8月30日投開票の衆議院議員選挙を経て、鳩山由紀夫代表(62)が首班の民主党を中心とした連立政権の誕生がほぼ確実な情勢だ。麻生太郎首相(68)率いる自民党が1955年の結党以来初めて第一党ではなくなり、公明党を加えても過半数を得られずに下野を迫られているのは多くの理由がある。その大きな要因のひとつは、2007年参院選での安倍晋三元首相(54)の場合と同様に、選挙の争点設定を怠った点にある。麻生首相と自民党は、民主党の仕掛けた「政権交代」の土俵で、同党マニフェスト(政権公約)と政権担当能力を批判をするしかなくなっているが、これでは相手方の宣伝をしているようなものではないか。

争点設定に失敗

 筆者は07年9月27日付EX「福田政権考」(政権交代の跫音(あしおと)が聞こえる)で、こう指摘した。
《党総裁選での福田首相と麻生前幹事長の論戦を見る限り、両氏どちらからも「首相として、これを成し遂げたい」という政策面での明確なメッセージが伝わってこなかった。これでは、次の衆院解散・総選挙は「政権交代の是非(ぜひ)」が最大の争点となり、野党・民主党はとてつもないアドバンテージを得る。与野党が入れ替わる本当の政権交代の跫音が聞こえてきたように思えてならない。(中略)国政選挙の争点設定は、与野党が必死になるべき重要事だ。(中略)状況対応型、調整型の政権運営だけでは、「政権交代」という争点を打ち出せる民主党の勢いを止めることは難しい》
 郵政民営化の是非を問うた05年衆院選とは異なり、内政面で自民党は民主党に変革イメージを譲り渡してしまった。
 鳩山氏は民主党マニフェストで自民党政治を「コンクリートの建物には巨額の税金を注ぎ込む」と決めつけ、「コンクリートではなく、人間を大事にする政治をしたい」と主張した。ハコモノ政治から社会保障重視への転換をうたったものだ。
 ハコモノ建設と世界有数の長寿化の両方を実現した自民党には反論もあるだろうが、民主党の主張は、冷戦終結や少子高齢化による「右肩上がり経済の終わり」に適応しようとするものといえなくもない。
 麻生首相は世界的な経済危機への対応に取り組んできた。ただ景気対策は誰が首相であっても行うもので「やって当たり前」と見られてしまう。せめて09年度補正予算の編成前なら争点にできたかもしれないが、成立後の今では遅い。
 中学卒業まで1人あたり年31万2000円を支給する民主党の「子ども手当」は、財源問題を伴うバラマキ策だが、対象は約1000万世帯に及ぶ。景気後退による収入減に泣く子育て世帯はこぞって投票するだろう。共同体、国家の構成員を増やす少子化対策として、保守を名乗る自民党が採ってもおかしくない政策だったが、硬直化した予算配分を壊せない同党は発想できなかった。

公明党がブレーキ

 民主党大会に国旗・国歌が登場しないことが象徴するように、民主党の最大の問題点は「国家忌避症」だ。これが教育や外交・安全保障政策に歪(ゆが)みをもたらす。
中国の急速な軍拡と北朝鮮の核・ミサイル開発を見れば、安全保障の構造改革が必要なのは明らかだが、民主党はほとんど関心がないようだ。麻生自民党が果敢に行動していれば、民主党のこの弱点を衝(つ)くことは可能だったろう。
 その典型が、憲法解釈を変更して集団的自衛権の行使を容認するかどうかだ。自民党は、衆院選マニフェストで米国に向かう弾道ミサイルの迎撃と、弾道ミサイル防衛で連携する米国艦船の防護などが可能になるよう「必要な安全保障上の手当てを行う」としたが、解釈変更の明記がなく、インパクトは今一つだ。
 今年4月の北朝鮮の弾道ミサイルの発射を機に、麻生首相は行使容認という憲法解釈変更に踏み切ればよかった。大論争が起きたろうが世論を説得し、これを争点に解散して、国民に信を問うてもよかった。
 それをしなかったのは、首相や自民党執行部の意識の問題がある。それと同時に、集団的自衛権の行使に反対する公明党の存在がブレーキになっている。採るべき安全保障政策と公明党・創価学会の選挙協力を天秤(てんびん)にかけ、肝心の選挙に敗れそうな皮肉な構図になっていないか。
(政治部 榊原智)