自民党憲法改正推進本部(本部長・保利耕輔元文相)がまとめた憲法改正草案(4月27日公表)は「日本らしさ」がちりばめられ、政府の機能を「普通の民主主義国」の水準へ引き上げる手堅い内容になっている。

自民「緊急事態」を新設

 特記すべきは緊急事態に備える第9章を設けたことだ。現憲法は平時しか想定していない大きな欠陥がある。国民の生命財産を守るため一刻を争う対応が必要な緊急事態において、国の組織をどう迅速に、かつ機能的に動かすかの発想がまるでないのだ。65年間も現憲法で運営されてきた日本は危機を「想定外」とする国になってしまった。これではいけない。

 東日本大震災を経た日本は、地震の活動期に入ったと懸念されている。首都直下型地震や阪神・中京圏を含む東海・東南海・南海の3連動地震が起きれば東日本大震災以上の災害になりかねない。東日本大震災では、現憲法の下でも存在する災害対策基本法の「緊急事態宣言」が活用されなかった。平和ぼけも極まれりだが、平素から政府が準備していなかったため使えなかったのだろう。これはもう憲法に緊急事態のシステムを組み込んで政治家や官僚、国民の意識を改め、震災や有事に備えた方がいい。国民多数の支持も集まるだろう。憲法改正が実現する最初のテーマは緊急事態になるのではないか。

生命財産保護に直結

 自民党憲法改正草案は「第9章 緊急事態」を新設した。有事や内乱、大規模災害の際、首相は緊急事態宣言を出す。これにより、内閣は法律と同等の緊急政令や財政支出、首長への指示を発して事態に対処できるようになる。

 緊急事態宣言を政府が悪用しないよう安全装置もある。宣言自体や100日ごとの延長は国会承認が必要だ。緊急政令は国会の事後承認がなければ無効になる。宣言中の衆院解散は禁止だ。

 閣僚や国会議員の大多数が死亡したり、公務に服せなくなった場合の備えなどが欠けているが、自民党改正草案は、憲法改正原案を作る際のすぐれたたたき台になる。

 4月27日、自民党が改正草案を発表した会見で、朝日新聞の記者が「みんなの党の渡辺喜美代表や大阪市の橋下徹市長は憲法改正で統治機構を改め、『決められない政治』を変えたいという。自民党案は天皇陛下の(元首明記の)ような大きな問題では変わっているが、国の機構、国民生活がどう変わるのか見えにくい」と質問した。

  国会の一院制に関する質問だったようだが表現を変えた方がよかったかもしれない。緊急事態の章の創設こそ、統治機構を改め、国民の生命財産の保護に直結するからだ。残念なのは、回答した谷垣禎一総裁(67)が緊急事態の章創設の意義を説かなかったことだ。

熱意ない首相

  衆参両院の憲法審査会はそれなりに審議が進むようになった。参院憲法審査会は緊急事態への対応を意識した「国家緊急権」などの小委員会を作る方向だが、まだ各党間の手続き中だ。衆院憲法審査会は、以前の憲法調査会ですませたはずの憲法の各章の論点整理の作業に入ってしまった。

 野田佳彦首相(55)は、民主党憲法調査会の中野寛成会長(71)を衆院社会保障・税一体改革特別委員会の委員長に起用したことからわかるように、憲法改正に熱意はない。

 谷垣氏は消費税や社会保障改革を論ずるのはもちろんとして、野田首相に対して、民主党も党としての憲法改正案をまとめるか、憲法に緊急事態条項を創設するよう協力を迫ってみたらどうだろう。谷垣、野田両氏にとって憲法問題は荷が重いとは思いたくない。
(政治部 榊原智)