福田改造内閣は、臨時国会の召集日を決めることさえもたつき、反転攻勢には至っていない。次期衆院選での政権交代にねらいを定める民主党だが、永住外国人(約84万人)に地方選挙権を付与するかどうかという国家の基本にかかわる問題で、党内対立が続いている。これが衆院選の勝敗に影響するとは考えられないが、政権を担おうとする民主党の性格を推し量るうえで興味深い事例だ。地方選挙権付与に賛成する民主党幹部は多いが、政権が近くなった今も、国際情勢認識はナイーブで、安全保障で最悪の事態を想定する発想に不得手であることを示した形だ。

ナイーブな国際認識

 このことをもって自民、公明両党の方が老練だと言いたいわけではない。特に公明党は1998年以来、5回にわたり付与法案を提出し、今も継続審議中だ。
 3月1日付の拙稿(福田政権考「外国人参政権は民主の『悲願』か」)でも論じたが、永住外国人の参政権は、韓国政府や在日本大韓民国民団(民団)が熱心に求めているものだ。
民主党は98年結党時の基本政策で「定住外国人の地方参政権などを早期に実現」とし、98、2000年に付与法案を出したが廃案となった。
 その後の動きは低調だったが、小沢一郎代表が今年1、2月に李明博(イ・ミョンバク)韓国大統領など韓国要人との会談で付与実現に努力する意向を示し、民主党内の賛成派の動きが活発化した。
 ポスト小沢の有力候補と目される岡田克也副代表や、鳩山由紀夫幹事長、藤井裕久最高顧問、前原誠司副代表、横路孝弘衆院副議長、赤松広隆選対委員長、岩國哲人国際局長、川上義博参院議員らが名を連ねる「在日韓国人をはじめとする永住外国人住民法的地位向上推進議連」(会長・岡田氏)が1月に結成。議連は5月、法案の早期整備を促す提言をまとめた。
 民主党は小沢代表の諮問機関「永住外国人地方選挙権検討委員会」(会長・渡部恒三最高顧問)を6月に設置。賛成派と反対派が論争中だ。

北東アジアの日本

 外国人地方選挙権は、国民主権の実質を担保する参政権という「国民固有の権利」を損なうと思われるが、それとは別に日本が北東アジアに位置するがゆえの地政学的リスクからの考察も欠かせない。
 民主党検討委のヒアリング(6月12日)で、反対派が推薦した西岡力・東京基督教大教授は沖縄県議選を例に「地方選挙では米軍基地問題や竹島、尖閣諸島、教科書問題など国政と不可分の問題が争点になっている」と指摘。「中国籍の永住者が中国共産党員であるのは自由だが、そのような永住者が基地問題で投票していいのか。(賛成派には)国益の観点の議論が足りない」と切り返した。
 賛成派は「永住外国人は(国民と比べ)ほんの数%で影響力を持つとは思えない」(白真勲参院議員)と反論したが、西岡氏は、外国人有権者がキャスティングボートを握る可能性を挙げ、「(数の問題ではなく)質的問題だ」と語った。
 自民、民主両党の議員に1000万人移民導入論があるご時世だ。今の人口比だけで考えていい話ではあるまい。
過去の衆院公選法改正特別委でも「外国人は日本にいても祖国の法や規範、価値観の支配下にある。我が国の政治行政に外国政府の事実上の介入を招き、我が国の国益と対立するのを危惧する」(2000年11月、米田建三氏)「敵対する国の国籍を持つ永住外国人が選挙権を行使し、国と地方の協力を阻害すれば日本の安全が脅かされる」(04年11月、後藤田正純氏)との議論があった。
 多くの永住外国人は普通の市民だろう。それでも外国人の圧力集団が形成され、有力地方議員や首長を取り込むことで、安全保障や治安面を含む国政、地方政治に影響力を行使することはありえる。
 しかも、残念ながら北東アジアでは欧州とは異なり、冷戦は終わっていない。私たちは北京五輪の中継を楽しんではいるが、ナチス・ドイツもベルリン五輪を開いている。
 民主党の賛成派議連の提言も公明党の法案も、北朝鮮籍者への付与は認めていない。だが、敵国とは言わないが、中国は軍拡を続け、韓国とは竹島問題や歴史教科書問題が存在する。賛成派にはこれらの考察が欠けているのではないか。
(政治部 榊原智)