[WEDGE REPORT] Wedge編集部

都構想否決の根源は政府の無策

都構想は否決されたが、最大の案件、地下鉄民営化は進むだろう。
しかし、大阪市は財政破綻を免れることはできない。
大都市問題に何らポジションを示さなかった国の責任とは。


 大阪府・市特別顧問として、大阪都構想の設計に深く関わってきた上山信一氏は、大都市問題に対する国の無策を嘆く。
Shinichi Ueyama1957
上山信一(Shinichi Ueyama)
慶應義塾大学総合政策学部教授、経営コンサルタント 1957年大阪市生まれ。京都大学法学部卒。プリンストン大学大学院修了(公共経営学修士)。運輸省、マッキンゼー(共同経営者)等を経て現職。大阪府・市特別顧問も務める。 (写真:井上智幸)
編集部(以下、編):都構想否決をどう総括していますか

上山教授(以下、上山):211万人もの有権者の住民投票は初めてでメディアがきちんと機能しなかった。政見放送もなく、告示後に賛否両論をひと通り報道しただけ。有権者が難しい制度の意義を理解できたか疑問だ。

 都構想は否決されたが大阪市の改革は次の局面に進むだろう。まだ確実ではないが、地下鉄・バスの民営化は実現するのではないか。13年に橋下徹市長が提案して以来、議会は5度にわたって継続審議とし、2度も否決した。野党は民営化を機に維新の会と都構想が元気づくのを恐れて先延ばしにしてきたが、もう賛成せざるを得なくなるだろう。橋下市長は弁護士らしく「100言って50取れた」政治家だ。

 大阪市役所の中興の祖ともいうべき関淳一元市長は、不適切な労使関係の是正をやり遂げた。だが市民はその価値を理解せずに最後は落選した。橋下市長は長年の懸案である民営化に道筋をつけるだろう。大阪は昔から「難治の土地」といわれる。懸案一つについて政治家を一人ずつ使い捨てにする法則があるように思う。

大都市のスラム化


編:大阪はどうなりますか

上山:都構想の否決が都市経営に与える影響は計り知れない。市役所改革はなかなか進まず、既得権益は維持される。議会はカジノ誘致の調査費すら否決したが海外からみると奇異だろう。おそらく外資は大阪への投資を避けるようになる。優秀な人材の流入も減って都市全体が急速にスラム化、困窮化し、やがて財政破綻するだろう。
財政が逼迫する大阪市 (出所:大阪市ウェブサイト)
 大阪の衰退の一因は国にもある。政令指定都市制度は右肩下がりの経済や大都市の衰退を想定していないが、国力が減退すると地方で食べられなくなった人たちが都市に集まる。すると都市行政は犯罪対策から生活保護、医療・介護まで基本機能の維持に追われる。これまでは大都市は豊かだから自活しろという前提で、ろくな税源の手当てもないままに行政サービスは全部、政令指定都市にやらせてきたが、市の税収はいつまでたっても固定資産税と住民税が中心で辻褄が合わない。

 国の固執する政令都市制度に縛られていたら、大阪市は早晩、破綻する。だから府と一緒になって生き残ろう、成長のための投資をしよう、別の言い方をすればもっと大きな財布にして大阪市を維持する財源を確保しようというのが今回の都構想だった。しかし市民にその意味が理解されなかった。

編:大阪に限った問題ではない

上山:そう。大都市問題は大阪だけではなく、全国で深刻化する。これに早めに対処するのは国の責任だ。本来は、国が、「政令指定都市制度はもはや限界」と宣言し、大都市制度の見直しを誘導すべきだ。方法は特別市制度でもいいし、都区制度でもよく、それは地域が選べばいい。あるいは大都市制度は各地の自由にゆだねる。

 そもそも国は3年前に、大都市行政の方向性を全く示さずに単に「大阪がうるさいから」とばかりに大都市特別区設置法という、万に一つの実現可能性しかない法律をつくった。地元の2議会が議決し、さらに住民投票もなんてハードルが高すぎる。

 そもそも大阪は財政的に府も市も事実上破綻している。国からの交付金でやっと成り立っているのだから、地元議会が大反対しても、国会決議で無理やり都区制度への移行を促すくらいのことをやらねばならない。ところが国政の政治家の多くは冷淡で「橋下徹のお手並み拝見」といった態度だった。

編:より本質的には、税源移譲や地方交付税といった税制改革が必要なのではないのでしょうか

上山:議論としては真っ当だが、実現可能性が低い。消費税をちょっと上げるだけで、あれだけエネルギーがかかる。税制改革なんて国政レベルで何年かかるかわからない。都構想のほうが簡単だ。それでも都構想がこうなったのは、政府に大都市財政の破綻に関する見識がなかったことが大きい。

 住民投票の否決で大阪市が窮乏化し、府がお手上げ宣言しても、周辺市は救済しない。国も冷淡だろう。大阪市が本当に財政破綻したら、きっと大都市制度の見直しを地方議会と住民投票だけにゆだねる今の仕組みではだめだという議論が始まるだろう。

編:大阪はもう改革できないのか

上山:既得権益を少しでも脅かす恐れのある改革には議会が及び腰だ。他の自治体なら普通にやっているごみ収集や保育所の民営化も市議会の反対で前に進まない。その延長線上に都構想の否決がある。今回の否決を機に改革が後退することはあっても加速することは想像しにくい。とはいえこの7年半、橋下徹氏のおかげで改革が進み、問題点も浮き彫りになった。職員厚遇問題を機に05年から始まった改革は、担い手を変えながら続いてきた。住民投票を経て市民の意識も高まった。これまでの蓄積を実践につなげていける知事と市長の登場を期待したい。

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