増田寛也(日本創成会議座長)


鯖江と燕三条の技術力


 地方はどう生き残っていくのか、地方から東京への人口流出を止めるにはどうすればいいのか。地方対策の切り札の一つとなるであろう、世界でナンバーワンのブランドをつくり、海外と直接つながることを目指す世界的ローカル・ブランドの創出をまず提案したい。

 いわゆる「イタリアモデル」である。

 たとえば、北部に位置するボローニャ市は人口三七万の工業都市。高級スポーツカー・メーカーとしておなじみのマセラティ、ランボルギーニ。高級バイクのドゥカティ、マラグーティ。紳士靴の最高峰として知られるア・テストーニなどの発祥地。ボローニャのような元気な地方都市の大半は、かつての都市国家の歴史を受け継いだ都市である。

 イタリアでは、どんな小さな村にも独自のデザイン力、技術力で世界の圧倒的シェアを占める商品や製品がある。世界中からバイヤーをはじめとする関係者が訪れるという光景も当たり前だ。イタリアはG7の一員ではあるものの、過剰債務に喘ぎ、二〇一二年からずっとマイナス成長に苦しんでいる。だが、そうした村では国の財政や経済がどうであれ、ビクともしない。

 実は、日本にも世界から注目されているローカル・ブランドがすでにある。人口減少が加速する地方都市のなかでも人口がほぼ維持されている福井県鯖江市だ。ここは昔からメガネ産業で知れ渡っていたけれど、時代のニーズに巧みにアジャストすることで鯖江ブランドを維持してきた。それどころか、いまではデザインのイタリア、大量生産の中国と並び、世界三大フレーム地となっている。
東京圏の高齢者を受け入れる余力がある地域のリストを示しながら、政府や自治体への提言内容を説明する「日本創成会議」の増田寛也座長

 世界的に評価の高い刃物や金属洋食器を生産する新潟県の燕三条も、鯖江同様に素晴らしい。欧米市場に受け入れられるデザイン、カラー、材質に磨きをかけることで、独特の地位を獲得した。東京を通さずに世界で羽ばたいているブランドを確立した好例の一つと言えよう。毎年行われているノーベル賞授賞式晩餐会にも、一九九一年から燕三条のオリジナルカラトリー(ナイフ・フォーク・スプーン類)が納められているとのことだ。

 このように日本の高い技術力を示す世界的な「匠の技」はまだまだ全国に必ずあるはずだ。

ITを駆使した最先端の生産体制


 つぎに農業と最先端技術を結びつけた例を紹介しよう。

 東日本大震災で九五%のイチゴ畑が壊滅した宮城県山元町では、地元出身の若者が東京からUターンし、特産のイチゴ栽培で農業の新しいモデルを構築している。

 もともと東京でITベンチャー企業を経営していたスキルを活かし、従来の経験と勘に頼る農業ではなく、水耕栽培とITを駆使した最先端の生産体制を築いている。津波でイチゴ畑を失った地元のイチゴ農家とともに品質向上に取り組み、イチゴ栽培に理想的な気象条件となるよう、ハウス内の温度、湿度はもちろん、日照、水、風、二酸化炭素、養分まで全自動で制御し、高品質のイチゴ生産に成功した。東京の百貨店では「ミガキイチゴ」というブランドで、一粒一〇〇〇円の値段で売れた。しかも、その先端園芸施設を利用して、現在はインドでのイチゴ生産に取り組んでいるという。

国内向けでも成功できる


 海外へのビジネスとまでいかなくとも、高齢者がITを駆使した葉っぱビジネスで有名な徳島県上勝町のように国内向けで成功しているところもある。

 島根県の離島である隠岐諸島の海士町の例も参考となるだろう。平成の大合併に動かなかった海士町は、二〇〇八年には財政再建団体となると陰口を叩かれるほど追い込まれていた。山内道雄町長が大幅な行財政改革を断行したのは二〇〇五年で、これにより人口二四〇〇人余りの海士町は「日本一給料の安い自治体」となった。

 ところがここからの海士町の自助努力には目を見張らされる。必死で議会を説得して、細胞組織を壊さず冷凍、鮮度を保ったまま魚介を出荷できる最新技術「CASシステム」の導入にこぎつける。これが奏功し、産地直送で競争力の高い「いわがき・春香」や「しろイカ」などを直接、都市の流通に乗せるのに成功した。

 現在、尽力しているのが島で育てた隠岐牛のブランド化だという。

 一方、海士町にはこの一〇年間で四〇〇人がⅠターンで移住している。移住者は二〇?四〇代の働き盛りで、有名企業からスピンアウトしてきた優秀な人たちがけっこう多い。

 彼らの目的は「起業である」。山内町長が「海士町で起業しませんか? 頑張る人を応援します!」と全国に発信したメッセージに応える形で、続々と移住してきた。
成果は現われている。最大の成功例は、地元で採れる中華の高級食材「干しナマコ」事業で、すでに中国への輸出を果たしている。「島留学」で有名な隠岐島前高校にも島外からの進学者が増えて一クラス増設したという。

 首長が危機感とやる気を備え、構想がしっかりしていれば自らの力で生き残れる。それを離島の海士町は見事に証明しているのだと思う。

※『地方消滅と東京老化』(ビジネス社刊)「提言2 世界的ローカル・ブランドの創出」をもとに再編集


ますだ・ひろや 昭和26年、東京都生まれ。52年に東京大法学部を卒業し、建設省(現国土交通省)入省。茨城県企画部鉄道交通課長などを経て、平成6年、経済局建設業課紛争調整官で退省。7年、当時の全国最年少の43歳で岩手県知事に初当選。地方から日本を変える改革派知事として3期務める。郵政民営化委員会委員などを経て、19年8月から第1次安倍内閣、福田内閣の総務相、地方再生担当相などを兼務した。野村総合研究所顧問、東京大公共政策大学院客員教授、日本創成会議座長。

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