岡崎研究所

 6月25日付のナショナル・インタレスト誌のサイトに、米下院軍事委員会の海軍・在外米軍問題小委員会議長のRandy Forbes議員と、かつて上院軍事委員会の海軍問題小委員会議長を務め、現在はアメリカン・エンタープライズ研究所で上席研究員を務めるJim Talentが連名で寄稿しています。二人は、オバマ政権は「アジア重視」と言いながら海軍増強を怠っており、この20年間急速な軍拡をはかってきた中国がアジア地域での優位性を築き、自分の意志を周囲に押し付けつつあるので、米国は早急の海軍増強が必要である、と述べています。

 すなわち、オバマ政権のアジア重視政策は、中国の拡張主義を阻むことに失敗しつつある。中国は軍拡を急速に進めており、米国とそのパートナー諸国が足場を強化しない限り、東シナ海及び南シナ海における強圧的な戦術を取り続けるだろう。

 2012年、中国はフィリピン沖のスカボロー礁の実効支配権をフィリピンから奪い、現在同様の戦術をトーマス礁で繰り返している。そして、日本が実効支配する尖閣諸島を海上保安艦艇で埋め尽くし、その周囲を海軍で固めている。中国は東シナ海の大部分を防空識別圏と宣言し、同様なことを南シナ海で繰り返す構えでいる。

 中国はこれら敵対的行為についての交渉を拒絶し、公海やその上空に中国の絶対的な主権を主張して、外国艦船、航空機を脅かしている。

 この背景にあるのは、最近20年にわたって中国が米国から技術を盗みつつ築いてきた軍事力である。その近代的な海軍は300隻の艦船を数え、航空機は数千、近代的な諜報・偵察システム、対人工衛星作戦能力、高度のサイバー戦能力、膨大な量の長距離対艦巡航ミサイル・弾道ミサイルを有し、このほぼ全てを東シナ海と南シナ海に集中し得る状況にある。

 中国は、地域における軍事的優位を築きつつあるので、軍拡を止める必要性も感じておらず、周辺諸国や米国には中国の要求を呑むか、負け戦をするかの選択を迫ることができるようになりつつある。

 米国は、指導力を発揮して、この地域の諸国を団結させ、自らの軍事プレゼンスを中国への抑止力として提供しなければならない。ところが、今のところ、2500名の海兵隊を同地域に移したこと、2020年までに艦船配備を67隻とすることを決めたのみであり、力を誇示するより、弱さを暴露している。しかも、軍事予算削減を続けるなら、米海軍は現在の272隻から250隻程度に縮小してしまうのである。

 米海軍将兵の能力は中国より高く、潜水艦作戦能力でも上回る。しかし中国はこの面での弱さを自覚して、追いつこうとしている。

 今や米海軍は小さくなり過ぎ、アジア太平洋地域に必要な兵力を提供できるようになるには何年もかかる状況にある。この傾向を直すのは容易なことではなく、時間も費用もかかる。しかし実行しなければ、西太平洋でのリスクは高まるだろう。今、努力を開始しなければならない、と述べています。

出 典:J. Randy Forbes & Jim Talent ‘America’s Pivot to Asia : Why Rhetoric Simply Isn’t Enough’ (National Interest, June 25, 2015)

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 ワシントンでは、南シナ海での埋め立てを契機に、中国への警戒感が急速に高まっているようで、本件論評もその一つです。上記論説は、議会両院の軍事委員会の小委員会議長と元議長の連名で書かれたものであるだけに、議論の基調を設定する意味を持ちます。

 中国軍の実力の程度については、やや過大評価している面もあるかもしれません。米議会の諮問機関「米中経済安全保障調査委員会」の報告書では、中国軍は、、統合運用、兵站能力、対潜作戦、近代兵器と在来型兵器の統合運用、近代兵器の操作人員不足等の問題を抱えていると言われます。

 中国海軍は、北海、東海、南海の3艦隊に分かれています。このうち、北海艦隊は天津・北京入口の防衛専用と見られることから、日本に対して用いることのできる海上兵力は東海艦隊のみです。南海艦隊も、対潜能力で劣るため、潜水艦に対して非常に脆弱です。東アジア・西太平洋地域における米軍のプレゼンスは、例えばウクライナをめぐる米軍のプレゼンスよりは比べ物にならないほど大きいので、中国軍がこの地域で優位に立つ状況にはなっていません。

 9月に習近平国家主席の訪米が予定されているため、米中関係がこのまま政府レベルでも対決基調になっていくのかどうかは、まだわかりません。しかし、中国経済の成長鈍化が進む中、米国が対決姿勢を強めれば、中国は経済不振の中で軍拡競争を米国に強いられて自滅したソ連の二の舞になりかねません。

 中国では、習近平政権が指導権を確保したと見られること、9月に訪米を控えていること、経済不振の中で周辺諸国と対立するのは望ましくないことから、日本、ASEAN諸国等に対して関係を改善しようとする動きが見られます。日本には、米国に逆らってでも中国との関係を進めるよう求める声が出てくるかもしれませんが、そのようなことをすれば、米中関係が好転した時、日本は米中双方から疎外されかねません。日中関係修復は、自己目的ではなく、米国と十分調整しつつ進めていくべきものでしょう。