榊原英資(青山学院大学教授)

 現在、欧州連合(EU)加盟国は28カ国、そのうち19カ国がユーロを通貨として採用しユーロ圏と呼ばれている。EUに参加しながら自国通貨を維持しているのはイギリス、スウェーデン、ポーランド、ハンガリーなど9カ国。各国の成長率を見ると、自国通貨を維持している国の経済が好調だ。

 イギリスは2013年は1・74%、14年は3・21%(14年はIMFによる予測)。スウェーデンは13年が1・64%で14年が2・11%。同様にポーランドは1・55%と3・25%、ハンガリーは1・10%と2・80%である。

ユーロ導入で顕在化した格差


 これに対しユーロ圏経済は停滞気味だ。ドイツは13年が0・53%で14年が1・39%、フランスも13年は0・29%で14年が0・37%。南ヨーロッパはさらに悪く、イタリアは13年がマイナス1・85%、14年が同0・17%。スペインは13年が同1・22%になっている。

 実はユーロ圏はユーロという共通の通貨を持つことによって構造的な問題を抱えてしまっているのだ。ヨーロッパ諸国の経済力はドイツ、オランダなどの北ヨーロッパ諸国が強く、ギリシャ、スペインなどの経済力は相対的に弱い。

 かつて通貨が別々の時はドイツマルクが継続的に切り上げられ、ギリシャドラクマが切り下げられることによって、通貨による競争力の調整が可能だった。周知のように1985年のプラザ合意によってドイツマルクは日本円とともに大幅に切り上げられている。

 しかし99年のユーロ創設によってドイツもギリシャ、スペインも共通の土俵に上がることになってしまった。ギリシャなども当初は強い通貨に移行することによるメリットもあったのだが、次第にドイツなどとの競争に晒(さら)され、その経済は弱体化していった。

 ユーロ導入以降、ドイツやオランダの国際収支は大きく改善し、2014年にはドイツは国内総生産(GDP)比で6・20%、オランダは9・88%の黒字を計上しているが、逆にフランスはマイナス1・42%、スペインは0・10%、イタリアは1・20%になってしまっている。

独り勝ちとなったドイツ


 また、ギリシャもこのところの緊縮策で改善はしているものの(14年はGDP比で0・70%)、10年、11年には10・29%、9・86%の赤字を計上し、いわゆるギリシャ危機をおこしてしまった。フランスもイタリアもユーロ導入前は国際収支は黒字だったし、ギリシャの赤字もGDP比で4%以下だったのだから、ユーロ導入によって南ヨーロッパ諸国の国際収支は一気に悪化してしまったということなのである。

 同様のことは財政収支についても見られる。つまり、ユーロ導入によってドイツの財政収支は改善し、11年にはほぼ収支均衡するところまでいったのだが、逆に、フランス、イタリア、ギリシャの財政収支は継続的に悪化していって、ついにはギリシャ危機ということになってしまった。

 共通通貨ユーロの導入は、ドイツ、オランダなどの北ヨーロッパ諸国とイタリア、スペイン、ギリシャなどの南ヨーロッパ諸国が同じ土俵で競争する状況を作り出し、ドイツの独り勝ちという結果をもたらしたのである。ドイツはかつてのようにドイツマルクの切り上げというハンディキャップを課されることなく、共通通貨ユーロで輸出ができるようになったのだから、当然、国際収支は劇的に改善した。そしてそれが財政収支の均衡回復にも結びついていったのだ。

見通し立たない財政の統合


 確かに、ユーロの導入、そして欧州中央銀行(ECB)の設立による為替と金融の統合はヨーロッパ統合の重要なステップだった。あとは財政が統合されればヨーロッパの統合は完成し、「ヨーロッパ合衆国」ができるというわけである。しかし、財政の統合は容易ではないし、今のところ、その見通しは全く立っていないといっていいだろう。

 とすれば、ヨーロッパは現在の中途半端な統合の状態をしばらく続けざるをえない。今さらドイツマルク、ギリシャドラクマ復活ということはできないからだ。

 ユーロ導入による南ヨーロッパ諸国の低迷は、最終的にはドイツにもマイナス効果をもたらすことになっている。13年のドイツの成長率は0・53%とかつての成長率(02~11年の平均成長率は1・14%)から大きく落ち込んでいる。ギリシャやイタリアのマイナス成長の影響を受けているからだ。

 ユーロという共通通貨を持っていることが、格差の拡大と低成長の原因なのだから問題は構造的であり深刻である。確かにユーロ創設はヨーロッパ統合への重要な一歩であったことは間違いないが、逆に格差を拡大し、統合を難しくしてしまったというわけなのだ。

 財政の統合へ早急に歩みを進めなければ「ヨーロッパ合衆国」創設の夢は雲散霧消してしまいかねない。ドイツが腹をくくって、それなりの財政負担をすることが重要なのではないだろうか。

(さかきばら えいすけ)