李登輝・元台湾総統会見(質疑応答編)

 23日、日本外国特派員協会で台湾の李登輝・元総統が会見を開いた。冒頭、「台湾の主体性を確立する道」として、台湾や中国の歴史を俯瞰、新しい時代の台湾人とは何か、「託古改制」から「脱古改新」へと、自らの思想を語った。質疑応答では、世界情勢が変化する中、アジアにおける日本の役割に期待するとし、安全保障法案は必要だとの認識を示した。安倍首相についても"日本への貢献を高く評価"すると述べた。 

 本記事では、1時間余りにわたって行われた質疑応答のうち、日本に関連する質問についての部分をお送りする。 

質疑応答
 ──台湾が多様な民族で構成されているというお話でしたが、日本に目を向けますと、人口減少の問題を抱えている中で、なかなか移民を受け入れません。どう思われますでしょうか。 

 おそらく日本における現在の人口の減少は移民を入れたことによって解決されるとは思いません。 

 今の経済問題や、いろんな政治の問題は、別の方向で改めて行くべきだと思います。アベノミクスで大きな問題になっているのは、結局、いわゆる経済成長がなかなか伸びないということです。それをどうして伸ばしていくか。私は一にイノベーションにかかっていると思います。今の政策では、おそらく解決はできません。イノベーションを実行することによって、日本の経済は伸びます。経済が伸びれば、おそらく失業率も低下し、生活も良くなり、若い人もできるだけ結婚して子どもを産みたいという気持ちが出てきます。経済成長率が日本にとって今、大切なことだと私は思っております。 

 ──今年は第二次大戦が終わって70年という特別な年です。元台湾総統として、この70周年をはどのように扱われるべきだと思いますか。たとえば安倍首相が中国、韓国、台湾の元慰安婦に対して、何か謝罪の言葉を出すべきだと思いますか。また日米安保について、対中国の観点からどう思いますか。 

 慰安婦の問題については、私としては実情はよく知っておりますけれども、これは当然日本として韓国、中国に対してよく説明していくべき問題で、私としてはこの問題に対しては何も言いたくありません。私の考えです。 

 そして、今の安倍首相のいわゆる安保法案については、私は非常に日本に対する貢献を肯定します。 

 そして、日本に希望することは、日本と台湾の間における関係、交流を強化し、そしてもう少しお互いに協力しあうという密接な関係を持つべきだと思っております。この点では、私は安倍首相のアベノミクス、あるいは日本に対する貢献を高く評価しております。安保法案も私としては、これはアジアの平和、世界の平和に貢献するものだと信じております。 

 ──台湾の人たちにとって、日本の統治は幸せだったと思いますか。また、安保法案が議論されているこの時期に先生が日本に来たその意味と目的はなんでしょうか。安倍政権に招待されたのでしょうか。 

 まず第一に、台湾人がなぜ東日本大震災で、あれだけの貢献をやりましたかということ。これは、基本的に台湾における日本の植民地政策が、台湾をして非近代的な社会から近代的な社会に持ち上げたということ。台湾の人民は、長い間における日本の政策が影響したと考えています。そして、それが真実であることは間違いありません。 

 今回の日本訪問、国会におけるお話しは、安倍首相に招聘されたからではありません。全然関係ありません(笑)。台湾が、日本が良くなっていく、そしてアジア全体の平和のために努力していく、その足跡ははっきりています。二十数年来の不景気を回復し、そして国を正常なかたちに持っていく、安倍総理の日本に対する貢献を非常に肯定しております。 

 この点においては、間違いないように。私は安倍政権に招待されたのではありません。安倍総理とは関係ありません(笑)。 

 ──中国の領土拡張意欲これはとどまることを知らない状況です。日本およびアジア諸国はどうすればよいでしょうか。核兵器を持つとか、ものすごく軍事予算を増やすとか、こういうことをやれば悪循環だと思いますが、これはどういうふうな解決策があるでしょうか。 

 現在、残念ながらアメリカの力が非常に落ちてきている。その時に、どうしても日本がアメリカを援助する形で集団的自衛権を行使する、そしてアジアのために和平的な国としての形を取ることは当たり前のことと私は思います。 

 まず、自分の国は自分で自分で守る、アメリカに頼るという一方的なところから、世界は変わってきた。日本の今までの指導者の中には、日本が持っている任務を忘れてきたような気がします。はっきりと、日本としてどういう態度を取るべきか、アジアの平和のために、世界の平和のために独立した国としてのあり方を持つべきだと、深く信じております。 

 その点で、安倍総理の貢献を高く評価しております。結局、日本がこういうかたちでやっていくには、アジアの平和というものが基礎になります。でないかぎりにおいては、例えば尖閣諸島の問題、南シナ海における問題、それから東シナ海における石油の問題。結局、領土を侵略され、これをなんとかできないということは残念なことではないでしょうか。 

 自分の国は自分で守っていく。これが非常に大切なことです。根底において、長い間、日本の指導者においては、こういう考え方が欠如していたと思います。それが安倍総理によってはじめて、はっきりと、世界の状態が変化する中で、国としてどうやっていくかと示されたことに対しては、私は高く評価しております。 

 ──尖閣諸島について、あれは日本のものでしょうか、それとも台湾のものでしょうか。 

 この尖閣諸島については、私は何回か発表しました、はっきりと、尖閣諸島は日本のものであると。台湾のものではありません。 

 ──(会場で配布された栞に刻まれた「我是不是我的我」の言葉について)解釈を教えていただけないでしょうか。 

 「私は私でない私」。つまり、自我の否定。個人的な我の否定。他己です。私はクリスチャンです。クリスチャンに必要なのは、私の心のなかにあるイエス・キリストに従って物事を処理していくと。だけど、政治の面で言えば、個人的な考え方、自分の個人的な利益を中心にしないで、人民のため、国のために奉仕すると。それが私の考え方です。心の中に台湾の国民を入れます。 

 実を言いますと、若い時から座禅も組みました。一番大切なのは、いわゆる夏目漱石のいう「私の個人主義」。私をまず固めなくてはならない。国の指導者は、能力とそれから素質によって変えていかなければならないんです。私の安倍総理に対する高い評価は、国のために奮闘しているから。台湾でも、党のためだけに奮闘する代議士がいます。日本では、戦後の教育改革、日教組による教育の仕方、それが日本に非常な過ちをもたらしております。 

 こういう面を理解しつつ、台湾でも、主導性をを持った文化のある国に、精神的なものを持った国民として努力していきたいと考えております。それが「私は私でない私」。 

 私に残された時間はおそらく5年位じゃないですか(笑)。この5年間は台湾のために奮闘します。これが私の考え方です。 

 ──韓国の朴大統領や、韓国の方々の意見を聞いていると、日本統治時代は本当にひどいものだったという方が多いわけですが、実際に台湾で日本統治を体験された生き証人でもありますので、ぜひ先生から、本当に酷いものだったのか、いいところもいっぱいあったのか、本当のところお伺いしたいと思います 

 韓国と台湾はともに日本の植民地でありましたけれども、韓国は明治43年に国として日本と合併しました、台湾は、李鴻章が言ったように「"化外の地"として日本に上げますからどうですか」という状態でした。台湾はそんなかわいそうな状態でしたので、私は日本の統治の仕方については、高く評価しております。 

 台湾を非近代的な農業社会から近代社会に持ち込むときに、一番大きな問題は司法と行政が分割しない中国社会でした。これを日本ははっきり司法は司法、行政は行政と分けました。 

 私がよく言います後藤新平、私の先生ですよ。本当に台湾のために奮闘しました。こういう人たちがいるからこそ、台湾人は永久に日本を忘れません。そして15万町歩を灌漑した八田與一先生。こういう人たちに対して、台湾では依然として神様みたいにして大事にしておりますよ。おそらく日本の皆さんに知られていない、祀られている日本人もおりますよ。 

 むしろ国として韓国は日本と合併しましたから、韓国に対する待遇は台湾より良いんですよ。台湾人は日本からの差別を受けていましたが、社会全体が伸びてきていると、差別はあっても、そういうようなところでは台湾人は日本のやり方に対して高い評価を与えております。その証拠に、東日本大震災に台湾人が寄付しするような感情、態度を見ればはっきりするわけです。 

 ──台湾では、抗日戦争70周年ということで反日イベントも企画されていますが、日本の台湾の関係はどうなるでしょうか。反日色を強めていってしまうでしょうか。 

 この問題は、馬英九総統の考え方に強く影響されている。馬総統は結局台湾人ではない。それが総統になっている。高雄でのガス爆発事故の問題など、人民が苦しんでいるのに無関心であると。人民の生活がわからないんじゃ政治としてやっていけないんですよ。 

 これは正直に言いますとね、東日本大震災において、一体あのときの総理は人民が苦しんでいることを承知していたかどうかという問題にもなります。指導者として一番大切なことは安易か、自分を忘れて国のために奮闘、そして人民のために奮闘すること。これが長い間日本でも忘れられております。なんとかして日本を昔のような国に取り戻せるよう、戦後におけるこの状態から脱することが非常に大切であります。 

 ──靖国神社を訪問されますか? 

 訪問しません。 

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