西原正(平和安全保障研究所理事長)

 中国の東・南シナ海における海洋覇権拡大の動きが加速化している。東シナ海における海洋プラットホーム建設も南シナ海の帰属未定の島嶼(とうしょ)や岩礁の人工島化も軍事拠点となる様相が強い。力による現状変更であり、両海域の力の均衡に影響を与える動きだ。ここ数カ月の米国の対中批判は厳しいものになっており、南シナ海ではすでに艦船や偵察機でパトロールをし、中国の妨害に遭っている。

 しかし国会の新安保関連法案の審議を聞いていると、安全保障問題をあまりにも開けっぴろげで議論しており、これで本当に安全保障政策が維持できるのか不安になる。3点提起したい。

機微にわたる質問は控えよ


 まず第1に、一国の安全保障政策とは、軍事的脅威に対して最悪の事態を考慮して対応策を練っておくことである。その対応策を準備するにあたっては、敵性国に知らしめない機密の部分を秘めているのでなければ、効果ある政策にはならない。その意味で政策のどこの部分を公開しないかという戦略的感覚が必要になる。ところが、国会の議論は存立危機事態や重要影響事態がどの地域で起きやすいのか政府の見解を公然と要求したり、またその際、自衛隊はどんな役割を果たすべきかを法律で規制したりしようとしている。

 自衛隊の行動を原則的に法律で規定しておくのは必要であるが、どういう事態に、どこで何をする、あるいはしないを規制するのは、政策の選択肢を狭めることになり、日本の安全を弱めることになる。この辺の戦略感覚が与野党ともに不十分なのは残念である。

 衆議院の審議段階で、野党は「自衛隊の海外派兵はしない」ということを法律に書くべきだと主張したが、これも自衛隊の行動を縛ることになる。今回の法案下では、日本の原則は個別的自衛権の行使に重点をおき、基本は専守防衛にあるが、同盟国ないし友好国との間で集団的自衛権を限定的に行使することにある。民主党などはこの点の原則的理解ができれば、機微にわたる部分の公開での質問は控えるべきである。

機雷掃海の場所明言は残念


 野党は政府に対して「南シナ海で自衛隊は機雷掃海をするのか」とか「朝鮮半島近辺で邦人輸送中の米艦船が武力攻撃を受けた場合は自衛隊は米艦船を守るのか」といった点なども、一定の原則的説明を受けたあとはそれ以上の議論を公開の場ではすべきでない。

 5月28日の衆院平和安全法制特別委員会の議論では、安倍晋三首相自らが「自衛隊が機雷掃海するのはホルムズ海峡であって、南シナ海では想定していない」と明言した。首相は存立危機事態を説明するために例示的に出した方が野党やテレビを視聴している国民の理解を助けると考えてそうした答弁をしたのであろう。しかし中国はこれをどう受け止めるだろうか。中国は「日本は南シナ海では機雷掃海はしないから、自分たちは安心して機雷を敷設できそうだ」と判断するのではないか。

 安倍首相は「自衛隊が南シナ海で機雷掃海をするかどうかについて明言するのは避けたい」とか、「南シナ海で自衛隊がどういう行動をとるかは事態の進展によって決定する」と答弁すべきであった。こうすることで中国などの動きを牽制(けんせい)、抑止できる。

一定の機密性が必要だ


 第2に、首相は南シナ海で機雷が敷設されれば「(スマトラやジャワ島の南を通るなど)さまざまな迂回(うかい)路があり得る」と答弁した。もし南シナ海に機雷が敷設されたとなれば、ほとんどの商船は迂回するであろう。しかし首相は、海上自衛隊は南シナ海で機雷掃海をする必要はないという意味でこう答弁したのである。

共同訓練のため、海上自衛隊のP3C哨戒機に乗り込む海自隊員とフィリピン軍要員=6月23日、フィリピン西部パラワン島のプエルトプリンセサ(共同)
 もし敵性国が南シナ海に機雷を敷設すれば、米軍は日本とともに掃海作戦に臨むことを期待するであろう。その時に、日本が機雷掃海作戦に加わらないとなれば、米国はこれで同盟関係なのかと失望するであろう。同時に自分たちの経済活動や安全保障に影響を与える東南アジア諸国連合(ASEAN)からも苦情が出そうである。

 第3に、米国は南シナ海で日米が合同パトロールをすることに関心があるようだ。こうしたパトロールを実施するには、周辺国の了解が必要になるであろうし、安倍内閣もその必要性を強調している。また艦船は何隻必要になるのか、燃料の補給はどこで行うのか、そしてパトロール隊が敵性国から妨害ないし武力攻撃を受けた場合はどう対応すべきかなどの点を、日米ないし関係国間で協議しておく必要がある。

 幸いフィリピンのアキノ大統領は、自衛隊にスービック湾の軍事施設を使用するよう促している。日米はASEAN諸国、特にベトナムとフィリピンの了解と支持を得て実施することが肝要である。

 安全保障政策の議論には、国民の理解を深めるためにもできるだけ高い透明性が必要であるが、同時に政策の有効性を高めるためには一定の機密性も必要になる。国会議員が戦略感覚をもって法案を審議してくれることを念じたい。

にしはら・まさし 平和・安全保障研究所理事長。京都大学法学部卒業。米国ミシガン大学から政治学で博士号を取得。京都産業大学国際関係論助教授、教授を経て、77年から00年まで防衛大学校国際関係論教授。その間、米国ロックフェラー財団客員研究員、防衛研究所第一研究部長を務める。00年から第7代目防衛大学校長。06年退任、同年6月より現職。ASEAN地域フォーラム有識者グループメンバー。領土・主権をめぐる内外発信に関する有識者懇談会座長。13年産経新聞「正論」大賞受賞。