自民党の麻生太郎幹事長(68)の勝利が確実な党総裁選は“準決勝”にすぎない。次期首相は民主党の小沢一郎代表(66)との間の天下分け目の衆院選に勝たねば、「三日天下」に終わる。小沢氏も同じだ。9月21日の党大会で代表に無投票3選されるが、「最後の戦い」(小沢氏)の衆院選で敗ければ失脚だ。小沢氏は衆院選での自身の国替えを打ち出し、自民総裁選の向こうを張ろうとしている。

東京12区から出馬?

 小沢氏が地元岩手4区を去り太田昭宏公明党代表(62)の東京12区(足立区西部、北区)へ国替えすれば激震が走る。
 小沢氏は昨年9月19日夜、東京・丸ビルのレストランで党幹部に、「どんなことでもやらないといけない。民主党は東京で弱い。選挙に強い者が行けばいい」と語った。これで東京12区への国替えを示唆したとの観測が広がった。
 酔った席だったが、小沢氏は菅直人代表代行(61)、鳩山由紀夫幹事長(61)、岡田克也副代表(55)らにも、大阪などへの国替えを勧めたほどだ。
 その後の発言はめまぐるしい。今年3月の会見で「選挙になったらお答えする。今はそんな考えは持っていない」と含みを残した。5月の誕生会では党幹部に「あの話はもう終わったな」と発言。6月の会見では「現時点において、岩手4区で今まで通り出馬させてもらいたい気持ちは変わらない」と語った。
 9月12日に民主党は衆院選第1次公認を決めたが、小沢氏は「俺のところは最後に決める」と公認を見送った。
 19日の福島県郡山市での会見では「選挙区を変えるかどうか現時点で決めていない。東京12区で出馬すると言ったことはないはずだ」と述べた。ただ、「党首だから、みんな候補者が決まってから申し上げる」と、含みを依然残した。
 国会議員が当選確実な地盤を捨てることはまずない。小沢氏は中選挙区(旧岩手2区)時代も含め地元から約39年間も国会へ出ている。父、故小沢佐重喜(さえき)氏と合わせて60年以上の「小沢王国」だ。
 2005年の郵政選挙で小池百合子元防衛相(56)は「刺客」として東京10区へ国替えして当選したが、もともとの兵庫6区は盤石ではなかった。

「劇薬」を使うか

 前代未聞の政党トップの国替えをしても、公明党代表が相手なら不足はない。
 自民党総裁と戦わないのか-との疑問に民主党関係者は「くるくる変わる自民党総裁は使い捨て。支持団体が弱体化した自民党にとって公明党・創価学会こそ生命維持装置だ」と語る。
 国替えは政権交代への決意を内外に印象づける。反公明感情を持つ有権者をひきつけ、民主党の集票力は全国的に増すだろう。東京で公明党・学会が力を12区に集中させれば、他の選挙区で民主党に有利になる。
 比較第1党を僅差で争うとみられる衆院選で、これらの効果は小さくない。
 公明党・学会は反発している。党首がもし敗れればメンツがつぶれる。学会は選挙活動を重視するだけに組織上も耐えられないところだ。
 矢野絢也元公明党委員長(76)が評論活動中止の強要などの人権侵害を学会から受けたと提訴した問題を、民主党が国会で取り上げようとする動きも、党首対決になれば注目を集めるのは必至だ。
 政教関係を質(ただ)そうと学会幹部、特にカリスマの池田大作名誉会長(80)の国会招致が話題になれば打撃となる。
 それだけに、自民党と間を置こうとしている公明党・学会が、自民党支援を強めてしまうかもしれない。自公両党を離間させ、公明党を与(よ)党でも野(や)党でもない「ゆ党」にしにくくなるかもしれない。
 このように、東京12区への国替えは効果もリスクも大きい“劇薬”なのだ。
 小沢氏は明言を巧みに避けてきたため、国替えせずに結局岩手4区から出馬しても食言にはならない。ただ「へたれ」と見られ、真剣勝負の場の選挙区すら政略の具にしたとの批判は招くだろう。このため盟友、新党日本代表の田中康夫参院議員(52)が東京12区で鞍替え出馬するとの見方もある。
 自民党では麻生氏も東京12区から出馬し、小沢氏と対決する構想も浮上している。小沢氏の「国替え」問題は、勝者が決まっている自民党総裁選よりも、おもしろい見物(みもの)だ。
(政治部 榊原智)