佐藤正久(参議院議員)


 「自衛隊はどれくらい強いのか」と問われれば、「それは、想定する対象による」と答えざるを得ない。全世界の軍事費の約半分の額が投じられている米軍に比べれば、総合的に見て、自衛隊の力不足は否めない。一方、100年以上国内で建造し、運用してきた歴史を有する日本の潜水艦の技術と性能は、世界に誇れるものである。よって、自衛隊のことを一概に「強い」とも言えないし、「弱い」とも言えない。ただ、「自衛隊はどれくらい強いのか」という問いに思いを巡らせる際、少なくとも1つの事実については明言することができる。それは、「自衛隊には“限界”がある」ということである。ここでの“限界”とは、「法律の整備が不十分であるがゆえに、自衛隊では十分に対処できない事態が存在する」という意味である。

自衛隊は法律なくして動けず

 自衛隊は「法律」という根拠があってこそ行動できる組織である。法律がなければ、自衛隊は一ミリも動くことができない。法令を順守する組織である自衛隊は、「超法規的措置」をとることなど、断じて許されないからである。また、法律がないということは、任務として想定されていないことを意味するため、訓練などの準備をすることもできない。特にイラクやインド洋での国際協力においては、これまで特別措置法で対応してきたため、事前の準備訓練に課題があり、現場に多くの負担を強いてきた。更に国内では可能な武器使用が国外では制限されるという任務と武器使用権限の乖離が法的にあった。これら課題を改善するのが、現在、国会で審議中の「平和安全法制」である。
イラク派遣で指揮をとる陸上自衛隊先遣隊長の佐藤正久一等陸佐(肩書当時、中央のサングラス) =2004年2月

「助けられない」自衛隊から「助け合う」自衛隊へ

 平和安全法制では、平時から日本有事まで切れ目のない防衛体制を構築しようとしている。例えば防衛出動に至らない事態、即ち平時から重要影響事態における「アセット防護」。アセットとは艦艇や航空機など「装備品」を意味する。法案では、「自衛隊と連携して我が国の防衛に資する活動」に従事する米軍等のアセットを相互に防護できるようにしている。現在、警戒監視中の自衛隊艦船等が攻撃された際、米軍は自衛隊を防護できるが、逆はできない。即ち「助けてもらうけど、助けられない」自衛隊が、本法案により「助け合う」自衛隊に変化する。

 更に状況が切迫し、例えば朝鮮半島有事、日本に戦禍が未だ及んでいない段階で、弾道ミサイル警戒にあたっている米イージス艦を北朝鮮の戦闘機から自衛隊が防護することは、国際法上、集団的自衛権にあたり、現在の法律では不可能。日本にミサイルが着弾し、国民に犠牲が出るまで、自衛隊が米イージス艦を守らなくて良いのかという課題があった。平和安全法制では、当該事態等を「存立危機事態」とし、自衛のための他衛、即ち自衛目的の場合に限り一部集団的自衛権行使を可能とした。即ち、これまで日本防衛の隙間であった日本有事前の「存立危機事態」においても日米の艦船等が相互に守り合うことが可能になった。「助けてもらうけど、助けられない」自衛隊から、相互に「助け合う」自衛隊にし、抑止力を高めようとするのが平和安全法制である。


限界を抱えながらも着実に備える自衛隊

 現行法上様々な“限界”を抱えているとはいえ、防衛省・自衛隊は可能な範囲で能力構築を進めている。その一つは、島嶼防衛への備えである。例えば、平成30年までに創設を目指す陸上自衛隊の「水陸機動団」。基幹になる部隊は、今年度中に新編される見込みである。水陸機動団は米国製の水陸両用車AAV7などを備え、将来的には約2000人を擁する部隊になる予定である。ちなみに、陸上自衛隊は10年前から米海兵隊と継続的に共同訓練を実施しており、水陸両用戦などに必要な技能の習得に励んでいる。

 その他、警戒監視能力の強化も急いでいる。例えば、航空自衛隊は長時間飛行可能な滞空型無人機「グローバルホーク」の導入を決定。新型の早期警戒機E-2Dも取得する。また、海上自衛隊は従来型の固定翼哨戒機P-3Cの能力向上を図ると共に、最新型の国産哨戒機P-1を20機調達する。


自衛隊の“強さ”を決めるのは国民

 自衛隊は法制度上の制約を抱えながら、今、この瞬間も国防の任に当たっている。しかし、それでも防衛政策に関する議論はなかなか前進しない。平和安全法制の審議に際し、木を見て森を見ない議論を続ける一部野党の主張はその象徴である。政治の停滞は、現場で汗する自衛官により多くの負担を強いることになる。「自衛隊はどれほど強いのか」を規定するのは、個々の装備や隊員の能力ではなく、行動を規定する法制度そのものであることを、立法を担う政治家も、その政治家を選ぶ国民も心に留め置く必要がある。

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