井伊重之(産経新聞論説委員)

 安倍晋三政権が重要政策と位置付ける「地方創生」は、民間の有識者らで組織する日本創成会議(座長・増田寛也元総務相)が昨年5月にまとめた提言が契機となった。この提言では若い女性が減って人口の減少が進み、「将来的には消滅する可能性がある」として全国896の自治体に警鐘を鳴らした。

 これを受けて政府は、地方の活性化を促すため、内閣に「まち・ひと・しごと創生本部」を立ち上げ、専任の担当相まで配置した。「衆院選をにらんだ地方票狙い」との批判もあったが、地方を中心に人口が減る中で、その地域の活力をどう維持するかは、日本の将来にとって課題である点は誰もが認めるところだろう。

 ただ、「消滅の恐れがある」と名指しされた自治体の中には、「処方箋も示すべきだ」と反発する声もあった。地域の将来像が見えず、住民の流出がさらに加速する事態が懸念されるからだ。「自治体が消滅する」との報道で不安になった住民の問い合わせに追われる自治体もあったという。

 その創成会議が今月、「地方移住」を柱とする提言を発表した。東京都と周辺3県による東京圏で2025年には介護が必要な47万人のうち、13万人分の介護施設が不足すると予測。そして医療や介護の受け入れ態勢が整備されている41地域を例示し、東京圏からの移住を提案した。昨年の「地方消滅」に対する答えといえる。

 中央公論は「2025年、東京圏介護破綻」で創成会議の提言を特集した。増田は「人口減少時代において一見すると『勝ち組』にみえる東京圏も急速な高齢化で医療・介護や住まいの問題が深刻化する恐れが高い」と強調し、「老いる東京」を全国的な視点で論じる必要性を訴えている。

 1都3県には75歳以上の後期高齢者397万人が暮らしているが、25年には572万人に増えると試算。これは全国の増加数の3分の1を占める。高度成長期に地方から東京圏に出てきた団塊の世代が会社勤めを終え、後期高齢者になるのに伴って東京圏も急速に老いる構図だ。
北陸新幹線「かがやき」に乗車した安倍首相=JR東京駅(代表撮影)

 地方移住を希望する人は中高年層にも多い。政府も高齢者の地方移住を後押しするため、新たな交付金などを検討している。地方移住も有力な選択肢といえるが、高齢者が移住した先では医療や介護で財政負担が増えるなどの問題もある。地方は交付金で新たな施設を建設するだけでなく、東京圏から人を呼び込むために自らの魅力を高める取り組みが不可欠だ。

 高齢化がもたらす日本の問題を別の角度から論じたのが「2025年『老人大国』への警告」(文芸春秋)だ。東大の研究者たちが横断的に高齢社会を研究する高齢社会総合研究機構がまとめた調査結果について、ジャーナリストの森健が報告している。

 成年後見制度では親族のほか、弁護士、司法書士などの専門職が後見人となるが、東大法学部教授の樋口範雄は「後見人の負担が大きいために活用が広がっているとは言い難い」と分析する。高齢化で認知症患者の増加が見込まれる中で、使い勝手のよい制度への改革が求められている。

 また、高齢者が健康に暮らすためには、「社会性」が重要だという。家族や友人とともに食事をし、カラオケや散歩など日常的な娯楽を楽しむことが、社会性や筋肉量の維持につながるようだ。高齢者の社会参加を促す仕組みづくりが問われている。

 「日本は『大地変動の時代』に突入した」(文芸春秋)は最近、活発化している火山噴火を分析している。京都大教授の鎌田浩毅は「東日本大震災で各地の地盤に大きな歪みが残された」と震災が影響しており、御嶽山や箱根山はその幕開けだと指摘する。地震と噴火の因果関係はよく分かっていないともいうが、今は桜島の大規模噴火が懸念されるとして警戒を呼びかけている。=敬称略

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