紀藤正樹(弁護士)

 1997年に神戸市須磨区で起きた連続児童殺傷事件で、当時14歳だった加害男性(32)が著者名を「元少年A」として手記「絶歌」(太田出版)を出版した、とのことです。

 しかし出版社は「知る権利」を言いますが、出版社の仁義としても、事前に遺族に何ら連絡をしていなかったようです。

 これは社会の木鐸として、あまりにもヒューマ二ティのない行為だと思います。

 加害男性の非常識に手を貸す行為と思われても仕方がありません。

 当然、遺族取材をしていないわけですから、出版社として、何ら裏付け努力もしていないことは明らかです。

 仮に本の内容が虚偽で死者の名誉を傷つける部分があれば、刑法230条2項「死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。 」と言う規定上、共犯に問われる可能性すらあります。

 もちろん本の内容に、ご遺族の名誉をき損する行為が、あれば「通常の名誉棄損」のルールに基づいて、民事上も刑事上も、処断されることになると思います。



 この記事によると、「太田出版の岡聡社長は「少年犯罪の当事者が当時、どう考えていたかを社会は知るべきだ」と話した。」と言いますが、これに対し、 「次男(当時11歳)を亡くした土師(はせ)守さん(59)は手記出版について「なぜ私たちを苦しめるようなことをするのか理解できない」などとするコメントを出した。土師さんは以前から加害男性側に手記などを出版しないよう求めていたという。男性側から事前の連絡はなかったといい、「先月、彼の手紙を読み、彼なりに分析した結果をつづってもらえ、これ以上はもういいのではないかと考えていたが、手記出版は私たちの思いを踏みにじるものでした」」とのことです。

 遺族が怒るのも当然ですね。

 遺族の立場からするとこうなりますよね。自分の子どもの殺人の経緯を書かれた本を、公開されれも良いと考える遺族は、ほとんどいないと思います。

 「今回の手記出版は、そのような私たちの思いを踏みにじるものでした。結局、文字だけの謝罪であり、遺族に対して悪いことをしたという気持ちがないことが、今回の件でよく理解できました。
 もし、少しでも遺族に対して悪いことをしたという気持ちがあるのなら、今すぐに、出版を中止し、本を回収してほしいと思っています。」

=小学6年の土師淳君(=当時(11))の息子を殺された土師さんのコメント⇒神戸新聞|加害男性の手記「今すぐ出版中止を」土師さん 神戸連続殺傷事件=2015/6/10 13:01

「何事にも順序というものがあり、本来なら当事者である私たち遺族や被害者が最初に知るべき重要な事柄が、このように間接的な形で知らされたことは非常に残念に思います」⇒神戸連続児童殺傷「何のため手記出版か」彩花ちゃんの母コメント全文(神戸新聞)=2015年6月10日(水)19時16分配信
 
 こちらは娘彩花(小学4年=当時(10))ちゃんを殺されたお母さんのコメントです。

 自ら本を出す以上、少年時代の犯罪という点で、将来の更生のために与えられてきた「少年A」という「匿名」特権も許されることはないでしょう。

 逆に、表現する側の者として、著者である「元少年A」のことを、「知る権利」が国民の側にも出てくると思います。そうでないと、国民は「著者」への批判ができないことになります。

 それが「表現の自由」の「自己責任」の帰結です。

 今回の書籍「絶歌」の筆者名は、「元少年A」で出してはいますが、自ら匿名で「更生」の機会を得る権利を放棄したも同様というほかありません。

 少年Aが自ら出版を持ちかけたというなら、なお一層です。


 「加害男性が自ら出版を希望し、仲介者を通じて同社に持ちかけたことを明らかにした。初版は10万部だという」