宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発した新型固体燃料ロケット「イプシロン」初号機の打ち上げが9月14日、成功した。小惑星探査機「はやぶさ」を積んだ「M(ミュー)5」ロケットの2006年の打ち上げ以来途絶えていた固体燃料ロケットが7年ぶりに復活したことになる。

 宇宙開発を前進させる技術革新や小型衛星を比較的低コストで打ち上げる道を開いたことが意義とされる。ただ、意図せざる結果ではあるが、イプシロンが日本の平和に貢献していることも知っておいた方がいい。その証拠に、韓国や中国のメディアから、大陸間弾道ミサイル(ICBM)に転用可能ではないかと警戒する声が挙がっている。

ICBM転用に警戒

 共同通信によると、中国の国営中央テレビは14日、「イプシロンの技術は弾道ミサイル製造に転用できるため、軍用目的についての臆測を呼んでいる」と伝えた。韓国の有力紙「朝鮮日報」電子版も14日、「ICBMへ転用可能」と報じた。この電子版には、8月22日にも、イプシロンを日本の軍事大国化の一例とする記事が掲載された。

 戦後、自国の平和を損なうほど過剰な「平和主義」をとってきた日本に対して、よくここまで言えるものだとは思う。日本にICBMを持つ意図はない。

 そもそも政府は、憲法9条によって「性能上専(もっぱ)ら相手国国土の壊滅的な破壊のためにのみ用いられる、いわゆる攻撃的兵器を保有することは、直ちに自衛のための必要最小限度の範囲を超えることになるため、いかなる場合にも許されない。ICBM、長距離戦略爆撃機、攻撃型空母の保有は許されない」(2013年版『防衛白書』)との立場をとっている。

 防衛省自衛隊は、C4ISR(指揮・統制・通信・コンピューター・情報・警戒監視・偵察)や衛星防護の分野で、宇宙利用を進めているが、そこまでだ。

 そんなことを百も承知の近隣諸国から警戒の声があがるのは、固体燃料ロケットの技術が、核兵器の運搬手段であるICBMや中距離弾道ミサイル(IRBM)などを開発するための中核的技術でもあるからだ。ロシアは戦略ロケット軍に配備していたICBMを、人工衛星打ち上げロケットへ商用転用している。

侮られないための保険

 宇宙ロケット、特に固体燃料ロケットの技術は、発射が迅速にできることなどから、弾道ミサイルと裏表の関係にある。筆者は、2013年1月5日の「安倍政権考 維持された核オプション」でも記したが、自前の技術に基づく平和利用のための原発は、核オプション-核武装するかどうかの選択の自由-を担保している。それと似た構図であり、固体燃料ロケットの技術は核オプションの構成要素でもある。

 日本の固体燃料ロケットには長い歴史があり、イプシロンが初めてではない。1963年にはL(ラムダ)ロケットの最初の打ち上げに、70年にはLロケットで人工衛星の軌道投入に成功した。60年代後半以降、日本は核兵器およびその運搬手段であるICBMなどの製造能力を潜在的に持つ国だと見なされてきた。

 イプシロンの安全保障上の意味合いは、核オプションを構成する固体燃料ロケット技術を日本が持ち続けることを意味する。そこで、近隣諸国がICBMを連想したのだが、これは日本にとって悪い話ではないかもしれない。

 日本は非核兵器国であり、米国の核の傘に依存している。核の傘を日本へ真剣に差し掛けるよう米国に促すためにも、その他の核兵器国や非友好国が日本をこれ以上侮らないためにも、平和利用の原発・宇宙開発の副産物である核オプションという保険はあった方がよいだろう。
(論説委員 榊原智)