鈴木友也(スポーツマーケティングコンサルタント)

 高校野球が今年で100周年を迎えました。日本の夏の風物詩と言えば、多くの人が甲子園を挙げるに違いないでしょう。それだけ、高校球児の紡ぎだす物語は日本人の心を捉えて離しません。

 かくいう私も、物心ついたときから野球を始め、子供の頃の夢は「プロ野球選手になること」。高校では甲子園を夢見て毎日グラウンドで泥まみれになっていました。もう25年ほど前の話です。

 私は、現在米国に拠点を置きながら、日本のスポーツ関連組織の経営アドバイザーのような仕事をさせて頂いています。米国のスポーツ経営に関する最新のノウハウや優良事例を紹介しながら、お客様の経営課題解決のサポートをしています(何の因果か、高校時代はあれほど遠かった甲子園にも、仕事で訪問する機会に恵まれました)。

 本稿では、日米の高校スポーツの現状を比較することで、日本のアマチュアスポーツ界の特徴を整理し、改革の必要性が叫ばれる日本の高校野球界にとって参考になる取り組みをご紹介しようと思います。

日米高校スポーツの競技運営の違い


 米国で高校野球のみを管轄する日本の高校野球連盟に相当する組織は存在しませんが、それに近いのが全米州立高校協会(National Federation of State High School Associations=NFHS)です。NFHSは、米国内の高校スポーツを統括する組織で、18のスポーツ競技やその他文化活動(音楽や演劇、ディベートなど)のルール策定や安全対策などを進めています。このNFHSの傘下に各州の高校スポーツ協会が組織され、州ごとに自治されているイメージです。

 日米の高校スポーツの組織構造や運営形態を比較すると、主に以下の3つの違いが挙げられます。

 まず、組織構造です。日本は競技ごとに連盟が組織される「競技縦割り型」ですが、米国では前述のNFHSのように「競技横断型」のスポーツ管轄組織が設置されているのが特徴的です。これは、日本では基本的に1つのスポーツを選択して1年中競技を続ける「部活制」が主流なのに対して、米国では季節ごとにプレーする競技を変える「シーズン制」がベースになっているためと思われます。

 私も元高校球児だったのでよく分かりますが、日本では野球部の部員は元旦以外は一年中野球をやっている感じでしょう。これに対して、米国では、春夏は野球や陸上、秋はフットボール、冬はバスケットボールやアイスホッケーといった形で季節によりプレーする競技が変わります。競技間の「共存」が大きなテーマになるため、競技ごとに練習を開始できる時期や一日の練習時間などが厳しく制限されます。こうした競技間の調整を行う必要があるため、競技横断型の組織が必要となるのです。

 2つ目の違いは、競技運営方式です。日本では、甲子園大会のように全国規模の大会がトーナメント制で実施されるケースが多いですが、米国の高校スポーツでは全米規模の大会はなく、州レベルが最大の大会となります。また、運営も州内のリーグ戦が基本となり、その中で一部の上位校だけが決勝トーナメント(プレーオフ)に進出します。

 そのため、日本では基本的に1回負けるとそれでシーズンは終わりになってしまいますが、米国の高校野球では、(詳細は州や所属学区によって異なりますが)3月から5月位にかけて少なくとも20試合前後の公式戦が開催されます。

 3つ目の違いは、階層構造の有無です。日本の高校スポーツに階層構造はあまり見られませんが、米国では高校の生徒数に応じて所属ディビジョンが細かく区別されます。例えば、ニューヨーク州であれば、NY州公立高校スポーツ協会(NYSPHSAA)は以下の5つの「クラス」を設定しています(集団競技の場合)。
 生徒数に応じて所属クラスを分けるのは、生徒数の多い学校の方が上手な生徒が集まる可能性が高いからです。また、このクラス内で更に「バーシティ」(一軍)、「ジュニア・バーシティ」(二軍)、「フレッシュマン」(1年生)などレベル分けされており、別々のリーグ戦が同時並行で開催されます。チームに登録できる選手数も競技ごとに厳密に定められています。フェアネス(公平性)の精神は、単にグラウンド上での正々堂々としたプレーに留まらず、平等な条件での競争を担保する制度設計にまで及ぶのです。

「形式美重視」と「楽しさの追求」


 ここまでは、日米の高校スポーツの組織構造や運営形態といった「目に見える違い」について述べてきましたが、日米のアマチュアスポーツの違いを生み出す「目に見えない違い」についても言及してみようと思います。「スポーツをする目的」の違いについてです。

 今年1月、カリフォルニア州の高校女子バスケットボールの大会で、161対2と大勝しすぎた学校の監督に出場停止処分が課されるという珍しい事件がありました。大差がついても相手チームにプレッシャーをかける“オールコートプレス”を使い続けた行為が「スポーツマンらしからぬ行為(Unsportsmanlike conduct)」に当たるとして、2試合の出場停止処分が下されたのです。

 私もその昔、弱小高校の野球部員だったので分かりますが、日本では、「手を抜かずに最後までやるのが礼儀」という価値観がある程度共有されているように感じます。負けていても、途中から二軍相手で適当にあしらわれるよりは、一軍にコテンパンに負ける方が美徳とされるような文化がありますよね。

 これに対して、米国では、事実上勝負がついたら後は適当に力を抜いて相手の顔を立ててあげるのが良しとされる文化があります。私は今でも日本人でフラッグフットボールのチームを作り、地元リーグに参戦してアメリカ人相手に試合をしているのですが、大勝しすぎると審判から「適当に手を抜いて相手にも楽しませてやれ」と注意されます。

 この違いは、恐らくスポーツをする目的の違いにあるのではないかと感じます。スポーツが教育の手段として根付いている日本では、「ルールを守ること」が美徳とされ、「最後まで手を抜かずに相手をする」「胸を借りて大敗する」という形式美が重視されているように思います。

 一方、米国ではスポーツは「競争」と「娯楽」を目的とするため、「競い合って楽しむこと」が大事とされるように感じます。そのため、前述した徹底した「フェアネスの精神」とともに、「楽しめる環境」の整備が重視されています。そのように位置づけの違いを整理すると、トーナメント制を採用しないことや、階層制を導入したり登録選手枠に上限を設ける真意も見えてくるように思うのです。

 つまり、これらはいずれもスポーツを「競い合って楽しむ」ための前提条件の整備なのです。1回負けたらシーズンが終わってしまったり、強すぎる相手と対戦したり、部員が多すぎて試合に出られないのは、楽しくスポーツを行える環境とは言えません。

“日本化”が進みつつある米国アマスポーツ


 組織構造や運営形態、目的などにおいて違いがある日米のアマチュアスポーツですが、米国のアマチュアスポーツ界(特に小・中学校などのユーススポーツ)でも近年“日本化”とも呼べる現象が起こっており、その変質が指摘されています。

 前述のように、米国では季節により競技するスポーツを変える「シーズン制」が採用されています。しかし、ここ10年弱で若年層からこのシーズン制が崩れ始め、プレーするスポーツを1つに絞る傾向が強まってきているのです。

 その背景には、「世界的金融危機(いわゆる“リーマン・ショック”)」と「スポーツビジネスの若年化の進展」が挙げられます。金融危機に際しては、多くの金融機関が「Too Big To Fail(大きすぎて潰せない)」との理由で救済されました。その際、多額の公的資金が投入されたことをご記憶の方も多いのではないかと思います。

 実はこれにより、連邦政府から州政府への補助金がカットされました。それに伴い、従来まで地元のリトルリーグなどでは、グローブやバットなどの備品購入には地方自治体からの助成金が出ていたのですが、この額がカットされたのです。

 カットされた分の負担は、そのまま家庭に転嫁されます。懐を痛めるからには、親もその見返りを求めるようになります。「スポーツビジネスの若年化の進展」がこれに拍車を掛けました。今や高校スポーツの専用TVチャンネルが誕生し、たった10日間のリトルリーグの世界大会(リトルリーグ・ワールドシリーズ)の放映権に6000万ドルの値が付く時代です(ESPNとの8年契約の総額)。

 こうして競技選択の「専門化」とスター選手の「若年化」が進展します。より若い時から競技を絞り込み、プロ顔負けの専門的なコーチングを受け、合宿に参加してスキルアップを目指し、「明日のスター選手」を目指すのです。

 実はここには大きな矛盾があります。単一競技をプレーし続ける方が、複数競技を選択的にプレーするよりも、運動選手としてバランスの取れた発育が遅れ、怪我やバーンアウトのリスクが高まることが分かっているからです。しかし、こうした専門的な知見を知る親は限られ、多くはビジネス化の進展の波に飲み込まれていくのです。

 こうした背景により、今、米球界では日本と同様に若年層での怪我の頻発が大きな問題になっています。松坂大輔選手や田澤純一選手、ダルビッシュ選手らが受けたひじの靭帯再建手術(通称“トミー・ジョン手術”)を受ける高校生の数も急増しています。

問題解決に積極的な米球界


 事態を重く見たアメリカスポーツ医学研究所(American Sports Medicine Institute=ASMI)は、「投げ過ぎによる疲労蓄積が投手の怪我の主な要因である」として、青年期の投手に対して以下の9つの指針を示しています(ASMIは、トミー・ジョン手術の権威として知られるジェームス・アンドリュース医師が設立した非営利研究機関)。

・投手の疲労具合に注意を払い、疲労の兆候(球速の低下、コントロールの悪化、投球動作での肘の位置の低下、投球間隔の長期化)が見られたらすぐに交代させる
・1年間で最低2~3か月(できれば4か月が望ましい)はノースロー期間を持つ
・いかなる時も1試合に100球以上投げない
・投球数に応じた休息をきちんと取る
・複数チームの掛け持ちによるシーズンの重複を避ける
・優れた投球動作をいち早く身に付ける
・スピードガンの使用をやめる(※不要な全力投球につながるため)
・捕手としてはプレーしない(※休息日の投手に捕手をさせるケースが多いため)
・投手が肘や肩の痛みを訴えた場合、スポーツ専門医の指示を仰ぐまで投げさせない。野球や他のスポーツを楽しむように促し、多競技への参加が選手の運動能力向上とスポーツへの興味維持に寄与することを理解する

 また、ASMIはコーチや親向けに投球ガイドラインや投球数に応じたアドバイスを表示するスマホ向けアプリ「プロ野球選手のように投げよう(Throw Like a Pro)」も監修しています。アプリでは、ウォームアップや練習での注意事項に加え、独自の投球数カウンターも用意しています。年齢を選択してカウントを開始すれば、球数に応じて必要な休息期間が自動表示される上(スクリーンショット左)、投球数が上限に達すると即座に投球を止めるように警告が表示されます(同右)。
参考:「プロ野球選手のように投げよう」のスクリーンショット
 また、昨年11月には米メジャーリーグ機構(MLB)が米国野球連盟(USA Baseball)とともに若年層の野球選手や、コーチ、親などを対象にした啓蒙プログラム「ピッチ・スマート(Pitch Smart)」を開始しています。この中では、年齢別に練習での注意事項や投球ガイドライン(投球上限や必要休息期間など)も示されています。
 対照的に思える日米両国のアマチュアスポーツ界ですが、意外にも若年期における「競技特化」や「怪我の頻発」という点で共通の問題を抱えています。その中には、日本の高校野球界も参考にすべき取り組みが少なくないように思います。

すずき・ともや ニューヨークに拠点を置くスポーツマーケティング会社「トランスインサイト」代表。1973年東京都生まれ。一橋大学法学部卒、アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)を経て、米マサチューセッツ州立大学アムハースト校スポーツ経営大学院に留学(スポーツ経営学修士)。日本のスポーツ組織、民間企業、メディア、教育機関、自治体などに対してコンサルティング活動を展開。講演、執筆でも活躍中。