木村幹(神戸大学大学院国際協力研究科教授)

日中韓3カ国の間に位置する暗礁・離於島に、巨大構築物を建てた韓国。尖閣問題での日中の対立を間近に見て、「明日はわが身」と危機感を強めている。竹島をめぐる日本への対応と同様、パワーバランスの中で外交方針が揺らぐ韓国の姿が見られる。日本は、中国へ傾斜を強める韓国の現状を認識し、韓国に対して抱いてきた甘い幻想を捨て、彼らの向かう道を改めて問い質す必要がある。北東アジア戦略を立て直すべき時だ。

 日本領である長崎県の鳥島から276キロ、韓国最南端の馬羅島から149キロ、そして中国浙江省の海礁島から245キロ沖の東シナ海。この絶海の地に、巨大な構築物が聳え立つ。高さは水面から36メートル、水面下は40メートルにも及ぶ、合計76メートルの高さを誇る巨大構築物だ。

中韓の対立の火種「離於島」


 この構築物は、韓国において「離於島」と呼称される場所にある。「島」という名がついているものの、実際には水面下4.6メートルにある暗礁だ。韓国は1950年代以来、この暗礁への権利を主張しており、かの「李承晩ライン」にもこの「島」は含まれている。87年には韓国政府が灯台を設置、民族主義の高潮した盧武鉉政権下の2003年に海洋科学基地を設置し、現在に至っている。

韓国が中国と管轄権を争う東シナ海の暗礁、離於島(中国名・蘇岩礁)に建設した海洋科学基地がある海域で警戒訓練する韓国海軍=2013年12月2日(韓国取材団=共同)
 そして、今、韓国はこの「島」が中国との間で対立の火種になることを恐れている。日中韓3カ国の間に存在するこの「島」が自らのEEZ内にあると主張する韓国に対して、中国が自らの大陸棚上に「島」があるとして、韓国の主張に反論を加えているからだ。民族感情を背後に、両者の関係は抜き差しならないものとなっている。

 韓国はどうして東シナ海の只中の暗礁に巨大な構築物を建ててしまったのか。そもそも韓国がこの暗礁に対して権利を主張し始めた50年代、中韓間に国交はなく、中国の海軍力も今日ほど大きなものではなかった。当時韓国と国交を有していた台湾の中華民国政府もまた、同じ西側陣営に属する韓国と、国際法上の島でさえない暗礁を巡って対立する余裕を有していなかった。一言で言えば、当時の韓国は、冷戦下特有の国際状況を利用して、国内向けの「火遊び」に勤しんだのである。

 その経緯は、52年、講和条約にて主権を回復した直後、未だ自衛隊発足以前の日本を相手に、竹島を占領してみせたのとよく似ている。

 しかし、東シナ海での「火遊び」は、韓国にとって困難な状況を作り出し、中国との関係も難しくしている。9月下旬には、中国が無人偵察機の巡視海域に離於島を含めたとの報道があり、韓国内での警戒感が高まった。10月3日には、島根県議会の「竹島の日」に倣う形で「離於島の日」の制定を議論していた済州島議会が、見送りを決めた。

 重要なのは、北東アジアのパワーバランスの変化の中で、韓国の外交方針が揺らぎつつある、という事だ。時に領土問題や歴史認識問題における中国との連携が指摘される韓国だが、実際の外交方針は外部から想像されるほど、確固たるものではない。限定された国力の中、政府も世論も周囲を見回しながら、進むべき道を考えている。それが韓国の現状なのだ。日本も、このような韓国の状況をよく理解して、北東アジア戦略を練り直す時期がやってきている。

 韓国にとっての問題は、北東アジアのパワーバランスの変化が、中韓の関係を大きく変えようとしている事である。第1に重要なのは、中国海軍力の急速な増強である。北朝鮮の脅威を前提に、陸軍中心の軍備増強を続けてきた韓国の海軍力は、わが国と比べて遥かに貧弱である。加えて、韓国が頼みにするアメリカは、北東アジアにおける領土問題において中立的な立場に終始しており、国際法上の島でさえない暗礁を巡る争いにおいて、韓国の側につくとは思えない。離於島における気楽な「火遊び」は、今や危険なゲームへと変わりつつある。

 しかしながら、韓国の中国に対する姿勢をより困難にしているのは経済的な情勢の変化である。韓国経済が中国への依存を深めているのだ。例えば、10年、韓国の貿易に占める中韓貿易の比率は21%を超え、韓国のGDPに対してさえ20%以上に達している。多くの韓国人は、このままではやがて巨大な中国に飲み込まれてしまうのではないか、という不安感を有している。

 だが、韓国が中国との関係を断ち切る事ができるのか、といえばその答えはNOになる。例えて言えば、韓国にとって中国との関係は、麻薬のようなものである。長期にわたって依存を続ければ、やがてこの関係を断ち切れなくなる。しかし、いきなりこれを断ち切れば、禁断症状にも似たパニックが待っている。