[WEDGE REPORT] Wedge編集部

大阪都構想は欺瞞だった


大阪都=大阪市廃止でないとできないのはカジノだけ。
「二重行政の弊害」も個別に判断してほしい。
多くの国では、首都と第2都市の差はもっと大きい。

 大阪の現状は肯定できるのか。大阪都反対派の有識者、村上弘氏に大阪市の過去と未来を聞いた。

村上 弘(立命館大学法学部教授 )

編集部(以下、編):今回の住民投票をどう評価しますか

村上教授(以下、村上):投票結果が僅差になった原因は、税金を投じた住民説明会で橋下徹市長が宣伝に努めたことと、賛成の人の方が熱心に投票に行く傾向があったことだ。

 さらに、投票用紙自体に、「大阪市における特別区の設置についての投票」と書かれ、大阪市を残したまま区を特別区に昇格させると誤解させうるものだった。もし投票用紙が、「大阪市の廃止」を明記する公正中立なものであれば、「反対」票はもっと増えて「賛成」票に差をつけていただろう。

 分かりにくく詐欺的ともいえる投票用紙は、今後の国民・住民投票で、繰り返してはならない事例として記憶するべきだ。
 Hiroshi Murakami  1954
村上 弘((Hiroshi Murakami)
 立命館大学法学部教授 1954年京都市生まれ。京都大学大学院修了、法学博士。ドイツ・コンスタンツ大学などで研究。専門は行政学、政治学、地方自治論。 (写真:井上智幸)
編:都構想そのものへの評価は

村上:都構想が最初出たときは、興味深いとも思った。維新のホームページには、成長戦略と住民サービスと、二重行政の解消の3つが公式目的としてあげられていた。しかし、具体的に詰めていくと、大阪市を廃止して行う大型政策とは何かが見えてこない。関空も作り、梅田北開発も一部完成したのでカードが残っていない。

 JR関空快速の高速化(停車駅の減)、都心高速道路の整備は、市と府の協力でやっていける。だから、大阪都=大阪市廃止でないとできないのは何か検討して行くと、ほぼカジノだけだ。

 今なら、住民がカジノに反対すれば、大阪市が、カジノを認めないか条件をつけることができる。しかし、大阪都で市の「都市計画権限」が府に移ると、住民の意見は無視しやすくなる。
10 Demographia World Urban Areas 2015
世界の大都市人口ベスト10と大阪
 (出所)Demographia World Urban Areas (注)人口は2015年推計値
編:一方で、二重行政の弊害も確かに存在しています

村上:一部マスコミは、「二重行政=ムダ」論を受け売りしたが、具体的に調べてほしかった。府と市の中央図書館は、どちらも賑わっている。府立大と市立大は、国立大学が2つしかない大阪(東京には11)では、高等教育を支える役割が大きい。国際会議場と見本市会場は場所も機能も違う。病院、体育館など、便利で有用な二重行政は少なくない。

 維新の理念は「権力(権限)集中」と「小さな政府(効率優先)」なので、府とは別に強い大阪市があるのは有害で、二重行政はすべてムダだという主張になる。しかし二重行政は巨大都市圏の需要に相当した便利なものも多い。

編:府と市があっても二重行政の解消はできる、と

村上:京都でも、協議して府市共同施設を作っている。他方で、大阪市の存在や政策力が大阪を何とか支えてきたのではないか。市が廃止され、特別区に分かれて区長を選べば、住民のために配慮するだろうが、大阪市に比べて財源が弱くなり、職員組織も分割されるので、競争しても力が出ない。

 大阪都協議会での推算は、市の廃止による節約効果は小さいということだった。5特別区への分割で新規コストが発生するからだ。

 もともと橋下市長は、「(特別区の)人口は30万」と言っていた。だが、結果的に60万人以上にまで膨らんだのに、都市計画や産業振興の権限もない。都市計画は、普通の市でもやっている。それができないというのは一般市以下への格下げだ。とても中核市並みの特別区じゃない。

「市廃止すれば成長」は幻想


編:それでも、東京に対して大阪の没落が目立ちます

村上:難しい論点だ。日本史は西から東へ発展したので、今や関西の地位低下が目立つ。しかし、イギリス、フランス、韓国などでは、首都と第2都市の差はもっと大きい。大阪を含めた関西は、まだ頑張ってきたという見方もできる。

 大阪市があったから地盤沈下になったのか、大阪市が努力したからこの程度で止まっているのかというと、私は後の見方を採る。

 「大阪都=大阪市廃止」ですごい政策が打てるという幻想を捨てて、製造業、教育、観光、少子化対策などそれぞれに即して、有効な振興策を進めていくことが必要だ。府市の施設を統合すれば高度化できる場合もあるだろう。

編:外部環境は変化しており、大阪市も変わる必要があるのでは

村上:ムダな施設の廃止、ムダな歳出の削減など、効率化は必要だ。他方で大阪市の政策成果というのは結構ある。

 例えば、ユニバーサルスタジオジャパンの誘致、海遊館の誘致。それから、昔の大阪市はちょっと怖い都市だったが随分整備した。中之島の公園や諸施設は、今やヨーロッパ並みで、観光資源にもなっている。梅田の周辺も天王寺も整備した。東京だったら国がやってくれるところを、大阪市は頑張ってきた。地下鉄は南大阪方面の相互乗り入れがないのが問題だが、北、東、西からは鉄道が何本も都心まで乗り入れている。

編:これからの大阪はどうすべきか

村上:東京に量的に追いつくのは無理でも、大阪・関西は都市の魅力、文化、生活などの「質」では勝っているし、特定の産業や機能で優位に立つこともできる。1人当たり所得が下がっているので、それは持ち直す必要がある。

 都構想にすべてを賭けて、具体的な都市政策をほとんど打たない「失われた4年間」から、立ち直る必要がある。現在の政令指定都市制度にも維新が指摘した問題点はあるので、それへの改善策、つまり「総合区」と「府市調整会議」は実現すべきだ。秋の知事・市長選に向けて、野党側は具体化を進め、争点化してはどうか。

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