麻生太郎首相(68)は10日、次期衆院選の自民党マニフェスト(政権公約)を作る党プロジェクトチーム(PT)の幹部らに、外交安全保障を争点に据えるよう指示した。ただ、民主党の安保面の無策ぶりを非難するだけだとしたら実にもったいない。新しい安保政策を国民に問ういい機会だからだ。折しも自民党国防部会は安保政策の提言をまとめた。これを首相とPTがマニフェストにどれだけ取り入れるかで、真剣さが分かる。
 民主党も、少なくとも今の北東アジア情勢に、外交努力に加え安保面でどう対処するのか具体策を示すべきだ。そうしなければ、いざ政権をとったとき困るのは民主党自身と国民になる。

きな臭い北東アジア

 日本の周辺は今もきな臭い。北朝鮮は近年、核実験やミサイル発射を繰り返している。朝鮮半島の国が単独で日本本土を攻撃できるようになったのは有史以来初めてだろう。中国は航空母艦建造に走るなど海空軍や核戦力の軍拡を進めている。スウェーデンのストックホルム国際平和研究所は2008年の中国の軍事費は849億ドル(約8兆3500億円)で世界第2位と発表した。
 台湾海峡の軍事バランスが崩れ、台湾が中国に併呑(へいどん)されれば尖閣(せんかく)諸島どころか沖縄本島まで脅威にさらされる。中国が海上交通路を制したり、対米核戦力の強化を進めれば、日本に対しさらに傍若無人(ぼうじゃくぶじん)になるだろう。
 自民党政務調査会の国防部会は11日、麻生首相(党総裁)に「提言・新防衛計画の大綱について」を提出した。年末の防衛大綱改定に向け、安保政策の改革を求めるものだ。
提言は2003(平成15)年度予算以来の防衛費と防衛力の縮減(軍縮)方針の撤回を求めた。この7年間、日本以外のアジア諸国やロシアは軍備増強を続け、自衛隊が相対的に弱体化しているためだ。
 また提言は、米国をねらう弾道ミサイルの迎撃など4類型について、政府の憲法解釈を変更して集団的自衛権の行使を認めるよう求めた。
 さらに注目されたのは「敵ミサイル基地攻撃能力の保有」だ。他に日本への弾道ミサイルなどの攻撃を防ぐ手段がない場合に攻撃を限定するという専守防衛の枠内のオプションだ。
内政面では改革姿勢が足りないとみられている自民党だが、安保面は担当部門が真剣に政策を考えている。

財務省も民主も熱意なし

 ただ、自民党マニフェストPTの中心メンバーである菅義偉(すが・よしひで)座長(60)、石原伸晃(のぶてる)幹事長代理(52)、船田元(はじめ)総務会長代理(55)、園田博之政調会長代理(67)、佐藤昭郎(あきお)参院筆頭副幹事長(66)はいずれも安保政策には疎(うと)い。細田博之幹事長(65)ら党執行部も同様だ。
「この期(ご)に及んで、まだこれか」
 自民党国防部会の幹部は政府の経済財政運営の指針「骨太の方針2009」の素案(9日付)を見てあきれかえった。防衛、安保の独立の項目はなく「防災・治安等」の中で「鳥獣被害対策の着実な推進」などと並んで「北朝鮮によるミサイル発射等安全保障情勢に対処するため、防衛計画の大綱の修正等を検討し、効率的な防衛力の整備を推進する」と書かれただけだったのだ。景気対策の補正予算は大盤振る舞いした財務省だが、防衛費増は考えていないようだ。
 また、公明党は敵基地攻撃論に拒否反応を示し、防衛費増にも関心はない。
 民主党はさらに心許(もと)ない。安保通の前原誠司(まえはら・せいじ)副代表(47)は6月7日付東京新聞のインタビューで、敵基地攻撃に関する党内論議について「やっていない。起きたことへの対症療法の議論はしているが、戦略的なビジョンや系統だった議論はできていない」と残念がっている。
 岡田克也(かつや)幹事長(55)は5月29日の会見で、敵基地攻撃論について「あまり短絡的な議論はしない方がいい。冷静に議論することが必要な場合はあるかもしれませんが」と語った。今こそ議論する時ではないのか。
(政治部 榊原智)