西原正 (平和安全保障研究所理事長)
 

 一国の外交、特に大国の外交はその国の持つ威厳を体現すべきである。安倍晋三首相は就任以来約15カ月で多くの首脳会談に臨み、積極発言で日本の国際的な存在感を高めた。てこずっている対韓、対中関係そして対米関係でも、担当者は日本外交への自信を深めて乗り切ってもらいたい。

日本外交に自信と威厳を


 自信をもってする外交とは、相手国に対する敬意ある発言と同時に国際道理や国際法などに基づく主張をして、国際社会から尊敬されることである。日本外交は相手国への反論や批判においては常に控えめであり、往々にして自信や威厳が感じられない。

 それでも安倍内閣は過去の内閣に比べ自信や威厳を感じさせる。慰安婦問題をめぐるソン・キム駐韓米大使の対日批判(「日本は元慰安婦に何も補償していない」)、ニューヨーク・タイムズ紙の無責任な記事(「安倍内閣は河野談話を破棄しようとしている」)に対する菅義偉官房長官の反論は見事であった。同紙は訂正記事を載せざるを得なかった。

 今、クリミア半島を武力で併合したロシアに対し、米欧諸国は制裁を強めつつある。日本を含む先進7カ国(G7)緊急首脳会議が主要国(G8)からの当面のロシア除外などを決定したが、日本にとってはまさに、ロシア、韓国、中国との領土問題の本質を世界に知らせる絶好機である。

 ロシア(ソ連)は1945年8月15日以降、日本軍武装解除後、北方領土に軍事侵攻し、日本人島民を追い出して自国領土と主張している。クリミア併合はそのやり口において、北方領土の奪取と酷似している。力による現状変更はそれを禁じた国連憲章第2条第4項に明らかに違反する。

クリミア-四島-竹島-尖閣


 韓国が52年1月に一方的に李承晩ラインを引いて、竹島を自国領にした(その後、同海域に入った日本漁船を武力で追放し、日本漁民に死者も出している)のも、中国が現在、力を背景に尖閣諸島を奪取する動きを見せているのも、同じ違法の構図である。

 日本はこの機会に北方四島、竹島、尖閣に対するロシア、韓国、中国の行動の違法性を効果的にアピールできるのである。

 安倍首相はクリミア併合を非難し、対露制裁の一歩を踏み出して日本外交の威厳を保った。首相が5回もプーチン大統領と会って信頼関係を築いたとはいえ、批判を控え併合容認とみられれば、北方領土の不法占拠を糾弾し返還を求める資格を損なう。日本政府は「アジアにも同じやり方で領土を拡大した国、拡大しようとしている国がある」と言えばよい。

 東シナ海や南シナ海で力による現状変更を進める中国は、クリミア武力併合を非難できる立場にはない。日本はロシアを非難することで、対中非難のメッセージを北京に送ることもできる。

「竹島」(現在の鬱陵島)が記されている「日本国図」
 フィリピンが自国領の島嶼(とうしょ)の領有権の決着を、国際海洋法裁判所に持ち込んだように、日本も尖閣の帰属に関して同裁判所に判断を委ねる方法も検討すべきだ。これは、「日本は釣魚島(尖閣諸島の中国名)の盗人である」といった中国の品のない対日批判よりは、よほど良質の外交である。

 日本政府は竹島の帰属については国際司法裁判所への提訴を用意してきたが、韓国はこれに応じることを拒否している。ここでも、日本は力による現状変更をしない国であることをアピールし日本外交の威厳を高めている。

米国には公正な批判求めよ


 慰安婦や元徴用工などへの賠償は65年の日韓基本条約で解決済みであること、日本はアジア女性基金で慰安婦への補償を試み韓国側が断ってきたことを国際司法裁判所で訴えるべきである。それにより日本の国際法による解決姿勢をさらに強く打ち出せる。

 安倍首相は、朴槿恵大統領には「前提条件なしで首脳会談をしたい」と言ってきた。条件を付ける韓国側よりも優位に立てる姿勢かもしれないが、最低限の条件は付すべきではないか。例えば、ソウルの日本大使館前に建てられた慰安婦像は、外交関係を定めたウィーン条約第22条第2項(「接受国は…公館の威厳の侵害を防止するため適当なすべての措置を取る特別の責務を有する」)に違反する点を強調し、撤去を首脳会談の開催条件とすべきである。日本大使館前を品性を欠く状態にしておくことは、いずれ韓国のイメージダウンになるが、日本人の尊厳にかかわることでもある。

 最後に、米国が日韓、日中関係の悪化を懸念し、安倍首相の言動をしきりに牽制(けんせい)している。最近では、安倍政権が河野談話を再吟味する姿勢を見せたことに対し、自制を促したようだ。米国の仲介的役割は多とすべきであるが、韓国が65年基本条約やウィーン条約に違反した行動をしていることに問題がある点を、米国が理解していないのは公正さを欠く。

 米国が日韓に公正に対処すれば日韓関係の改善に役立つし、結果として法の支配に基づく日本外交に自信と威厳を与える。

(にしはら まさし)