61%対39%。ギリシャで5日行われたEUが求めている財政緊縮策の受入れの是非を問う国民投票の結果は、「拮抗」という事前世論調査とかけ離れた「大差」での否決となった。

 国民投票でEUが要求する財政緊縮策が「大差」で否決されたことで、今後の焦点は再びEUがギリシャ支援を続けるのかどうかに戻る格好になった。

 「IMF融資は返済されていない。これはすぐにデフォルトとはならず、返済の遅滞になる」

 6月30日に期限を迎えた国際通貨基金(IMF)への15億5000万ユーロ(約2100億円)の支払いが履行されず、ギリシャはIMFから受けた融資で事実上のデフォルト(債務不履行)状態に陥る史上初の先進国となった際に、欧州中央銀行(ECB)理事会メンバーのオーストリア中銀総裁はこのように述べ、「デフォルトではなく返済の遅滞に当たる」との認識を示した。

 ギリシャの国民投票でEUが要求する財政緊縮策が否決されたことで、EUがギリシャへの支援を打ち切り、ギリシャがユーロ離脱に追い込まれることで、世界経済に大きな打撃が及ぶという見方も出て来ている。しかし、問題はそれほど単純なものではない。

 ギリシャが抱える債務は約40兆円といわれており、負債総額においてはリーマン・ショックを引き起したリーマン・ブラザーズの約60兆円に匹敵する規模である。しかし、負債総額の大きさと世界の金融市場への影響の大きさは比例するものではない。リーマン・ショックと比較すると、金融市場に及ぼす影響はかなり限定的なものに留まる可能性が高い。それは、ギリシャの抱える債務約40兆円のうち、既に大半の約33兆円がIMFやECBといった公的機関の保有になっているからだ。

 リーマン・ショックでは民間で起きた負の連鎖が金融システムを揺るがすことになったのに対して、今回は公的機関が既に大半の債務を引き受けていることで負の連鎖は起き難く、金融システムを揺るがす事態に至る可能性が低いということだ。負債はその規模だけでなく、誰に保有されているかによって影響は大きく異なってくるということを忘れてはならない。

 国民投票でEUが要求する財政緊縮策が否決されたことで、ギリシャが財政緊縮策をとらなくなるという見方もある。しかし、今回の国民投票の結果に関らず、ギリシャが財政緊縮策を実施せざるを得ないことに変わりはない。

 国民投票で緊縮財政を受け入れることになれば、EUの要求に沿ってまずはギリシャ国民が年金カットや支給年齢引き上げなどの痛みを負うことになったはずであるが、否決されたことで一旦これは棚上げされた。

 しかし、ギリシャはデフォルトに追い込まれるか否かに関らず、EUやIMF、ECBからの資金援助が絶たれれば、今のような年金制度を始めとした社会制度を維持することは出来ないため、結局ギリシャ国民は緊縮財政を受け入れた場合と同じ負担を負うことになる。

 ギリシャ国民にとっての違いは、ギリシャが抱える対外債務が減額される中で窮乏生活をするか、それとも借金を負ったままEUの監視下で窮乏生活を強いられるかである。結果が同じだとしたら、対外債務が減らせ、自主的に窮乏生活を選択した方が賢明ということになる。これは経済合理性だけではなく、国民のプライドの問題だ。

 ギリシャのデフォルトが、これまで何回も起きている国家のデフォルトと決定的に違うことは、「先進国初」ということではなく、「統一通貨ユーロを採用している国初」であるところである。債権国側が懸念していることは、金融的に負の連鎖が限定的であったとしても、統一通貨を通した影響が未知数なところである。極論すれば、ギリシャ経済の行く末ではなく、ユーロの行く末だということだ。

 金融市場の波乱を防ぐために必要なことは、市場にユーロ崩壊懸念を抱かせないことである。そのためには、安易にギリシャをユーロ離脱させるわけにはいかない。明確な追放ルールがない中でギリシャをユーロ離脱に追い込めば、金融市場に「第二のギリシャ」を探す口実を与えることになってしまうからだ。

 ドイツを筆頭にEU首脳やオバマ大統領がギリシャのユーロ離脱を阻止する姿勢を示しているのも、ユーロ崩壊懸念の高まりが金融システムに大きな打撃になることを理解しているからに他ならない。

 そうかといってEUやECBがデフォルトした国に支援を続けることは難しいし、支援しなければ資金が足りないギリシャはユーロに代わる代替通貨を発行せざるを得なくなる。これはユーロ圏の金融政策をECBが担うという統一通貨ユーロ制度を根幹から揺るがしかねないものであると同時に、ギリシャにユーロ離脱を迫るものでもある。

 忘れてならないことは、経済格差が厳然と存在する国によって形成される統一通貨ユーロは、「どのように分割してもドイツが属するグループの通貨が強くなる」という宿命を抱えていることである。これはドイツの立場からいえば「常に国力よりも弱い通貨を持てる」というメリットがあるということである。

 日米を筆頭に多くの国が金融緩和による通貨安政策によって景気を回復させようとしているのに対して、ドイツはユーロ内に財政的な脆弱な国を抱え込むことで通貨安を享受できる体制を持っているという現実を忘れてはならない。ギリシャをユーロから離脱させてしまえば、通貨ユーロは以前より強くなってしまい、ドイツなどユーロ内の勝組国は通貨安のメリットを享受出来なくなってしまう。

 市場ではECBが保有するギリシャ国債4,900億円が償還を迎える7月20日がギリシャデフォルトの「Xデイ」だとする見方も多い。しかし、金融システムを守る立場にいる中央銀行(ECB)が、金融システムの崩壊を招きかねないデフォルトの引き金を引くだろうか。

 リーマン・ショックもそうだが、世界の中央銀行は金融危機に対しては超法規的措置ともいえるような対応をしてまで、金融システムを守って来た歴史を持っている。ECBはこうした中央銀行の歴史に終止符を打つのだろうか。終止符を打つとしたら、それは「中央銀行は金融システムの番人である」という金融市場が抱いている常識に「解釈変更」を迫るものとなる。

 このように考えると、債務の一部削減と、緊縮財政の一部受入れで合意し、EUとECBがギリシャ支援を続ける道筋を残すことで、統一通貨ユーロを維持ししていくというのが「大人の落としどころ」ではないか。

 「デフォルトではなく遅滞」

 IMFとECBが示した玉虫色の判断が、今後のギリシャ問題解決への道筋の全てを物語っているように思えてならない。今後の交渉は債務削減幅になりそうだ。