。
 耐震偽装マンション級の校舎、体育館が全国に存在し、子供たちは毎日通っている。
 改正地震防災対策特措法に基づく対策は(1)地震で倒壊の危険性が高い公立小中学校、幼稚園の耐震化のため、耐震補強の国庫補助を増額し自治体負担を30%から2%へ引き下げ、国の負担を実質最大98%にする(2)私立小中学校、幼稚園の地震防災上必要な整備のため「国および自治体は、財政および金融上の配慮」をする(3)耐震診断結果の公表-が柱だ。
 渡海紀三朗(とかい・きさぶろう)文科相(60)=写真=は13日、倒壊の危険の高い約1万棟の耐震化について「原則3年を目標に取り組んでほしい」と全国の市町村に要請した。この改修だけで1兆円かかるといわれる。その大部分の負担に国が乗り出すこと自体は評価できる。

権力を使え

 だが、今回の対策には腑(ふ)に落ちない点もある。
 最悪の状態にある約1万棟の整備目標の3年間は、昨年12月の政府の「生活安全プロジェクト」の目標5年間からは短縮したものだ。だが、もっと急ぐべきではないだろうか。耐震偽装のマンションからは住民が直ちに退去している。似たような校舎に、子供たちを3年間も通わせるのか。
 しかもこれは、文科相が要請しただけで義務になっていない。公金のムダ遣いが得意技の自治体や政府は、本当に必要な学校耐震化は財政難を理由に怠けてきた。はっきり言って「目標」では信用できない。
 また、この1万棟以外の問題施設への対応は、さらに時間がかかる恐れもある。
 実態が分からない私立はどうなるのだろう。改正特措法が私立の対策への「配慮」をうたっただけで万全とは思えない。
 文科省ではなく厚生労働省管轄の保育園については改正特措法に言及すらない。私立保育園は繁華街の古い雑居ビルに入っている例も多いが、大丈夫なのか。公立に通う子も、私立に通う子も、幼稚園、保育園に通う子も命は等しく大切なはずだ。
 対策は官僚レベルの発想に止まっている。予算には制約があり求められる使途も多い。だが、政治家は限られた資源の配分に優先順位をつけるのが使命だ。国民が預けた権力を臨機に使わない政治家なら必要ない。
 首相は道路特定財源の一般財源化を表明している。これを集中的に投入し、せめて1年か1年半の間に国の責任で日本中の学校、幼稚園、保育園の耐震化を完成させたらいい。国の次代を担う子供たちが過ごす学校、幼稚園、保育園の安全のためなら、道路の新規建設の一部など一時凍結しても構わないではないか。
 万葉の歌人、山上憶良(やまのうえのおくら)は次のように歌っている。
 「銀(しろかね)も金(くがね)も玉も何せむにまされる宝子にしかめやも」
(政治部 榊原智)