篠原章(評論家・批評.COM主宰)


 普天間基地の辺野古移設反対を訴える翁長雄志沖縄県知事の言動が注目を集めている。保守本流の中心にいた翁長氏が「県内移設反対」を掲げて「オール沖縄」の結集を呼びかけ、知事に当選したのは昨年の11月。以後、頻繁に上京を繰り返して、政府要人や内外のジャーナリストを相手に「沖縄の民意」が辺野古移設反対であると訴えたほか、5月末には訪米してハワイやワシントンの要人に「沖縄の民意」への理解を求めた。6月にはケネディ駐日大使にも面会しているが、9月には国連でスピーチし、辺野古の海を守りたいという少数民族(沖縄県民)の環境権が日本政府によって侵害されていると訴える予定だという。

 翁長知事のこうしたパフォーマンスを額面通り受け取るかぎり、「沖縄という弱者を日本政府という強者が蹂躙している」と見なして、沖縄に同情する人たちが増えるのも無理からぬことだが、翁長知事自身は、なぜ辺野古移設に反対なのか、説得力のある説明をしたことは一度もない。

 知事はしばしば「日米同盟は支持するが、沖縄の基地負担は過剰だから辺野古移設には反対だ」という。が、知事は、もう一つの移設問題である「那覇軍港の浦添移設」ではなんと推進する側に立っているのだ。

 本土ではほとんど知られていないが、那覇軍港の浦添移設によって埋め立てられる面積は約300ヘクタール。辺野古で予定される埋立面積160ヘクタールの2倍近くに上る。辺野古の工費は3500~5000億円と予想されるが、浦添の工費はそれを遥かに上回る8000億円超と推計される。どちらが大規模な事業かわかろうというものだ。
日米間で浦添市への移設が合意されている米軍那覇港湾施設(那覇軍港)=那覇市、共同通信社ヘリから
 知事は、「辺野古は新基地だから許せない」と訴えるが、辺野古移設は、50年ほど前から存在する米海兵隊基地キャンプ・シュワブ沿岸部の埋立であり、防衛省は「既存の基地内における滑走路建設であり新基地ではない」という立場をとっている。辺野古の基地拡張工事は認めないが、浦添の新基地建設は認める、というのでは、「基地負担は過剰だ」と知事がいくら熱弁しても説得力はない。

 翁長知事はまた、「ジュゴンが生息する辺野古の海が埋め立てるのは許されない」ともいう。が、翁長氏が那覇市長時代に先頭に立って進めてきた那覇空港拡張工事(第2滑走路建設)で埋め立てられる那覇沖にも辺野古沖と同様ジュゴンが出没するといわれている。埋立面積も辺野古と同じ160ヘクタール。すでに作業は始まっている。辺野古のジュゴンは守るが、那覇のジュゴンはどうでもいい、とでもいうのだろうか。先に触れたように、翁長知事は国連機関で「沖縄県民は日本政府に環境権を奪われている」とスピーチする予定だという。こんな話をジュゴンが聴いたら怒り心頭だろう。

 「あらゆる手段を用いて移設を止める」と宣言した翁長知事とその支援者の抱える「矛盾」はこれだけに留まらない。

 6月16日、知事を支援する県議会与党会派は、辺野古埋立を阻止するため、県外から土砂や石材などの搬入を規制する条例案を提出した。罰則規定はないが、従わなかった場合、知事は搬入中止を勧告し、事業者名を公表できるとしている(6月22日現在)。

 が、この条例が施行され、厳格に適用されれば、辺野古埋立はおろか翁長知事が推進する那覇空港拡張工事や那覇軍港の浦添移設にも大きな影響が及ぶ。現行案のまま可決されると、県外からの土砂搬入は事実上封じられ、工期は大幅に遅延する。県内での土砂調達が加速され、土砂価格はまちがいなく高騰、埋立を予定する事業の多くが工費の膨張に苦しむことになる。

 が、それだけならまだいい。県内での土砂採取が進めば、あらたなる環境破壊が多発する。知事としては、「肉を切らせて骨を断つ」つもりかもしれないが、辺野古さえ阻止できればいいという姿勢がもたらすコストは小さくない。おまけに、土砂搬入を阻止できたからといって、辺野古移設自体が中止に追いこまれる保証もない。政府も法的な対抗措置をとるはずだ。もっとも、罰則規定がないなどの理由で、この条例が何の成果も生まないザル法になる可能性も否定できない。

 知事と反対運動を支えるため4月に設立され、早くも数億の募金を集めている「辺野古基金」にも問題はある。知事選で翁長氏を支援し、基金設立のために奔走した二人の共同代表に対して、呆れるほどあからさまな「利権配分」が行われているからだ。5月半ばに知事が「発令」した人事によれば、共同代表・平良朝敬氏(かりゆしグループ)が観光事業の元締め・沖縄コンベンションビューロー会長に、同じく共同代表・呉屋守将氏が率いる金秀グループの美里義雅氏(金秀バイオ副会長)が沖縄都市モノレール社長に就任することが決まっている。この人事については県内からも批判の声が上がっているが、知事側は気にする気配もない。

 これだけの矛盾を抱えた翁長知事の「辺野古反対」だから、今後迷走する可能性はきわめて高い。共産党は、知事の退路を断つために選挙資金の面でも協力を申し出たという噂まであるが、矛盾に満ちた知事の姿勢にイライラを募らせているという。筆者は、翁長氏はこのまま政府批判を続けながら、あまり実効性の上がらぬ阻止行動を取り続け、鉄道敷設をネタに振興資金という実利を引き出そうとするのではないかと踏んでいる。安倍政権も落としどころが鉄道なら交渉に応ずるかもしれない。

 が、そんな結末なら「ゴネるだけゴネて結局はカネの話か」という印象を残すだけだ。安保も語られず、自立への道も遠のくだけ。国民の心も、確実に沖縄から離れていく。かといって、阻止行動をいたずらにエスカレートさせれば、問題は膠着するばかりで、県民の焦燥感と孤立感は深まる一方だ。

 翁長知事は、誰のため、何のために闘っているのだろうか。決意だけあって展望のない闘いはいったいいつまで続くのか。進むも地獄、戻るも地獄。翁長知事は就任半年目にして早くも崖っぷちに立たされている。

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