民主党の小沢一郎代表(66)は西松建設の違法献金事件で、党内外から説明責任を果たすよう求められている。だが説明するべきことは「政治とカネ」にとどまらない。小沢氏の安全保障政策をめぐる発言には曖昧(あいまい)さがつきまとうだけに、次期衆院選前に有権者に説明を行う必要がある。景気対策や社会保障に有権者の関心が向かうのは自然だが、国民生活の土台をなす安全保障について分かりやすく語るのは、政権交代を目指す政党と党首の最低限の義務だ。民主党は、海賊対処法案(海賊新法)へ賛成の態度すらいまだに決められない。西松事件の展開で小沢氏が党首を辞することになったとしても、そのことで安保政策はどうなるのか、民主党は説明しなければならない。

「第7艦隊」発言の矛盾

 小沢氏は2月24日、遊説先の奈良県香芝(かしば)市内で「軍事戦略的に米国の極東におけるプレゼンス(存在)は第7艦隊だけで十分だ。後は日本が極東での役割を担っていくことで話がつく」と語った。翌25日には大阪市内で「安全保障の面で日本が役割を負担していけば、米軍の役割はそれだけ少なくなる。自分たちできちんとやる決意を持てば、米軍は出動部隊を日本という前線に置いている必要はない」と述べた。
 これらは(1)(日本有事を含む)極東地域の有事の際には、専守防衛にとどまらず日本の域外でも軍事行動をとることも想定し、自衛隊を増強する(2)在日米軍を撤退させ、沖縄などの基地負担を軽減していく-と受け取れる内容だった。
 波紋が広がった2月27日、小沢氏は横浜市内での記者会見で「他国の有事に(自衛隊が)参加することはありえない」「在日米軍の役割のうち、日本防衛に関する部分はできる限り日本が役割を果たし米国の負担が軽くなれば、在日米軍も少なくなるというごく当たり前の話をしただけだ」と語った。
 矛盾していないか。自衛隊の役割を専守防衛という「盾」に限ったままで、日本防衛のために矛(ほこ)の役割(=日本を侵略する周辺国への攻撃)を果たす在日米軍(海兵隊、空軍)に代替できると小沢氏は考えているのか。矛として駐留部隊は不要で、米第7艦隊だけで足りると考える根拠も示していない。
 在日米軍は中国や北朝鮮、ロシアに睨(にら)みをきかせ、遠く中東、アフガニスタンまで出撃しているが、この機能をどうしたいのかもよく分からない。
 小沢氏が明瞭(めいりよう)な説明を行わない、または行えないとすれば、政権担当能力に疑問符がつく。国民とのコミュニケーション力に問題がある麻生太郎首相(68)に匹敵する能力不足を示すものとなる。

政府・与党も米国依存症

 ただ、小沢発言は政府・与党側の安全保障面での米国依存症による思考停止をさらけ出す役割も果たした。
 海賊対策のためのソマリア沖への海上自衛隊派遣は、民主党の長島昭久衆院議員(47)が昨年10月の衆院テロ防止特別委員会で提案したのがきっかけだ。言論の府の一員として面目躍如たるものがある。その長島氏は自身のブログで、小沢発言について「舌足らずな面は否めない。米国、アジア諸国、(日本)国民に無用な混乱と不安を与えたのは誠に残念」と断ったうえで、次のよう書いた。
「ただし、このロジックでしか、我が国の『自立』はあり得ないし、在日米軍の削減はあり得ない、というのは紛れもない事実ではないか」
 外国の軍隊が大規模に駐留するのが望ましくないのは言うまでもない。外国の軍隊よりも自国の軍隊の方が信頼できるのは当たり前だ。小沢発言への政治家たちの反応で欠けているのは、このような問題意識だ。
 長島氏は、2007年3月23日の衆院本会議で、日米同盟を重視する立場から、安倍内閣の麻生外相(当時)へこう質問したこともブログで披露している。
 「米軍再編という千載一遇(せんざいいちぐう)のチャンスに、政府は有事のリスクを我が国も引き受け、日米の相互補完的な役割を分担し合うように同盟を再編して平時の基地負担を減らそうという努力を怠った。戦後レジームからの脱却というなら、対米関係から実行に移していただきたい」
(政治部 榊原智)