【金曜討論】板倉弘重氏(茨城キリスト教大名誉教授)、池田清彦氏(早稲田大教授)インタビュー


 国民の健康を守ることなどを目的に日本ではたばこ税の増税をめぐる議論が展開されたが、海外では大量に摂取すると健康に悪影響がある食品に課税する動きが相次いでいる。日本でもメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)などになる人を減らすために、たばこ税の増税にとどまらず、国民の健康維持を目的にした食品への課税を導入すべきなのか。茨城キリスト教大名誉教授の板倉弘重氏と、早稲田大教授の池田清彦氏に見解を聞いた。(溝上健良)
インタビューに答える早稲田大学国際教養学部教授の池田清彦さん(左)と日本臨床栄養学会理事長で日本ポリフェノール学会会長の板倉弘重さん(右)

 ≪池田清彦氏≫

自由のない国になりそう


 --海外での導入をどうみるか

 「日本もそうだが、健康でなければならないから健康に悪いものは排除すべし、との幻想がある。私はこの流れは(多様性を認めない)“ソフトナチズム”だと思っている。たばこ税もそうだ。禁煙運動を始めたのはヒトラーだったが、行き着くところは『不健康な人間は排除せよ』となる。そうした機運は欧州で強い」

 ●「愚行権」を認めよ

 --課税によって個人の自由が制限されるということか

 「多様性のない社会へ突き進んでいるような気がする。個人的には、人は勝手にたばこを吸って酒を飲んで死ぬという『愚行権』があると思っている。それが認められないのは生きづらい社会だ。脂肪などの摂取も同じことで、そこへ税金をかけるのは変だ」

 --糖分や脂肪をとりすぎると体に悪いことは確かだろう

 「医者にかからずに一番長生きする方法はカロリー制限だ。動物実験では確かめられているが、栄養のバランスを取った上でカロリーをぎりぎりに制限すると長生きできる。ただ個人差があるので、カロリー制限したから長生きできるとも限らないけれども」

 --ポテトチップスなどへの課税についてどう考える

 「たばこの副流煙と違って、他人に迷惑をかけるものでもない。そうした個人の自由に規制をかけるのは問題だ」

 --日本でこうした課税が導入される可能性はあるか

 「あると思う。“ケーキ税”などということも言い出されかねないが、そうなると何にでも課税されうる。ハイヒールは体に悪いから税を、ともなりかねない。国民の体をコントロールして課税する、つまり『国民は健康であらねばならない』というのは、ソフトナチズムの考えにほかならない」

 --課税によって代替品が出てくる可能性は

 「昔のサッカリン(人工甘味料の一種)のようなものが出てくる可能性はある。代替品が出回ると税金が取れなくなるから、例えば発泡酒に増税し、さらにはノンアルコールビールに課税するようなことが起こるかもしれない」

 --食品課税の導入によって、国民は健康になるか

 「日本人の寿命はこれ以上延びないだろうし、何をもって健康かという問題もある。課税によってあまり変化はないだろう」

 ●課税には副作用も

 --海外ではたばこの増税で密輸が増えたという事例もある

 「米国で禁酒法時代にマフィアが栄えたように、日本でもやたらに税金をかけると闇組織が変なものを流して大問題になりかねない。あまり『清く正しく美しく』に突っ走るべきではない」


 ≪板倉弘重氏≫

教育的効果も期待できる


 --ハンガリー、デンマークでの導入事例をどうみるか

 「世界的にメタボの人が増えており、肥満による疾患も多くなっている。それには食生活や運動が関係している。身近な食品への課税を通して消費者の行動の変容を促す取り組みで評価できる」

 ◯医療費は減るはず

 --課税によって消費量が減れば国民の健康にはプラスになるか

 「糖尿病や肥満による高血圧が減れば医療費も減るので、国民全体としてはいい結果が得られる。ただその食品を生産している企業は猛反対するだろうし、消費者からの反発もあり、課税への逆風は非常に強いだろう」

 --消費者側の、個人の自由との兼ね合いは

 「税金が高くなっても好きであれば食べればいいのであり、個人の自由を制限するものではない」

 --仮に日本で導入する場合、どんな食品への課税が効果的か

 「塩分に課税するとなれば漬物にもかかるなど問題があり、難しい。脂肪への課税も考えにくいが、あえていえば海外で規制が進んでいるトランス脂肪酸への課税だ。これはバウムクーヘンやクッキーなどに多く含まれている」

 --ポテトチップスなど油を多用した菓子への課税は

 「たくさん食べると体によくないので、栄養価が低く塩分・糖分の多い特定の食品への課税を考えてもいいかもしれない」

 --課税による教育的効果は

 「むしろそのほうが大きいかもしれない。導入の議論をすることで、国民の健康に対する意識を高める効果はあるだろう」

 --子供への影響について

 「中学生前後の子供は清涼飲料水やポテトチップスなどの消費が多いと考えられ、課税によってそれらより、自然の果物や野菜を食べるようになることが望ましい」

 --たしかに加工食品は割安だ

 「安いので子供はそちらに手を出してしまうが、加工食品への増税で値段が上がれば、消費量が減ることにつながる」

 --判断力が未熟な子供が加工食品を食べ過ぎないためには

 「子供の自己責任といっても難しいし、最近、特に男児の小児肥満は増える傾向にある。課税すれば健康改善の効果はあるはずだ」

 ◯努力実る仕組みを

 --メタボになるのを予防するために必要なことは

 「国の医療費は増え続けており、メタボについても予防策をもっと強調する必要がある。例えばきちんと運動をして、食生活を改善している人の健康保険料が安くなるような、努力した人にメリットがある仕組みづくりを考えるべきだ。また増税よりも、自然の食品がより安く入手できるようになることが望ましい」


いけだ・きよひこ 昭和22年、東京都生まれ。64歳。東京都立大大学院博士課程修了(生物学専攻)。山梨大教授を経て、平成16年から早稲田大国際教養学部教授。専門は生物学。地球温暖化問題などでも発言しており、著書に「環境問題のウソ」「寿命はどこまで延ばせるか?」など。

いたくら・ひろしげ 昭和11年、東京都生まれ。75歳。東大医学部卒。同第三内科講師、国立健康・栄養研究所臨床栄養部長などを歴任した。現在は日本臨床栄養学会理事長、日本ポリフェノール学会会長。専門は臨床栄養学。著書に「コレステロールをしっかり下げるコツがわかる本」など。