米国訪問中の鳩山由紀夫首相(62)は、中国の胡錦濤(こ・きんとう)国家主席(66)や米国のバラク・オバマ大統領(48)と相次いで会談、国連総会や国連気候変動首脳会合で演説するなど、鳩山首相は華々しい外交デビューを飾った。報道各社や世論の受け止めは総じて好意的で、国内政治的には成功したと言っていい。平野博文官房長官(60)は9月24日の記者会見で「全体的には鳩山外交は、順調にデビューしたと私自身感じている」と胸を張った。だがこの訪米が、鳩山首相や民主党の外交・安全保障の分野における危うさを浮き彫りにしたことは否めない。
 日中首脳会談で、首相は「日中両国がお互いの違いを乗り越えて信頼関係を構築し、それを軸に東アジア全体の共同体を構築していきたい」と、「東アジア共同体」形成を提案した。 

中国政府に友愛精神?

 首相は日中会談後、記者団に「自分の描いている友愛関係に基づく国際関係を申し上げた」と語った。
 ただ会談で首相は、胡氏がチベット問題を持ち出したのに対し「当然、内政の問題と理解している」と応じ、「それだけに、対話を通じて見事に解決していただくことを期待したい」と伝えた。
 首相は野党時代、インド亡命中のチベット仏教最高指導者、ダライ・ラマ14世が来日するたびに会談し、中国側は不快感を示してきた経緯がある。その首相にしては、会談での発言は中国政府への「友愛」に傾いているようだ。チベット同様、中国政府の弾圧にあえぐウイグルの人々への言及もなかった。胡氏は会談後、首相の甘さに笑いが止まらなかったのではないか。
 経済的な利害問題なら日中両国が互いに乗り越える努力を払えばいいが、人権・人道問題は、民主主義の日本が譲ることはない。共産党治下の中国に乗り越える努力を強く促すべきだ。チベット、ウイグル問題を等閑視し、東アジア共同体を語るのは「友愛外交」とも矛盾しないか。対中外交のカードを手放すことでもある。 

ワシントン体制の轍(てつ)を踏むな

 そもそも「東アジア共同体」は、場合によっては日本の安全を損ないかねない構想だ。
 首相は民主党代表として月刊誌「Voice」9月号へ寄せた論文で「『友愛』が導くもう一つの国家目標は『東アジア共同体』の創造であろう」「アジア太平洋地域に恒久的で普遍的な経済社会協力及び集団安全保障の制度が確立されることを念願」していると強調した。
 「アジア」「共同体」という言葉は魅力的に響く。けれども、国連を見ても分かるように、国際的な機構、多国間の外交的な枠組みに、戦争などの紛争防止や解決を期待できないことに気づくべきだ。
 歴史の教訓もある。日本は大正期の1921年に4カ国条約(日米英仏)を、22年に海軍軍縮条約(日米英仏伊)と9カ国条約(日中米英仏伊蘭、ベルギー、ポルトガル)を結んだ。4カ国条約は太平洋での領土、権益の相互尊重を、9カ国条約は中国の門戸開放・機会均等・主権尊重の原則を確認。これをワシントン体制と呼ぶが、戦後の日米同盟に匹敵する日英同盟は解消された。多国間の枠組みの中で日本の孤立化は始まった。
 国家、国民の安全保障は、自国の防衛努力と大国間の同盟でしか担保されないことや、日本にとっての脅威は大陸勢力であるロシア、中国、北朝鮮であることをわきまえた方がいい。
 首相がオバマ米大統領と「日米同盟は安全保障の基軸」だと確認し、岡田克也外相(56)はクリントン米国務長官(61)に「30年、50年たっても持続可能な、深みのある日米関係を構築したい」と語ったのは正しい。首相が米軍基地をめぐって、自民党の歴代首相が示さなかった問題意識を持っていることは一定の評価ができる。
 けれども今回の訪米で、首相は日米同盟を強化していく具体的方向性を示すことはなかった。これでは首相の追い求める「対等な日米関係」はおぼつかない。 
(政治部 榊原智)