中国が東シナ海において、国際ルールを無視して建造物を構築していることを日本政府が発表し、ようやく各マスコミが取り上げるようになりましたが、彼らマスコミは今までいったい何をやっていたのでしょうか。こうなることは5年前から容易に予測できたはずで、もっと問題意識をもって取材していれば政府より先に発表することは十分に可能だったはずです。政府が公表しない情報でも、本当は国民が知らなければならないのであれば、独自に取材し真実を明らかにして報道するのがマスコミの使命であり、それこそが権力の監視と呼ぶべき仕事ではないでしょうか。

 そんな努力をせずに、ただ単に政府が発表することだけを、そのまま記事にするだけであれば政府の公報機関と何らかわりがありません。日ごろから自分たちの仕事を「権力の監視」とか言っている人たちは恥ずかしくないのでしょうか。もっと自分たちの仕事に誇りを持ってもらいたいものです。

 それはさておき、今回政府が発表したものから分かることを、簡単に言えば

・中国が、あの海域に1000人程度の人間が長期間滞在できる施設を手に入れ、今後さらに増える可能性が高い
・そこから大量のガスを大陸に送っており、そのガスは本来、日本が権利を行使できるものが含まれている可能性が非常に高い
・その施設はヘリコプターの離発着や給油が可能であり、今後、レーダーやソナーなどを設置することも可能で、軍事利用される可能性は否定できない

 ということで、彼らが一旦設置したものを撤去することは考えにくく、設置された構造物の数は増えることがあっても減ることはなく、装備も増強する一方でしょう。これらのことを日本の立場から見れば「既に東シナ海の西半分が占拠されてしまった」という結論になります。


政府が外務省のホームページに公表した、中国による東シナ海でのガス田開発に関する構造物「第12基」。6月に設置が確認された(防衛省提供)
 何をプラットフォームくらいで大げさなと思われるかもしれませんが(確かに多少大袈裟ですが、それくらい大げさに考える方が今の日本にはちょうどいいと思います)、問題の核心はこの写真には写っていないものにあります。

 おそらく日本一流の配慮なのでしょうが、そんなことをしていれば国民に本当のことは伝わりません。ですから、マスコミは独自の取材をしてプラットフォームの周りにいる中国の軍艦を撮影し、その写真を公表すべきなのです。もしかすると、某省から取材に対する圧力がかかっているのかもしれませんが、そうであれば、なおのこと、その事実とともに国民に知らせるべきではないでしょうか。

 日本国民が知るべきは、この海域で中国が日本との約束を無視し、短期間のうちに異常に多くの軍事利用可能な海上建造物を構築しながら、日本に権利がある可能性が大きいガスを断りもなく採掘し続けていること。さらに、その海上建造物の周りに軍艦を配備して他国の船が近づけないようにし、また、そこを中心とした防空識別圏を設定し航空機も近づけないようにしようとしている(現在はまだ接近可能)ことです。そして、このような傍若無人な振る舞いをされ国益を奪われながら、何もできない日本政府の姿です。

条約を都合良く解釈する中国


 さて、中国は何を根拠にこのような不法行為を行っているのでしょうか。それは、彼らが海洋法に関する国際連合条約(国連海洋法条約)(注)を、思い切り自分たちの都合の良いように解釈しているからです。しかし、その理屈は自己中心的で法的にまったく成り立っていません。以下、その国連海洋法条約をもとに説明します。

第56条 排他的経済水域における沿岸国の権利、管轄権及び義務

1 沿岸国は、排他的経済水域において、次のものを有する。

a.海底の上部水域並びに海底及びその下の天然資源(生物資源であるか非生物資源であるかを問わない。)の探査、開発、保存及び管理のための主権的権利並びに排他的経済水域における経済的な目的で行われる探査及び開発のためのその他の活動(海水、海流及び風からのエネルギーの生産等)に関する主権的権利

b.この条約の関連する規定に基づく次の事項に関する管轄権

i.人工島、施設及び構築物の設置及び利用

ii.海洋の科学的調査

iii.海洋環境の保護及び保全

c.この条約に定めるその他の権利及び義務


 この56-1-b-ⅰをもって構築物の設置を正当化し、

第60条 排他的経済水域における人工島、施設及び構築物

1 沿岸国は、排他的経済水域において、次のものを建設し並びにそれらの建設、運用及び利用を許可し及び規制する排他的権利を有する。

a.人工島

b.第56条に規定する目的その他の経済的な目的のための施設及び構築物

c.排他的経済水域における沿岸国の権利の行使を妨げ得る施設及び構築物

2 沿岸国は、1に規定する人工島、施設及び構築物に対して、通関上、財政上、保健上、安全上及び出入国管理上の法令に関する管轄権を含む排他的管轄権を有する。

4 沿岸国は、必要な場合には、1に規定する人工島、施設及び構築物の周囲に適当な安全水域を設定することができるものとし、また、当該安全水域において、航行の安全並びに人工島、施設及び構築物の安全を確保するために適当な措置をとることができる。


 そして、60-1-bにより運用を正当化、60-2により排他的権利を有するとし、60-4を根拠に安全のためと称して他国の船舶を寄せ付けないようにしようとしているのです。

 しかし、本当は設置を正当化している第56条の第2項に

 沿岸国は、排他的経済水域においてこの条約により自国の権利を行使し及び自国の義務を履行するに当たり、他の国の権利及び義務に妥当な考慮を払うものとし、また、この条約と両立するように行動する。


 と、他国に考慮しなければならないと定めています。この他国とは日本のことなのですが、なぜ日本がこの海域に権利があるのかという話の前に、そもそも排他的経済水域とは何なのかということを説明します。

誰の持ち物でもない公海


 原則的な考え方として領海がその国の持ち物であるとするならば、排他的経済水域というのは誰の持ち物でもない公海であり、例外的に沿岸国に対して前述した国連海洋法条約第56条第1項に列記している権利を認めているにすぎないのです。ですから領海とは違い航行及び上空飛行の自由は保障されており、沿岸国に対して他国への配慮が必要であるとしているのです。そして、その排他的経済水域の範囲は


第57条 排他的経済水域の幅

排他的経済水域は、領海の幅を測定するための基線から200海里を超えて拡張してはならない。

 と定められています。ここで大事なことは200海里を超えて拡張してはならないという部分で、言い方をかえれば200海里以内であれば何海里でも良いが、主張しなければ権利は認められないということです。普通、自国の権限が及ぶ海域は少しでも広くしようと思うのが人間の常ですから、上限だけを決めて後は各国の裁量に任せているのです。では海を挟んで向かい合う国同士の場合はどうでしょうか。

 200海里(1海里=1852m)と言えば約370km、東京から京都の直線距離に相当するかなり長い距離です。この向かい合う国同士がお互いに最大限の幅の排他的経済水域を設定しようとすれば、最低でも200海里×2=400海里の距離が必要になりますが、物理的にそのような距離がないところでは両国の主張がぶつかり合い、互いの排他的経済水域の範囲はなかなか決まりません。

 そのような海域は世界中に沢山あり、そのうちの一つが東シナ海なのです。だからいまだに東シナ海においては日中両国の排他的経済水域の範囲が確定しておらず、それ故に両国の主張がぶつかり合い、それが紛争の原因となっているのです。では、そういう場合はどうするのかと言えば

第59条 排他的経済水域における権利及び管轄権の帰属に関する紛争の解決のための基礎

この条約により排他的経済水域における権利又は管轄権が沿岸国又はその他の国に帰せられていない場合において、沿岸国とその他の国との間に利害の対立が生じたときは、その対立は、当事国及び国際社会全体にとっての利益の重要性を考慮して、衡平の原則に基づき、かつ、すべての関連する事情に照らして解決する。

 と国連海洋法条約に定められています。「衡平の原則」を簡単に言えば、両国の利益をできるだけ均等にし、お互いが納得するようにするということですが、一方の要求が桁違いであればまとまる話もまとまらないのが現実です。では日中両国は、どのような主張をしているのかを見てみましょう。

 日本:日本と中国の沿岸からの距離が等しいところに線を引き、そこを排他的経済水域の境界線とする(等距離中間線論)
 中国:中国の大陸棚が沖縄トラフ(南西諸島西約60キロ)まで続いているとして、そこまで中国の権益を主張(自然延長論)

一見、両国ともまともな主張をしているように見えますが、この中国の主張は何重にも間違っています。

・仮に中国の大陸棚が続いていて権利が認められるとしても、それは海底下に限られる
・東シナ海の大陸棚は南西諸島の東側まで続いており、大陸棚の権利は日中双方ともに主張できるため意味がない。
・国際判例では1970年代後半以降、自然延長論は採用されず、ほぼ一貫して等距離線を基準としたうえで両国の関連事情を考慮して調整を行う等距離・関連事情の原則に基づいた判決が下されている

にもかかわらず、中国は自然延長論を根拠に東シナ海における日中の排他的経済水域の境界線の画定に応じません。(ちなみに中越間に争いが生じたときは、ベトナムが持ち出してきた自然延長論に対して中国は猛反発しました)この件に関しては強制力のある国際機関はなく、あっても常任理事国である中国が、自分に不利なことを黙って言うことを聞くはずはなく、直接的な解決策は今のところありません。そこで、考えなければいけないのが中国の狙いは何かということです。

 過去の紛争の例を見れば、国境などがいったん決まった場合、それを変えることは容易でなくなるのですが、決まる前には力で変更することは比較的容易であり、紛争が収まると、それがそのまま固定されています。それが良いか悪いかは別として、それが我々の生きている国際社会の現実です。それに中国は、幾度となく力により国境線を変えてきており、それを当然のように思っているふしがあります。そして偉大なる中華帝国の復興を狙う今、東シナ海や南シナ海において彼らが行っていることを見れば、彼らが力による現状変更を狙っているとしか思えません。