人権を取り戻して武器とせよ


島田 全体主義体制や専制抑圧国家と戦ううえで大切なのは、人権です。物理学者でソ連の反体制人権活動家として有名だったアンドレイ・サハロフに「人権問題は国内問題ではなく国際問題でもある。自国民の人権を尊重しない体制が他国の権利を尊重するはずがないからだ」という言葉があります。中国のような人権抑圧体制を放置することは、日本やベトナム、フィリピンに対する権益侵害、つまりは侵略を許すことになる。その意味でも中国は自由・民主化あるいは分割民営化ならぬ地域の文化や自律性をも重んじた民主化をさせるべきであり、それは可能なのだという発想を持たねばなりません。

西岡 新たなデタント派は、中国は共産主義を捨てて市場経済を導入したのだから民主化するはずだ、賃金の安い労働力も利用できるし市場としても魅力があるのだから共存すべきだと言い続けてきました。トウ小平の微笑路線に騙されてきたわけです。

 しかし、ファシズム人権抑圧体制下の市場経済では、国民は実質的奴隷労働を強いられることになる。実際に中国はたいへんな格差社会になって国民全体の福祉向上にはつながっていません。アパルトヘイト政策を採っていたかつての南アフリカの奴隷労働によって製造された安い製品と同様、普遍的人権の観点から、経済に短期的にマイナスになっても中国と距離を置くという議論をするべきです。日本の長期不況の一つの要因は中国に生産施設をどんどん移転したことですから、その点でも中国との関係を見直すべきなのです。

島田 中国は市場経済化したのではなくて、ファシズム体制下で市場経済の要素を導入しただけです。いわゆるクローニーキャピタリズム、縁故資本主義に過ぎない。だから共産党幹部ら一部に富が集中して激烈な格差が生じている。自由公正な競争がないから、イノベーションも中途半端で技術力が高まらず、最新のイノベーションはアメリカや日本から盗む。かつてソ連がある程度経済を維持できたのも、最新テクノロジーを産業スパイで盗んでいたからです。つまり資本主義のエネルギーを産業スパイという形で不正導入することで生き残りを図ってきた。この体制はやはり潰さないといけない。

江崎 それはアジア全体の利益でもあります。平成8年ごろ、インドネシア陸軍大学の元学長と話していて、「日本はアジアのために何をしたらいいですか」と尋ねると、「中国に対する援助をやめてくれ。中国の拡張主義を日本が応援することで、東南アジアは中国の支配下に陥る。それだけはやめてくれ。余計なことしてくれるな」と厳しい口調で即答されたのを覚えています。

 実際に日本は中国を経済的に肥大化させることで、結果的に東南アジアの産業を潰してきました。インドネシアやベトナムの靴、衣料産業がそうです。日本には現在のような歪んだアジアの経済状況を是正する責任があります。

 オバマ政権で親中姿勢が顕著なアメリカですが、その内情は一枚岩ではありません。レーガン大統領の流れを汲んだ安倍首相のような考え方の政治家が確かにいる。アメリカ軍、特に太平洋軍の中にも、中国の拡張主義と戦おうと考えている人たちがいる。しかし肝心の日本がこれまでデタント思考で旗幟鮮明にしないできたために、慰安婦問題も含めて本当の意味でのアメリカの味方を引き込むことができていない。

 安倍首相が今年、談話を出すのであれば、中国の拡張主義に警戒心を持っているアメリカの保守派やアジア太平洋諸国を味方にするようなメッセージこそ必要です。具体的には、「我々日本は人権、自由、民主主義という価値を守るため、アメリカやASEAN諸国と共に、共産主義陣営あるいは全体主義抑圧体制と戦ってきた」という冷戦を見据えた談話を出すべきです。その上で同時に日本はアメリカやASEAN諸国だけでなく、インドやオーストラリアなどとも連携して今後ともアジアの自由と民主主義と人権を守る責任を果たすことも打ち出すべきです。

西岡 70年談話で第二次世界大戦について触れるのであれば、現在も続く自由・民主主義の戦いという観点で、スターリンとヒトラーという二つの「悪」にアメリカと日本が分かれて同盟し、お互いに戦ってしまったという悲劇的が過去にあったという点で、日本の誤りや敗北を認めてもいいかもしれません。

 一方、安倍首相が内外の反日勢力から継承を迫られている村山談話には、自由・民主主義の戦いについて何も書かれていません。村山談話は、自分たち社会党が、日米安保に反対したり自衛隊が憲法違反だと言っていたりしたことや、ベトナム戦争でアメリカは侵略者だと言っていたことをごまかすために、過去の日本の「悪」を意図的にフレームアップしたのではないか。

 人権で言うと、安倍外交によって国連人権理事会に北朝鮮の人権問題や拉致問題の調査委員会ができ、北朝鮮の人権抑圧は人道に対する罪だという報告書が出され、金正恩の国際司法裁判所(IOC)での訴追をも可能にする「北朝鮮人権決議」が昨年12月に国連総会で採択されました。土壇場の安保理でIOC付託に反対したのが、まさに今年、「反ファシズム戦争勝利70年」記念行事を開く中国とロシアです。

 人権理事会は反日勢力、左翼の独壇場で、毎年のように日本が慰安婦問題で北朝鮮や韓国から非難されてきました。これは歴史問題の縮図であって、70年前の話をするなら70年間全体を取り上げるべきなのに、日本は70年前を謝ることで蓋をしようとして、誹謗中傷され続けてきたわけです。

 だからこそ、70年前だけをいう歴史の枠組みに与してはならない。戦後70年間、どちらの側が収容所をつくって人権を抑圧し、いまも抑圧しているのかを問うべきです。

江崎 人権の理念を左派リベラルから取り戻さねばならない。冷戦の敗北で日本社会党も大きなダメージを受けましたが、そこで彼らは党内に「国際人権研究会」という組織をつくり、弁護士の戸塚悦朗氏らと共に国連人権委員会で慰安婦問題などを提起したのです。日本の「戦争犯罪」をでっち上げ、人権問題と結び付けて政治問題化することで、ソ連や中国、北朝鮮の深刻な人権弾圧を隠蔽した。日本の過去の問題で騒いで現在の問題を隠蔽するという手法で彼らは一貫しています。

島田 左派リベラルには知的羞恥心というものがありませんからね。レーガン大統領を「戦争屋」だの、すぐに拳銃の引き金を引く「トリガー・ハッピー」だ、核のボタンを押したがる「ボタン・プッシャー」だのと非難していた勢力が、今やしばしばレーガンを「一発も撃たずにソ連を巧みに崩壊させた」と評価する。狙いは、テロとの戦いを進めたブッシュ・ジュニア共和党政権を「トリガー・ハッピー」だと非難することにあるわけですが、レーガンを引き合いに出すあたり実に厚顔です。

 定見のない左派リベラルの誹謗中傷など気にせず「ソ連は悪の帝国だ」と力強く打ち出し、抑圧体制の被害者を鼓舞したレーガン大統領のように、安倍首相には「中華人民共和国こそファシズムの典型だ」と大いに口にしてもらいたい。これは知的に正しい議論です。「反ファシズム戦争勝利」を言い立てる中国共産党の欺瞞に反論する国家リーダーがいないような国際社会にしてはなりません。

西岡 議論をまとめます。ソ連崩壊で終わった冷戦第一期においては、勝利した自由・民主主義の陣営で日本も戦った。しかしアジアの冷戦はいまも続いている。中国ファシズムに対する自由・民主主義の戦いというこの第二期冷戦の主軸は日本であるべきだが、冷戦を隠蔽して日本だけを「悪」とする戦後七十年史観の罠にはまっていては正しく戦えない。冷戦を見据えた新たな歴史観の枠組みを提示すべきだ、ということですね。

江崎 今日は話題にできませんでしたが、私は、日本にとっての冷戦はわが国に共産主義思想が押し寄せてきた大正期に始まり、大東亜戦争に影響を与えて現在も続いていると考えます。2017年はロシア革命100年、2019年は世界革命を目指した国際組織コミンテルン創設百年です。戦前・戦中も含めてこの100年を見通した「100年冷戦史観」とでも言うべき歴史観の確立に向けて、今後も議論させていただきたいと思います。