渡邊武 (防衛省防衛研究所アジア・アフリカ研究室主任研究官)

今年は日韓基本条約締結から50年の節目の年だが、朝鮮半島ではそれ以上に、「分断70年の年」という意味合いが強い。中国との距離が近いと言われて久しい韓国だが、両者は「統一」に対する認識が決定的に異なっている─。

 3月、米韓合同演習の中断を要求する韓国の民族主義者が駐韓米国大使を襲撃した。この衝撃的事件への北朝鮮の対応が、実は中国の南北統一に関する立場と一致していると述べたなら奇異に聞こえようか。父親の朴正煕元大統領と異なり、娘の朴槿恵大統領は日米より中国と緊密になっている─と言われてきたが、対米競争を意識する中国は決して、南北分断を中立姿勢で見ているわけではない。分断から70年を経てもなお、統一問題は韓国の直面する中国との深刻な対立点である。

分断70年 韓国と中朝の対立


 事件の後、朴槿恵政権が国内の「従北」勢力批判を展開すると北朝鮮はこれを強く非難した。その際の朝鮮中央通信によれば朴槿恵の統一政策「信頼プロセス」は「外勢」(外部勢力)と結託した「反統一政策」なのだという(2015年3月17日)。

 他方、中国の習近平主席は前年、北朝鮮より先に韓国を訪問し朴槿恵政権との緊密さを誇示した。ソウル大学での演説を通じ習近平は朝鮮半島での核兵器開発への反対と「自主平和統一」への支持も表明している。これは印象として韓国の「反統一政策」を非難する北朝鮮とほとんど対照的だろう。

 しかし習近平の「自主」統一支持と北朝鮮の朴槿恵政権批判には一貫性がある。実は朴槿恵は決して「自主」統一は謳わない。習近平が支持した「自主」統一は「外勢」、つまり米国を排除する概念であり、米国大使襲撃に際して北朝鮮も朴槿恵と「外勢」たる米国の結託を非難した。

 米国排除としての「自主」には2つの意味が含まれる。第1に米国のソフト・パワーにより社会主義体制が崩壊して実現したドイツのような統一は否定される。第2に米韓同盟への脅威認識である。体制生存と米軍対処での目標共有が中朝の「自主」原則での一致から強く示唆されている。

 分断70年でもあり、南北の指導者がこれを意識する今年は統一に関する認識の違いが生じやすいのかもしれない。双方による「新年の辞」はともに分断70年を強調したが、これを機とする「統一基盤」構築を謳った朴槿恵に対し、金正恩は「自主」統一を主張した。

 そして中国は南北双方の「新年の辞」への論評として「自主」平和統一の最終的実現を一貫して支持してきたと表明し、北側に立ったのである(外交部報道官、15年1月6日)。以下、体制と軍事の両面から中韓の対立をみていきたい。

 朴槿恵大統領は就任前、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルに寄稿し欧州冷戦の終結過程「ヘルシンキ・プロセス」のように日中および南北朝鮮の緊張を緩和すべきと訴えた。現在ウクライナ停戦を進めている欧州安全保障協力機構(OSCE)も40年前のヘルシンキ最終文書採択に始まったこの過程で設置された。

ドイツ型とは異なる中朝の目論見


 この寄稿の議論を引継ぎ朴槿恵政権は、統一政策としての「信頼プロセス」と域内国家の和解を図る「東北アジア平和協力構想」を掲げている。同地域構想の外交部による説明文書(14年)はヘルシンキ・プロセスの再現を強調しており、これは西側の専門家には説得力があろう。

 しかしヘルシンキ・プロセスの再現を謳うことこそ、中朝が構想を「信頼」できない理由となる。これはソ連東欧の一党体制崩壊「プロセス」でもあり、共産党体制の生存を図る中国にとって忌むべき歴史である。その帰結であるドイツ統一も、北朝鮮が回避すべき社会主義体制の資本主義側による吸収に他ならない。中朝は韓国とは対立する視点で冷戦終結の教訓を引き出すことになる。

 欧州社会主義圏が崩壊したころ韓国では、北朝鮮も東ドイツのように消滅するとの期待が高まった。当時の盧泰愚政権が掲げた目標たる複数政党制の議会制民主主義の統一国家「韓民族共同体」は、ドイツ統一の再現を強く示唆するが、朴槿恵はその目標追求の継続を重視する(統一部説明資料13年9月)。

 朴槿恵大統領に報告された外交部の行動計画「統一時代を開くグローバル信頼外交」も「ドイツ統一過程から引き出せる全般的な教訓と示唆をよく活用していく」と述べた(15年1月)。

 これに対し中国が支持する北朝鮮の「自主」統一は一党体制を保全するもので、ドイツ型統一とは明らかに異なる。「外勢」排除の「自主」原則は決して米国の影響を受けた体制による吸収統一を許容しない。同原則に基づく統一国家は北朝鮮の体制が生き残る「連邦制」である。