仲新城誠(八重山日報編集長)

 沖縄では現在、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古移設に反対する翁長雄志知事が、反基地派から希望の星のように仰がれている。マスコミはほぼ「翁長礼賛」一色だ。しかし、沖縄本島から約400キロ離れた八重山諸島ではだいぶ雰囲気が異なる。保守層を中心に翁長知事批判が噴出しているのだ。

 石垣市の中山義隆市長は6月、同市で開かれた集会で、翁長県政の現状について「大事な県民の生活、福祉、子育てなどの課題が停滞している。新聞に出るのは毎日、辺野古反対だけ。東京や米国を訪れても基地の話しかしない」と疑問視した。

 石垣市議からも市長に呼応するように「翁長県政は、経済などよりイデオロギーを優先させている」などと反発の声が出ている。

 沖縄県内の首長からこれだけ公然と県政批判が出るのは珍しいが、中山市長がヒートアップしたのには理由がある。4月の翁長知事訪中だ。

 石垣市の行政区域である尖閣諸島の周辺海域では、中国公船の領海侵犯が日常化。心ある石垣市民は日々、中国に対する怒りと不安を募らせている。しかし、河野洋平元衆院議長らと訪中した翁長氏は、中国最高指導部の一人である李克強首相と面会しながら、尖閣問題には一言も触れなかった。
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 北京の人民大会堂で中国の李克強首相(右)と握手する
沖縄県の翁長雄志知事=4月14日(共同)

 中山市長は6月の市議会で「尖閣には来ないで、平和的にお付き合いしましょうと言うべきだった。それを言わずに帰って来たのは非常に残念だ」と指摘。6月に訪米した翁長氏が活発に辺野古移設反対を訴えたのとは対象的だと失望感を表明した。

 翁長県政は尖閣問題には無関心なようだが、辺野古移設阻止には並々ならぬ執念を燃やしている。6月には県庁に「辺野古新基地問題対策課」を新設。移設阻止に向け、各課にまたがっていた事務を一元的に統合した。地方自治体が、国の安全保障政策を妨害するために組織を新設するというのは聞いたことがない。私としては、県民の血税が「反基地」のブラックホールに次々と吸い込まれていくのではという懸念を感じる。

 5月に行われた共同通信のインタビューで翁長知事が「抑止力のために(辺野古移設が)必要だと日米両国が決めても止める」と発言したことにも驚かされた。抑止力の概念そのものを否定しているように聞こえる。「知事はついに一線を越えたのでは」と懸念させるのに十分だった。

 私たち八重山住民から見ると、普天間飛行場移設問題と尖閣問題は密接にリンクしている。米軍基地の撤去や整理縮小は、尖閣を狙う中国の視線を常に意識しながら進めなくてはならないからだ。

 もしも反基地派に押し切られる形で同飛行場が撤去または国外・県外に移設された場合、中国の目には、反基地派の圧力に抗し得ないほど日米同盟が弱体化したように映るはずだ。尖閣周辺での挑発行為は一層エスカレートするだろうし、状況によっては辺野古移設の頓挫が、尖閣を含む八重山侵攻の「ゴーサイン」になりかねない。

 反基地派に「尖閣防衛のために辺野古移設は重要だ」と言うと「米国が尖閣のために中国と戦争するはずがない。米軍は尖閣を守らない」と反論される。

 しかしポイントは、尖閣有事で米軍が動くかどうかより、尖閣に対する中国の野心を事前に挫き、尖閣有事を阻止できるかどうかにある。

 普天間飛行場を撤去するのであれば、それは反基地派への譲歩であってはならず、日米が「中国や尖閣にはいつでも睨みを利かせている」というメッセージを同時に示すことが不可欠なのだ。

 同飛行場を同じ沖縄県内に移設する辺野古移設が、そのメッセージを実現する最も単純明快な方法であることは間違いない。その意味で、日米両政府が「辺野古移設こそ唯一の選択肢」と力説する理由は理解できる。

 しかし、他に全く方法がないわけでもないはずだ。普天間飛行場を撤去する穴埋めに、自衛隊の駐屯地、人員、装備を増強するのもアイデアの一つだろう。「自分の国は自分で守る」という原則からはむしろ自然な結論だが、10年後、20年後の安全保障のあり方を含めた議論が必要だ。いずれにせよ、辺野古移設をただ拒否すればいいというわけではなく、長期的な視野に立った「辺野古移設の代替案」を慎重に検討しなくてはならない。

 翁長知事にそれがあるのか。知事自身が明確に答えている。4月に沖縄を訪れた菅義偉官房長官に対して「辺野古移設の代替案を持っているのかという話をされること自体が政治の堕落だ」と主張したのだ。これでは、辺野古移設さえ阻止すれば「あとは野となれ山となれ」が知事の真意だと指摘されても仕方がない。

 知事も出席する辺野古移設反対の集会では、沖縄の「非武装化」「緩衝地帯化」を訴える弁士が登壇。参加者は「日米安保粉砕」と記されたプラカードを掲げている。知事自身の考えはどうあれ、知事を支えている反基地派は、間違いなく沖縄からの全面的な軍事力撤去を叫んでいる。これでは有効な「辺野古移設の代替案」などは期待すべくもない。

 翁長知事が主張する形での辺野古移設阻止は、尖閣を危険に陥れる。だから「代替案を出せと言うのは政治の堕落だ」だという知事のセリフは八重山住民には通用しない。「代替案がないというのは県政の堕落だ」と反論されるのが落ちだろう。
報道陣の取材に応じる翁長雄志沖縄県知事=首相官邸
 翁長知事が今後、沖縄をどの方向へ引っ張っていくのか、考えられるシナリオは次の通りだ。

 まず、念願叶って辺野古移設を阻止した場合だ。翁長氏は知事選の公約を達成したことになるが、政府は「現在の普天間飛行場が固定化される」と警告している。移設阻止と引き換えに、市街地にある「世界一危険な飛行場」が放置されるなら、知事の責任は重大だ。

 辺野古移設を阻止し、さらに普天間飛行場の県外、国外移設をも実現させれば、翁長氏は沖縄では世紀のヒーロー扱いされるだろう。

 しかし前述の通り、知事は辺野古移設の有効な代替案を持たないから、日本や沖縄の安全保障は深刻な局面に追い込まれる可能性が高い。取りわけ八重山住民は危機にさらされるだろう。

 翁長氏が辺野古移設を阻止できず、辺野古移設が実行された場合は、公約を果たせないことになる。「日米両政府が工事を強行したからだ」と弁解はできるが、反基地派は失望し、翁長氏は政治家として何らかの責任を取らざるを得ない。県政と国政の溝も残る。

 辺野古移設を容認すれば、翁長氏はマスコミから裏切り者として糾弾され、知事のイスに座り続けるのは不可能だろう。

 こうなると知事の行く手は八方塞がりに見えるが、起死回生の手段はまだ残る。それは、知事が沖縄の非武装化を叫ぶ反基地派と即刻手を切り、辺野古移設の代替案を真剣に模索することだ。

 多少なりとも現実的な代替案であれば、そして知事が熱意を持って政府と交渉するのなら、今からでも有効な選択肢として浮上する可能性があるかも知れない。普天間飛行場は撤去され、辺野古移設は阻止され、抑止力は維持される。沖縄にとって理想的な展開だ。

 代替案を検討するのにうってつけの組織がある。「辺野古新基地建設問題対策課」だ。職員も、政府の作業をひたすら妨害するという非生産的な職務から解放される。ぜひ新しい組織を有効活用してほしい。

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