自民党国家戦略本部の「日本型移民国家への道プロジェクトチーム(PT)」による6月20日の提言が波紋を呼んでいる。人口の1割近い1000万人の移民を50年かけて受け入れる提言だ。これほど大規模に国家、社会を改造しようという発想はいかにも計画主義的で、人間の知性への過信を慎み、漸進的な改革を心掛ける保守主義からはかけ離れたものだ。この種の提言が公然と出てくる自民党は、保守政党とは呼べないのではないか。

中川元幹事長が旗振り役

 国家戦略本部は党総裁=福田康夫首相(72)=の直属機関。中川秀直(ひでなお)元幹事長(64)がPT顧問として旗振り役を務めた。「人材開国!日本型移民政策の提言」と題する提言の主な内容はこうだ。
《50年後の人口は3分の2に落ち込み、9000万人を下回る政府推計がある。少子化対策の効果が表れるとしても遠い将来で、日本の人口危機を救う効果的な治療法は、海外からの移民受け入れ以外にない。日本の活性化を図る「移民立国」への転換だ》
《日本民族と他の民族がお互いの立場を尊重し合って生きる「多民族共生社会」を作る覚悟が必要だ。移民に手厚い教育を施し、治安悪化を招かない「育成型移民政策」をキーワードとする》
《移民基本法、社会統合基本法、民族差別禁止法、多文化共生条例を制定。(現在入国後10年以上の)永住許可制度の運用を7年以内に緩和。帰化制度も運用を緩和する》
提言の原案となった自民党有志の「外国人材交流推進議連」(会長・中川氏)の案は、帰化について「入国後10年以内に国籍付与」「永住者に国籍を付与することを原則」と記している。

経済よりも大切なもの

 提言は経済優先の視点に立つが、国家や社会は経済だけを考えて済むほど単純ではない。そこに暮らす人々の歴史、伝統、慣習を踏まえた生活文化の存在こそが、国家、社会の営みの安定的基盤となる。たかだか50年間で1000万人もの移民を受け入れれば、その安定性は致命的に損なわれ、経済力や社会保障制度の維持さえ結局は達成できないだろう。
 差別禁止は当然だが、民族差別禁止法は人権擁護法と同様に人権ファッショを現出しかねない。反日的傾向のある国出身の移民が政治的な圧力集団をいくつか形成する可能性も捨てきれない。
 経済力を維持しようというなら、少子化対策やロボットの導入、労働生産性の向上などやるべきことがあるはずだ。
 また、外国の人材を日本が奪えば、その国はどうなるのか。大規模な移民受け入れは日本の身勝手にならないのか。
 そもそも大規模移民まで行い経済大国を維持する必要があるのか。かつて世界の覇者だったスペイン、ポルトガルは今も中規模国家として独立を保っている。

日本人の縄張り

 疑問の声もある。与謝野馨(よさの・かおる)前官房長官(69)は9日のシンポジウムで、縄張りとの意味での「餌(えさ)場」というややどぎつい表現を交え、皮肉を込めて批判した。
「自民党の中でもあわてん坊がいて、『人口が減るから移民だ、なんとか移民をいっぱい入れろ。1000万人移民計画だ』と言っているが、人間だって動物だ。動物に必要なのは餌で、ホトトギスだってホーホケキョと鳴いて自分の餌場を守っている。日本国というのは日本人の餌場で、この中でわれわれは営々と生活してきた。1000万人も入れたら、日本人が働いている職場は全部その人たちに奪われる覚悟でやったらいい」
 今は、ナショナリズム、国民国家が生まれる以前の古代とは違う。大和朝廷が帰化人を受け入れたのと同列に論じるのは無理だ。また、日本と移民国家の米国では成り立ち(国体)も異なる。長い年月を経て日本人は、多様性を保ちながらも共通の歴史、伝統、慣習を持つ共同体を作り上げた。緩やかなペースで新しい同胞が増えてもいいが、ある時代の世代が共同体(日本)の人的構成を急激に大変動させる権利があるとは思えない。あると考える人はよほどの“賢者”なのだろう。
(政治部 榊原智)