玄葉光一郎外相(47)と前原誠司民主党政策調査会長(49)が今月(10月)、相次いで韓国を訪問した。日韓の経済連携協定(EPA)の交渉促進などを話し合ったとされるが物足りない。

 たとえば、朝鮮半島有事の際に、自衛隊の輸送機や艦船を韓国に派遣して邦人を救出できるよう韓国政府の同意を取り付けておく課題は、まともに議論もされなかった。万一の時は「想定外だった」といいわけするつもりだろうか。野田佳彦首相(54)は18日から訪韓するが、「朝鮮王室儀軌」などの図書の引き渡しで表面的な友好を演出しているだけでは外交とはいえない。

日本は北の「敵国」

  自衛隊による在韓邦人救出の問題に言及したのは菅直人前首相(65)だった。首相在任中の2010年12月、「民間機(での輸送)が危なくなった場合に、自衛隊機で救出するルールができていない。韓国との間で相談を始めたい」と表明したのだ。
在韓邦人は長期滞在者・永住者が2万9000人、旅行者が毎日約9000人で、合わせて約3万8000人になる。

  朝鮮有事とは休戦中の朝鮮戦争の再開を指す。いわば第2次朝鮮戦争だ。韓国と日本には今も朝鮮戦争時の国連軍(朝鮮国連軍)がいる。沖縄の米海兵隊普天間基地など7つの在日米軍基地は朝鮮国連軍の指定基地だ。

  日本は米英仏豪など8カ国と国連軍地位協定を結び、不幸にして朝鮮戦争が再開すれば日本に国連軍が出入りする。日本の国連軍への協力がビルトインされているわけだ。
  北東アジアの安全保障のために必要な仕組みだが、北朝鮮から見れば日本は文字通りの敵国だ。なおさら、有事の際は在韓邦人を避難させなければならない。

  在韓日本国大使館のホームページにある「安全マニュアル」を見てほしい。この中の「緊急事態対処マニュアル」には、韓国政府の「戦争・テロ等、非常時国民行動要領」が添付されている。この行動要領は空襲や砲撃に加え、ミサイルや核兵器、生物兵器、化学兵器による攻撃時に、韓国民がとるべき対応を説明している。

 民主党政権も、東日本大震災で危機管理の大切さは学んだはずだ。「千年に一度」の津波を伴う震災に備えるなら、避難が遅れて取り残される在韓邦人救出の手立ても整えておくのが当然だろう。

 自衛隊の派遣準備をしておくには、韓国政府の事前の同意を得ることと、自衛隊法改正が必要だ。現行法では「安全が確保」されている時しか自衛隊の邦人輸送を認めていない。しかも、自衛隊は空港や港湾にたどり着いた邦人を連れて帰ることしかできない。自民党は2010年6月、空港や港湾までの経路で邦人を自衛隊が警護できるようにする自衛隊法改正案を国会提出した。だが、民主党は顧みなかったが、なぜなのだろうか。

首脳会談で話し合え

  菅氏は韓国政府との交渉を唱えたものの本気ではなく、協議は実現しなかった。韓国政府が自衛隊のオペレーションを嫌っているので諦めたようだ。日韓両国は1994年から防衛交流を進めてきたが、今なお自国民の救出さえ受け入れられないのでは、友好国だと言われても疑わしい限りだ。どんな信頼醸成をしてきたのだろう。いざ有事の際に韓国政府から容認されてもだめだ。危機対応には事前の備えが必要なのは当然ではないか。

  玄葉氏は6日の李明博(イ・ミョンバク)韓国大統領(69)との会談で「日韓両国は『近くて近い国』からK-POPや韓国映画などが日本のお茶の間に入ってくるさらに身近な存在となっている」と語った。

  自国民の救出の手立ても認めない隣国の指導者に、よくこんな浮ついたことが言えたものだ。それとも、邦人救出の手立てを整える問題意識がないのかもしれない。前原氏にしても突如、慰安婦基金構想を打ち出したが、韓国側の反日傾向を強め、日韓関係に混乱のタネをまくだけだ。

  竹島問題や邦人救出など相手国が取り上げることを嫌う事柄に取り組まない政治家しか日本国民が養っていないとすれば悲劇だ。

  2012年の韓国大統領選では革新系が勝つ可能性もある。保守系の李政権の間に話し合った方が得策だ。野田首相は自衛隊法改正を表明するとともに、訪韓時の李大統領との首脳会談で率直に邦人救出問題での協力を求めるべきだ。歴史問題で位負けして、自国民の安全をないがしろにするのは愚の骨頂だからだ。
 (政治部 榊原智)