皮肉なことに、憲法が争点となっていない今回の衆議院議員選挙が将来、憲法改正への道を開いた選挙になったと言われるようになるかもしれない。党内に“護憲”勢力を抱え憲法問題に消極的な民主党は、“護憲”政党の社民党と連立政権を作る予定で、憲法問題はストップするというのが大方の予想だ。だが、中期的には、今回の衆院選は憲法改正の環境を整える側面がありそうなのだ。

定数削減の効果

 民主党の衆院選の政権公約(マニフェスト)は憲法について「(民主党は憲法問題を)慎重かつ積極的に検討していきます」としている。悪い国会答弁の見本のようで、この党が憲法を改正したいのかどうかも分からない。
 だが、保守系の地方議員や有識者らでつくる「日本国民フォーラム」(代表・米田建三帝京平成大教授)の平田文昭事務局長(49)は次のように指摘する。
 「自民党や民主党の衆院選のマニフェストに盛り込まれている国会議員の定数削減が、憲法改正につながっていく。衆参両院で、憲法改正原案の発議に必要な3分の2以上の勢力を形成しやすくなる効果がある」
 衆院議員の総定数は480、参院議員は242だ。
 自民党はマニフェストで「次回の総選挙から衆院議員総定数の1割以上を削減」
 「10年後には衆参両院議員総定数の3割以上の削減を目指す」とした。民主党は「衆院の比例定数を80削減する。参院は選挙制度の抜本的改革の中で、衆院に準じて削減する」ことを掲げた。
 民主党と連立する社民党は、衆院比例定数80削減に反対だ。しかし、どの党が政権党になっても、いずれ税金や社会保険料の負担増は避けられない。「政治」は国民に身を削る姿勢を示さねばならず、国会はいやいやでも、まとまった数の定数削減を行うことになるだろう。
 また、民主党はマニフェストに盛り込んではいないが、岡田克也幹事長(56)は8月13日の記者会見で、現在は20歳以上の選挙権年齢や成人年齢の引き下げについて「政権交代が実現すれば、早急に作業を進めていきたい」と、必要な法整備に取り組む考えを示した。
 憲法改正のための国民投票法は本則で、投票権年齢を18歳以上としている。だが、選挙権年齢や成人年齢が引き下げられるまでは、投票権年齢を20歳以上に据え置く条件付きだ。岡田氏の言う通りに進めば、これも環境整備となる。

自公連立の解消

 一方、自民党は麻生太郎首相(68)の指示で、マニフェストに同盟国米国をねらう弾道ミサイルの迎撃と米国艦艇の防護のため「安全保障上の必要な手当て」を行うと記した。政府の憲法解釈を変更し、これまで禁じてきた集団的自衛権の行使に、一部だが踏み切ることを意味する。
 ただ、自民党はマニフェストに憲法解釈の変更という直截(ちょくさい)的な表現は採らなかった。筆者は7月31日のマニフェスト発表時の記者会見で、麻生首相に「集団的自衛権の憲法解釈を変更するという意味でいいのか」と質問したが、首相は明確な返答を避けた。これでは憲法が争点になるはずもない。
 このような中途半端な対応は、自民党内に慎重論があるのに加え、公明党との連立が原因となっている。自民党は、国会対策上の理由で公明党、選挙対策上の理由で公明党・創価学会の支援に頼ってきたため、彼らが嫌う憲法改正、憲法解釈変更に踏み切れなかったわけだ。
 東アジアの安全保障情勢を考慮するだけでも憲法改正、せめて集団的自衛権の行使にかかわる解釈改憲は急務と思われるが、自民党は正面から国民や公明党・創価学会を説得する努力を怠ってきたのだ。
 国民投票法は凍結期間の3年を終えて来年5月18日に施行され、当選する衆院議員らは憲法問題に、いや応なく向き合うよう迫られる。
 野党間で「連立野党」などは存在しない。衆院選の結果、自公両党が下野すれば連立関係は解消となる。自民党にとっては、立党の精神に立ち返って、憲法についてはっきりした主張を行うチャンスとなる。2大政党の片方の憲法問題への意識が高まるとしたら、民主党政権ができても永久ではない以上、憲法改正にとって前進とならないか。
(政治部 榊原智)