岸裕司(秋津コミュニティ顧問)

 ある年の7月初め頃の休日の朝、工作クラブの作業のためにいつものように秋津小学校コミュニティルームに入ると、入り口すぐのところに机が置かれ、そこには朝顔やひまわりなどの苗が5・6個ほどありました。

 「わたしたちが育てました。ひとつ50円です」と、たどたどしい字で書いてあります。

生活科の授業で育てた花の苗を秋津小学校
コミュニティルーム入り口で販売する2年生。1998年10月
 その下には2年生の担任の字で、このように書かれてあります。

 「コミュニティのみなさんへ。子どもたちが生活科の授業で育てた苗です。よろしかったら買って下さい」

 どの苗にもデパートなどの包装紙が、こぎれいに巻かれています。

 私はとてもうれしくなって、ひとつを選び50円のところを奮発して100円玉を、子どもたちが手づくりした箱に入れました。

 夕方見ると、まだひとつ残っていたので、ほかのお父さんに「せっかく子どもたちが育てているんだから買いなよ!」と、強引に売りつけて完売しました。

 私は、ここまで学校が開かれてきたのか! と、なんともいいようのないうれしい気持になりました。そのうれしさは、学校で子どもたちが地域の大人たちを巻き込みながら、堂々と物を売って金稼ぎをするようになってきたからです。

 しかも、生活科の正規の授業の一環としてはじめたからです。

 このうれしさの伏線が前回お話しした、うれしさとはまったく逆な、子どもの金稼ぎについてのにがい想いがあったことなんです。

子どもたちの豊かな育ちのために


 さて、翌週にコミュニティルームに行くと、また5・6個ほど売っている! ではありませんか!「こいつら一度に売らないで、ちびちび出すなんて、しっかりしているなぁ」と、妙に感心してしまいました。

 そして、「どなたか、買った方で名前を書き忘れてはいませんか? 入っていたお金が50円多いです」と書いてありました。苗にかくれて見えなかったのですが、購入者記入用紙もありました。

 私が書き忘れていたことと、50円多く払っていたので計算が合わなかったのです。私は「ゴメン! 岸のおじさんが買いました。50円は寄付です。ガンバレ!」と書き置きをしました。

3回目のフルチェンジになるバス停のベンチづくりに
励む秋津っ子やお父さんたち。2015年春
 さっそくこの苗の販売を、許可したであろう○校長に尋ねました。

 ○校長さんは「そうだよOKしたよ。しかも、『昇降口に置いても良いですか?』と言ってきたから、売るんだったらコミュニティルームの入り口の方が買ってくれる人が多いと思うよ」と、子どもたちにアドバイスをしたそうです。

 この○校長さん、「明るい校長さん」をもじって、「あっ、かる~い校長さん」と子どもや親たちから慕われて呼ばれている、子どもの育ちを最優先に考え、しかも秋津コミュニティのノリノリ父さんたちにも好意を寄せていただいている懐の深~い校長さんなんです。

 また、売れ残りの苗を子どもたちは「残ったらかわいそうだ」と心配し、商品価値!?を高めるためにきれいな包装紙をリボンで巻いて再販売に出す工夫もして売り出したとのこと。

 私はこの話にもまたまたうれしくなりました。

 こういった、子どもたちの豊かな育ちを真ん中に置き、慎みを持ちつつ確信を持って大胆なことにも挑む先生がいて、それを励ます管理職・親・地域の大人間の「良いこと循環」が、「地域とともにある学校」「学校とともにある地域」のソーシャルキャピタルを高めるのだろうと思うのです。

「生きる力」を地域とともに学ぶ


 ところで子どもたちは、売上代金が気になり休み時間にちょくちょく苗の販売所? を見にきます。

 「やった~っ! 売れてるぞ!」などといいながら、教室に稼いだ現金を持ってきます。その売上金は、毎日足し算をしてノートに記入します。つまり、現金数えの算数の勉強に担任が工夫したのです。

 担任から聞いたところによると、何回も熱心に現金を数えるのは男の子とのこと。しかも元気な子が。

 すると、これまた元気な女の子が言うんですって。「さっき数えたばかりだから変わってないよ!」ってね。で、売上金は子どもたちが近くの銀行に口座をつくり、毎回持っていき貯金しました。

 その資金で秋には、下級生(一年生)や親をお招きしてのカレーパーティの収穫祭を催しました。また、買ってくれた人への感謝の無料苗サービスもお礼の報告書の掲示とともに翌年の春に、コミュニティルームの入り口に出しました。

 この生活科で、まさに「生きる力」を地域とともに学んだ子どもたちにとっては、一生涯忘れられない貴重な体験として記憶されたことでしょう。

自主性を育む秋津っ子バザーの始まり


バス停のベンチづくりでノミの使い方を
工作クラブのおじさんたちから教わる秋津っ子たち。
2015年春
 じつは、この苗の販売は、秋津コミュニティが発案して以前から幼稚園と小学校のPTAにも協賛してもらい、秋津まつりではじめた「秋津っ子バザー」に呼応しています。

 この子どもバザーは、それまでのおまつりでは子どもたちはお金を使うだけの「お客さん」であったことから、売り買いを自分で責任を持って行ない、後片づけもきちんと自分ですることを目的に、お父さんたちがコーナーを設けたのです。

 場所は、校門を入ってすぐの学校敷地内のロータリーです。

 方法は、

1.自分のおもちゃ箱を整理して、要らない物で売れそうな物をお家の人と相談してOKだったらこのコーナ ーで自由に売って良い。
2.ただし、上限はひとつ200円までで全体でもダンボール箱一個まで。
3.食べ物はダメ。
4.商売をするためには所場代がいるので、売上の10%は胴元!?の秋津コミュニティに払う。

 こういった内容の参加の呼びかけチラシをつくり、学校で子どもたちに配布してもらいました。後は、当日子どもたちがやってくるのを待つだけです。事前の参加届けなどは、主催する秋津コミュニティの「自主性を尊重する原則」から一切しません。

バス停のベンチづくりの合間におじさん手づくりの
紙芝居を観る秋津っ子たち。2015年春
 だって、生涯学習は、だれかに強制されてするものではなく、自らの意志で行うものであり、楽しければ参加するでしょうし、楽しくなさそうと感じるのであれば参加しなくても良いからです。このことは、子どもが対象であっても同じです。

 いやむしろ、子どもだからこそ、自主性を子どもの時から育む体験が大切なんだと思うんです。そんな体験の場を、大人は考え抜いてつくり実践することが大切だろうと思うんです。

 すると、「子どもがだれもこなかったらどうするの?」と、心配するPTA役員のお母さんから質問がありました。

 私は、「その時は『参加者がいないので、バザーは中止です!』の張り紙をします。だって、やりたい子がいないんじゃできないんだからさー」と、お気楽さんに答えました。

公共性も身に付ける


 ところがそんな心配をよそに、当日の開始時間になると子どもたちがどんどんと、ダンボールをかかえてやってきました。

 なかには、ダンボール箱が大きすぎて、ずるずると引きずりながらやってくる子もいます。

「おじさん、どこでやればいいの?」
「そんなの自分で考えろ!」
「ほら、このゴザひけ!」
「値段は自分で付けろよ!」などと、お父さんたちはうれしさを隠すためにわざとぞんざいな口振りになって子どもたちの応対に追われることになりました。

 終わってみると、ゴミも自分で片付けるし、貸したゴザも「ありがとうございました!」とのお礼の言葉とともに元気に返しに来ました。また、稼いだお金の10%の所場代も、きちんと自主申告にやってきました。

 その子たちに訊ねました。おまえたち、来年もやりたいか?」と。「うん! 楽しかったから来年もやりた~い!」と、子どもたちは口々に言いました。

 こんな言葉にお父さんたちは励まされ、1996年の開始から今日まで秋津っ子バザーは毎年続いています。

 子どもたちは、売り買いを通して自主性やお金の価値を学んだでしょうし、大げさにいえばリサイクルや消費者教育にもなっていると思います。

 いずれ秋津を巣立つ子どもたちには「楽しいことをするには、自発性とともにみんなが楽しめる一定のルールがあること=公共性」を身に付けてほしいと思います。

 そんな地域の行事に呼応して、冒頭の苗の販売は行われたのでした。

地域の記憶と学校の記憶の紡ぎ合い


 思い起こすと空き缶を集めてユニフォームを買おうとした子どもたち、自分たちが授業で育てた苗の販売、秋津っ子バザーなどの長年かけての金稼ぎをめぐる連鎖も、地域の記憶と学校の記憶の紡ぎ合いと思うのです。

 地域は大局的な視点から「子どもの育ちにとって、良いことは良い」としっかりと伝え、そのことで喜びを感じた子どもたちは、親や地域の大人を信頼するでしょうし、それを兄弟姉妹や世代を超えて伝えあうものと思います。

バス停のベンチづくりを横目にみながら
ビオトープの大池で交尾する夫婦ガエル。2015年春
 そして、こういった地域の特長に、鋭敏に反応する先生であれば思わぬすばらしい教育実践が可能なのではないでしょうか。

 私たち秋津の大人は、そんなことを感じながら、意のある先生方とともに、自信を持って学校を拠点に子育てに挑んでいけると思っています。

 なお今回の後半の写真は、この春に工作クラブの教室として休日に実施中の「バス停のベンチづくり」の様子です。まちなかの3カ所のバス停に置くのですが、今回で3回目のフルチェンジです。

 では次回まで、アディオス! アミ~ゴ!

きし・ゆうじ 秋津コミュニティ顧問。1952年東京生まれ。広告・デザイン会社の(株)パンゲア代表取締役、習志野市立秋津小学校PTA会長時に秋津コミュニティ創設、会長を経て現在顧問兼秋津小学校コミュニティルーム運営委員会顧問。文部科学省委嘱コミュニティ・スクール推進員、学校と地域の融合教育研究会副会長、埼玉大学・日本大学非常勤講師、ほか。著書に『「地域暮らし」宣言』『学校を基地にお父さんのまちづくり』(ともに太郎次郎社エディタス)、『学校開放でまち育て』(学芸出版社)など。