櫻井よしこ(ジャーナリスト)

 次世代の日本人に誇りある国を残すには、少なくとも、基本的に自力で自国の防衛を行える普通の民主主義国に国の在(あ)り様(よう)を戻すことだ。その好機がいま眼前にある。

 占領政策の初期に作られた現行憲法は日本に自立国家として振る舞うことを許さない多くの制限を課している。安全保障面で日本を縛り続けることを是とする考えは、日米双方に依然、根強い。だが、そうした思考が無益であることを国際政治の大変化が証明しつつある。

 先の安倍晋三首相の訪米でオバマ大統領が見せた手厚いもてなしや首脳会談における緊密な関係の強調は、平成25年2月、あるいは26年4月の日米首脳会談におけるものとは全く異なる。25年の訪米では首相のために大統領は昼食会を主催したが、その顔に微笑が溢(あふ)れていたわけではなかった。

 26年に国賓として来日したオバマ大統領は来日直後の寿司屋で、うちとけるというより単刀直入に環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)での譲歩を迫った。

 ビジネスライクで実務はこなしても、日米両国が連携して大きな戦略を担うという同盟国としての絆を感じさせたわけではなかった。ところが今回、安倍首相へのオバマ大統領の個人的好意も十分に表現され、日米の強い絆が度々強調された。

 この大きな変化は、憲法改正は実現していないものの、「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」を見直し、安保法制の整備を明言し、力を発揮しようとする強い日本がアメリカにとっての国益だと判断したからであろう。

 アメリカの影響力はかつてない程、低下した。世界の警察ではないと宣言したアメリカの眼前で、中東ではISIL(イスラム国)らテロリスト勢力が跋扈(ばっこ)する。オバマ大統領のイランとの交渉は、イランの核保有につながるとして、サウジをはじめ、アラブ諸国との間に深刻な溝をつくった。欧州諸国は中国のアジアインフラ投資銀行(AIIB)に加入した。ロシアも中国も力の外交に踏み切り、強硬路線を変える兆しは見られない。

 このような中で、いま、アメリカにとっての唯一の選択が日本との緊密な協調関係なのである。アメリカが強い日本を必要とするように、日本もアメリカを必要とする。両国の国益がぴったり合致する中で新しい関係が生じているのだ。

 中国も事態を的確に把握している。5月26日発表の国防白書で、中国の安全にとっての「外部からの阻害と挑戦」は、日本の安保政策の転換と、地域外の国、つまりアメリカの南シナ海への介入だと明記した。中国政府が公式文書で仮想敵として日米を具体的に示しているのである。

 国際政治の大きな潮流としてこのような構図が生まれているとき、日本はいかにして自国を守り、国際社会の平和構築に貢献できるのか。

 5月30日、シンガポールの「アジア安全保障会議」で、アシュトン・カーター米国防長官は中国名指しで、「直ちにかつ永続的に(南シナ海での)土地の埋め立てをやめるべきだ」と批判した。中国人民解放軍の孫建国・副総参謀長は翌日、岩礁埋め立ては「軍事、防衛上の必要性を満たすため」だと反論した。

 初めて正式に、南シナ海の埋め立てが軍事目的であることを認め、中止する気はないと言明したわけである。

 強気の中国は、アメリカ軍に対する抑止力も着実に向上させつつある。シンクタンク『国家基本問題研究所』企画委員、冨山泰氏の指摘だ。

 5月21日、中国空軍の最新鋭爆撃機H6Kが沖縄本島と宮古島間の宮古海峡上空を通過し、西太平洋上で日帰り訓練を行った。同機の巡航ミサイルは核弾頭搭載も可能で米軍のアジア戦略の重要拠点グアムを攻撃する能力を持つ。アメリカが南シナ海に介入するとき、中国はグアムを叩(たた)く能力を手にした。

 アメリカにとって深刻な危機であり、アメリカ軍の行動が制約を受ける可能性は否定できない。それでもカーター国防長官は、現在、中国の人工島の12海里外で行っているP8対潜哨戒機による偵察行動を、12海里内で展開する可能性を強調する。海洋の自由と法治を掲げるアメリカには一歩も引く気配はない。

 中国とアメリカの主張がまっ向からぶつかり、相互に軍事力を誇示するこの緊張は戦後最大の危機といってよいだろう。

 これが日本にどう関わってくるのか。カーター長官は「同盟国およびパートナー」との協力で対中抑止力を構築するとして、中心軸に3カ国による協調、日米豪、日米韓、日米印の協調を挙げた。いずれの場合も日米が基軸となっており、アメリカのみならずアジア全体の日本に対する信頼が窺(うかが)える。

 カーター長官はまた、ベトナム、マレーシア、フィリピン、インドネシアとの多層的な軍事協力に触れて、アジア全体で、国際規範を逸脱した中国に抑止力を効かせる意図を強調した。

 日本がすべきことは何か。激しく変化する国際情勢と中国の脅威をまず、明確に見据えることだ。そのうえで、アメリカもアジア諸国も自立した強い国としての日本に期待していることに気づきたい。

 国会論戦でガイドラインの見直しと安保法制の整備を国民への説明もなくアメリカで約束したのはおかしいと民主党は論難する。だが、ガイドライン見直しは民主党政権のときに始まったのではなかったか。

 中国の脅威に国際法と外交で対応できる状況を創り出すためには逆に十分な軍事力が必要である。いま、そのことを学び、現実に根ざした安全保障政策を駆使する日本へと、脱皮するときである。

さくらい・よしこ ジャーナリスト、国家基本問題研究所理事長。1945年ベトナム生まれ。米ハワイ大学歴史学部卒。米クリスチャンサイエンスモニター紙東京支局などを経て80年から96年まで日本テレビ『NNNきょうの出来事』メーンキャスター。著書に『気高く、強く、美しくあれ』(小学館)、『中国に立ち向かう覚悟』(同)など。2010年正論大賞受賞。