北朝鮮の長距離弾道ミサイル発射が、国民の生命の保全を真剣に考えない「政治」の姿を改めて浮き彫りにした。確かに日本政府は、イージス艦や地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を展開、国連安全保障理事会を舞台とした外交で北朝鮮を非難する議長声明採択にこぎつけた。制裁も準備中だ。核開発を進める北朝鮮の弾道ミサイルが「安全保障上にも極めて大きな問題がある」=河村建夫(たけお)官房長官(66)=と認識しているから、そうしているのだろう。だがそれでも、麻生太郎首相(68)ら政治家や政府は、国民保護や核抑止の面で、怠けていると思わざるを得ない。無防備な家族の頭上に核ミサイル-なんてことは、ごめん被りたいのだが。

都市の耐核化が急務

 麻生首相は発射当日の4月5日午後、「国民の安全が一番の問題だと思っています。いろいろシミュレーションもやったが、そういった経験は今後に生かしていかなければならない」と語った。首相のこの思いに偽りはないだろう。ただそれなら、もっとやるべきことがある。
 腑に落ちぬ点は多い。
 政府はミサイル防衛(MD)に、すでに支出した7000億円を含め1兆円以上の巨費を投じる予定だ。これは敵国のミサイルが日本に着弾する恐れがあるとみていることを意味する。
しかし国民保護の態勢整備は遅れている。攻撃を受けた際に国民1人ひとりがどう動けばいいのか、私たちは教えられていない。学校や職場、地域で全国民に真っ先に伝えるべきではないのか。
 今回使用が見送られたが、大地震や有事用の全国瞬時警報システム(J-ALERT=Jアラート)も不十分だ。2009年度補正予算で整備を進めるというが、受信システムのある自治体は今のところたった15.7%だ。この警報は主に防災行政無線で住民に伝えるというが、発想が古すぎないか。
 例えば、携帯電話をなぜ活用しないのか。輻輳(ふくそう)の問題もあるだろうが、携帯や車のカーナビなど情報端末をJアラートに直結させたらいい。
 核爆発対策の権威、高田純札幌医科大学教授(放射線防護学)や優れた軍学者の兵頭二十八(ひょうどう・にそはち)氏が必要性を訴えている都市の「耐核化」も未着手だ。最大の人災といえる核災害だ。日頃は地下駐車場や公共・商業施設として使用し、イザとなれば国民が待避する待避壕(ごう)(防空壕)の整備はしなくてよいのか。
 筆者による2007年7月5日付EXの「安倍政権考」(不思議な「非核武装国」)でも触れたが、広島の原爆投下の際、爆心地から170メートルの建物の地下室にいた当時47歳の男性が、爆風や熱線、放射線から遮断され、ほぼ無傷で脱出し、80歳代の長命を保った例がある。
 費用がかかると懸念の向きもあるかもしれないが、麻生内閣は景気対策のため総額10兆円超の過去最大の09年度補正予算を編成するという。貴重な予算を国民保護のための公共事業に回せないのか。
 国防はなにも防衛省・自衛隊の専売特許ではない。国土交通省や総務省、内閣府、自治体も国民を守る最前線を担っていると自覚してもらいたい。

危険な賭け

 日本はすでに北朝鮮が実戦配備する射程1300キロのノドンミサイルの脅威にさらされている。ノドン以上の脅威は中国とロシアの核弾頭搭載弾道ミサイルだ。
 MDがあれば万事安心というわけではない。日本の迎撃ミサイルの弾数は防衛秘密だろうが、敵国が飽和攻撃で多くの弾道ミサイルを撃てば弾数が尽きて丸裸になる。いったいどうするのか。
 こんなことは起きないから備えなくていいというならMDも自衛隊も、核廃絶運動もいらない理屈になる。
 米国がソ連と冷戦で対峙(たいじ)できたのは核抑止力を持っていたからだ。先の大戦で米国は一般市民が暮らす広島、長崎に原爆を投下した。当時、日本が原爆とその運搬手段を持っていれば、米国は投下をためらったろう。
 米国の核抑止力に頼るのが日本の防衛政策の基本だが、米国民の頭上に核を降らせられる国を相手に、米国が日本を守るかどうかは危うい賭けだ。日本の「政治」はこの問題を直視しようとしない。米国に対し、どのような場合に、日本のために核を使用してもらいたいのか安全保障当局の対話で要求したこともないのではないか。
 自民党4役の1人は4月5日、与党北朝鮮ミサイル問題対策本部で非難声明を出した後、記者団に「内閣支持率が3割台に回復するかどうかだ」と述べ、“平和ぼけ”ぶりをさらけ出した。政治のレベルを示す、まことに正直な発言だった。
(政治部 榊原智)