高橋洋一(元内閣参事官・嘉悦大教授)

 民主党の枝野幸男幹事長が、「憲法解釈を都合よく変えてよいとなったら、次は徴兵制」と発言したと報じられた。ほかにも民主党議員らによる徴兵制についての言及が目立つが、そもそも徴兵制は合理的な選択肢としてあり得るものだろうか。

 朝日新聞の報道によれば、枝野氏は街頭演説で「徴兵制だって、集団的自衛権と一緒で、憲法に明確に(禁止と)は書いていない。(中略)いまは『徴兵制なんて考えていません。憲法違反』と、国会で答えている。だが、『(憲法は)苦役は駄目だと言っているだけで、徴兵は苦役じゃない、名誉だ』と言い出せば、憲法違反じゃなくなる」と述べたという。

党首討論で安倍首相に質問する民主党の岡田克也代表=6月17日午後、国会・参院第1委員会室(酒巻俊介撮影)
 まず、徴兵制は、近代においては不必要になっている。兵器技術の進歩から、大量の専門性に欠ける兵士は必要ではない。このため、戦後フランス、ドイツ、スウェーデンなど、徴兵制度をやめる国が増えており、先進7カ国(G7)はすべて徴兵制ではない。

 先進20カ国(G20)では、欧州連合(EU)と、文献によって採用と不採用が不明なインドネシアを除く18カ国でみると、日本のほか、アルゼンチン、オーストラリア、カナダ、中国、フランス、ドイツ、インド、イタリア、サウジアラビア、南アフリカ共和国、英国、米国の13カ国が徴兵制を実施していない。ブラジル、韓国、メキシコ、ロシア、トルコの5カ国が徴兵制の国だ。

 このような世界の現実をみれば、日本で徴兵制が導入されるという「前提」がちょっとおかしいと言わざるをえない。安全保障の議論の際、いつものことではあるが、いわゆる「立憲主義者」の議論はリアルではなく、極端なものばかりだ。徴兵制もその典型であり、議論にならないはずのものを無理やりもってきて、恐怖感をあおっている。

 本コラムでは、日本国憲法第9条に相当する条文は、韓国、フィリピン、ドイツ、イタリアの憲法に盛り込まれていると指摘してきた。それらの国のうち、韓国、フィリピンでは徴兵制が行われ、イタリアは2005年に停止されるまで、ドイツも11年に停止されるまで実施していた。

 こうした意味で、実際には不必要な徴兵制ではあるが、憲法の条文との関係で、制度として廃止されるべきものとまでは言いがたいのも事実だ。

 もっとも、もし仮に徴兵制を議論するのであれば、国政選挙の前に、実施したい政党は公約に盛り込むはずなので、その時点で国民が判断すればいい。今の政府・自民党は、公約で徴兵制を打ち出しておらず、徴兵制を否定している。

 枝野氏が「勝手に時の権力者の解釈で(憲法解釈を)変更できることにしたら、いずれ間違いなく、徴兵制は憲法違反じゃないと言い出す権力者がでてくる。そうなってからでは、遅い」というのは、陰謀論に近い言い方であり、政治論争にならない。

 最高裁の違憲立法審査権を意味がないと否定するなど、立憲主義者は独裁者と似ているのではないか。

たかはし・よういち 1955年、東京都に生まれる。東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒業。博士(政策研究)。1980年、大蔵省入省。理財局資金企画室長、プリンストン大学客員研究員、内閣府参事官(経済財政諮問会議特命室)、総務大臣補佐官などを歴任したあと、2006年から内閣参事官(官邸・総理補佐官補)。2008年退官。金融庁顧問等を経て、現在、嘉悦大学教授、政策工房会長。主要著書に『財投改革の経済学』(東洋経済新報社)、『さらば財務省』(講談社)、『こうすれば日本はもの凄い経済大国になる』(小学館)、『アベノミクスの逆襲』(PHP研究所)、『【図解】ピケティ入門』(あさ出版)など多数。