長谷川良(ウィーン在住ジャーナリスト)

 汚職。賄賂、腐敗容疑で幹部たちが逮捕された国際サッカー連盟(FIFA)には現在、209カ国・地域のサッカー連盟が加盟している。加盟国数では193カ国の国連より16カ国多い。すなわち、FIFAは加盟国数では世界最大の国際機関ということになる。そのうえ、サッカーは世界で最も競技人口が多いスポーツだ。世界各地を網羅し、競技人口も多いサッカーのナショナル連盟を主管するFIFAの影響はそれだけ大きい。「FIFAは国連より大きい政治的影響力を持った組織だ」といわれる所以だ。

2010年9月の国連総会。オバマ米大統領が演説中だ
 そのトップに16年間君臨してきたゼップ・ブラッター会長(79)への疑惑調査が水面下で進行中だ。国連でいえば、潘基文事務総長が汚職容疑をかけられている状況といえる。FIFAは組織の存続の危機に直面しているわけだ。

 ここにきて5選したブラッター会長の逮捕は時間の問題とも言われ出してきた。なぜならば、米連邦捜査局(FBI)に逮捕されたFIFAの元幹部たちがFIFAの内部情報を漏らし始めているからだ。ブラッター会長は5選直後の記者会見では、「捜査は自分を対象としていない」と、自身の潔白さを誇示していたが、スイス警察はFBIの捜査に協力し、ブラッター会長周辺の動向を慎重に調べ出している。

 常識的にみると、元幹部や現職幹部たちが汚職や賄賂で逮捕されたということは、組織のトップに君臨しているブラッター会長がそれらの汚職事件にまったく関与していなかったとは考えにくい。

 前日のコラムでも指摘したが、ワールド・カップ(W杯)誘致では、大会候補国ばかりか、スポンサー、テレビ放送権まで巨額の資金が動く。その資金を管理するFIFA 幹部たちがその一部を自身の銀行口座に入れてきた疑いがあるわけだ。ブラッター会長は「自分は全ての幹部を掌握していない」と弁明しているが、ブラッター会長の暗黙の了承で賄賂が日常茶飯事に行われてきたと受け取られているのだ。

 元幹部たちの逮捕事件が発覚した直後に実施されたFIFA会長選でブラッター会長が楽勝した背後について、「FIFA関係者が全て何らかの腐敗行為にタッチしていたから、誰もブラッター会長に強く反対できなかった。組織の保全と犯罪隠蔽の必要性もあって、ブラッター会長は楽勝できたわけだ」という声が聞かれる。FIFAはマフィアと同じ組織構造だというわけだ。

 独週刊誌シュピーゲル最新号の表紙にはブラッター会長の写真が掲載され、「腐敗」というタイトルが付いている。FBIはFIFAの幹部たちの汚職、マネーロンダリング(不法資金の洗浄)などを組織犯罪と見なしている。

 FIFAにとって命取りとなったのは、2018年のW杯でロシアを、22年のW杯をカタールで開催することを決定したことだ。決定直後から、「誘致には巨額の黒い金がFIFA関係者に流れた」といわれてきた。

 FIFAがサッカーの競技人口も少なく、夏50度の灼熱のカタールでW杯大会を開催すると表明した時、世界のサッカーファンたちは一瞬、耳を疑ったはずだ。ひょっとしたら、クーラー完備の競技場が建設される、W杯の開催を夏ではなく、冬にする、といった類の情報も流れてきた。

 ちなみに、W杯の不正招致の疑いに対し、ロシアは「誘致には疑惑などない。今回の茶番劇は、ロシアに圧力を行使しようとする米国の政治的動機に基づくものだ」と強く反発している。

 FIFAは組織改革を実施しなければならない。第一弾は会長職の2選制限だ。ブラッター会長のように長期政権を許せば、汚職、賄賂、縁故主義といった腐敗が必ず生まれてくるからだ。また、巨額の資金が動くFIFAでは、財政専門家から構成された内部監査員が資金の動きを監視し、透明化する必要がある。

 ファンの皆さんには申し訳ないが、世界最高のサッカー選手といわれるリオネル・メッシ選手(FCバルセロナ)を取り巻く関係者にもマネーロンダリングと詐欺容疑が浮かび上がっている。FIFA関係者だけではなく、スター選手周辺にもさまざまな腐敗容疑が浮かび上がっているのだ。

 FIFAもサッカー選手もフェアプレー精神を取り戻してほしい。ランス・アームストロング選手らスター選手のドーピング事件の発覚で信頼を完全に失った自転車競技、特にツール・ド・フランスの衰退は決して他人事ではないのだ。