4月28日の朝日新聞によると、ドイツ紙フランクフルター・アルゲマイネ(FAZ)の元東京特派員、カルステン・ゲルミス記者は、執筆した記事について、日本の外務省から抗議を受けた事実を、日本外国特派員協会の機関誌で明らかにしたという。

 同記者は、2010年1月から今年4月上旬まで日本に滞在した。昨年8月14日にFAZに掲載した「『安倍(晋三)政権が歴史の修正を試み、韓国との関係を悪化させているうちに、中韓が接近して日本は孤立する』という内容の記事」が、抗議の発端だった。

 慰安婦問題を執拗(しつよう)に蒸し返して、日韓関係を悪化させたのは、韓国の方であり、私は、ゲルミス記者の記事は明らかに事実と異なった報道だと思う。日本外務省の抗議は、ドイツの在フランクフルト総領事により、FAZ本社に対しても行われた。
外務省の独紙への抗議を伝える朝日新聞の記事
(上、4月28日)と、翌29日の同紙社説

 冒頭の記事を書いた朝日新聞の記者は現地で、ゲルミス記者の上司と総領事の双方に取材している。上司は取材に対し、総領事が背後に「中国のビザ」と「賄賂」がある可能性を示唆したと語っているが、総領事は真っ向から否定している。

 記事の最後で、ゲルミス記者は「海外メディアへの外務省の攻撃は昨年あたりから、完全に異質なものになった。大好きな日本をけなしたと思われたくなかったので躊躇(ちゅうちょ)したが、安倍政権への最後のメッセージと思って筆をとった」と話したという。

 朝日新聞は翌29日、この問題を「外務省の広報」「報道の自由を損なう」と社説で取り上げて、外務省を厳しく批判した。「メディア側に圧力と受け止められれば、対外広報としては失策だ」「いま起きているのは、外務省が率先して自国の印象を損なっているという倒錯である。根本的に考え直した方がいい」という。

 連載第1回で述べた、欧米を中心とした日本研究家の認識のように、一旦流布してしまった慰安婦問題の虚偽情報は、容易なことでは修正されない。世界に流布してしまったのは、朝日新聞が吉田清治氏の虚偽証言など間違った報道を30年以上も放置し、外国、特に欧米のマスコミがそのまま広めてしまったからである。韓国による、対外宣伝も見逃せない。

 しかし、問題はそれだけではない。その虚偽情報の拡散に対し、日本政府、具体的には外務省がそれを打ち消すための努力を、積極的にやってこなかったのも、極めて重要な原因である。

 安倍政権の下で、遅まきながらも誤りを修正するための対外広報が始まったに過ぎないのだ。

 朝日新聞は慰安婦問題の虚偽情報を流し、「率先して自国の印象を損なってきた」張本人である。本当なら、自ら外国マスコミの誤解と偏見を正す重大な責任があるのだ。しかし、朝日新聞は外務省の努力を真っ向から誹謗・批判する。驚くべき「倒錯」である。

酒井信彦(さかい・のぶひこ) 元東京大学教授。1943年、神奈川県生まれ。70年3月、東大大学院人文科学研究科修士課程修了。同年4月、東大史料編纂所に勤務し、「大日本史料」(11編・10編)の編纂に従事する一方、アジアの民族問題などを中心に研究する。2006年3月、定年退職。現在、夕刊紙や月刊誌で記事やコラムを執筆する。著書に「虐日偽善に狂う朝日新聞」(日新報道)など。