野田政権は、沖縄の無人島を舞台に日米の部隊が実働する離島奪還訓練の実施を見送った。「対中恐怖症」極まれり、といったところか。日本がなにがしかの配慮をすれば、中国はそれを理解して行動を自制する-ということが妄想に過ぎないことは、尖閣諸島をめぐる中国の対日姿勢をみれば分かりそうなものだが、野田佳彦首相(55)ら政府民主党の要路の方々は気づかないらしい。

中国に誤ったメッセージ

 訓練見送りは、中国への誤ったメッセージとなり、中長期的には対日姿勢がより強硬になる方向に作用するだろう。日本政府に、領土領海を必ず守るという気魄(きはく)、ガッツが相変わらず欠けていることを教えたからだ。戦前の日本を知る指導者が中国を率いていた間は-戦後の日本がいかに柔弱でも-今のような高圧的行動に出ることは少なかった。けれども今や戦前の貯金は尽きた。

 日本に下手に手出しをすればやけどを負う、と中国に思わせることが平和への近道なのに、目先の安寧を求めて実働訓練すら控えるとあっては侮られるばかりだ。イギリスの宥和政策がナチスドイツを増長させ、戦争への道を開いたことや、中国は「水に落ちた犬は叩け」の、嵩(かさ)にかかってくるお国柄であることを思い出し方がいい。

 今回計画された訓練が、陸上自衛隊と米海兵隊の合同だったことには意義があった。中国が尖閣を獲りにくる場合、日米安保を発動させない策を練ってくるだろうからだ。日米が合同演習を重ねていけば、中国の野心にブレーキをかける効果がある。

国際社会への責任感も欠如

 筆者は2004年、有事立法の必要性を唱えた先覚者である栗栖弘臣元統幕議長を取材したことがある。その際栗栖氏は、日米同盟維持を主張した上で次のように語った。

 「敗戦後遺症は21世紀半ばには消える。日本はある程度の経済力と武力をもつ通常の国として、インド洋以東、西太平洋一帯の平和を維持する責任を担う国になるべきだろう。その点で、今の防衛論議は萎縮(いしゅく)している」

 終戦100年まで、まだ30年余りあるが、栗栖氏の指摘はもっともだ。

 尖閣など最近の防衛論議は、領土領海を守る文脈でのみ語られることが多く、国際社会とくにアジア太平洋地域の平和と安全に日本が役割を果たそうという責任感を示す議論は少ない。

 中国の胡錦濤国家主席(69)は8日の中国共産党大会で「海洋強国」を目指すと宣言した。中国は、尖閣のある東シナ海とともに、ボルネオの油田地帯を控えた南シナ海の南沙諸島でも傍若無人に振る舞っている。

 米国のオバマ政権は2011年11月ごろから、アジア太平洋の安全保障を最重視する姿勢に転じ、中国の軍事的膨張を押さえ込もうとするようになった。オバマ大統領(51)の再選により、この方針は継続されるだろうが、米国は国防費の捻出(ねんしゅつ)に苦しんでいる。

 アジア太平洋地域の平和と安全は日本の国益にかなうものであり、日本は責任ある大国として行動すべき時期にきている。尖閣でもたもたしているようでは、米国も東南アジア各国も日本を信用できないだろう。尖閣の防衛強化を急ぎ、自分に降りかかる火の粉は早く払いのける必要がある。

 その上で、南シナ海でも、米国、東南アジア各国と協力して有利な軍事バランスの実現に努めた方がよい。そのことがかえって戦火や紛争を抑制し、中国も含め経済的に繁栄する道となる。

 さしあたり、日本は集団的自衛権の行使容認と防衛費の増額に踏み切る必要があるが、これらは衆院選後の新政権の課題となりそうだ。
(政治部 榊原智)